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短編集 【L'Oiseau bleu】

麒麟と九尾と一角と 19

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「……はあ? やっぱりか……。あいつ。過保護にもほどがある。……まあな。ああ。……わりいな。じゃあ」

 視界に入れておくのが落ち着かなくて、手紙を持ってきていたトートバッグにしまったところで、和臣の電話も終わったようだった。

「そっちの話も終わったか? じゃ、いくか」

 電話を切った途端、息もつかずに座っていた簡易ベッドから立ち上がり、和臣が言う。

「え? どこへ?」

 話の流れが読めずに翡翠は聞き返した。しかし、状況が分かっていないのが翡翠だけなのは明白だった。
 何も言わずに大泉医師は机の上を片付け、書類の束を一青に渡す。一青は翡翠を立ちあがらせて、大泉医師から書類を受け取って、翡翠のトートバックにそれを入れた。

「海斗に会いたいんだろ? 運がいいな。今日はこのドームに来てるらしいぞ」

「え?」

 和臣の言葉に大泉医師と一青は多分そう言うだろうとはわかってました。と、苦笑する。だからこその帰り支度だったようだ。

「N駅前の黎明月の事務局の前あるミラノっていうレストランに呼んだ。1時間以内に来いっていっといたから、食事しながら待とう。あいつの奢りだ」

 一部上場企業の代表取締役を、電話一本で呼びつけて、一時間以内に来いとかヤンキーの先輩後輩みたいな命令をした挙句、奢らせるという暴挙に唖然としているうちに話はまとまってしまったようだ。と、いうより、一青はおろか、大泉医師さえ口をはさむことはできなかった。

「翡翠。お前は痩せ過ぎ。腹いっぱい食わせてやるから、覚悟しとけ」

 こうして、戸惑うばかりの翡翠を置き去りにして、何の心構えもないまま、業界最大手といわれる一流企業の取締役との会見は決まってしまったらしい。それは、翡翠が一青と契約して僅か三日目の出来事だった。
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