【完結】王宮の飯炊き女ですが、強面の皇帝が私をオカズにしてるって本当ですか?

おのまとぺ

文字の大きさ
11 / 45

11 おはようございます

しおりを挟む


 ちゅんちゅんちゅん。

 心地良い鳥の鳴き声が聞こえる。

 ああ、最近もこういう朝があった気がする。
 なんだかデジャヴのようだ。

(ん~~健やかな一日は穏やかな朝からね)

 むにゃ、ともう少し惰眠を貪ろうと寝返りを打った瞬間。何かやたらと固い壁に激突した。壁に顔をぶつけるなんて自分はいったいどんな酷い寝相をしているんだ、と絶望しながら上体を起こす。



「ほぎゃっ………!」

 壁だと思ったものは実際、人間だった。
 しかもかなりよく知っている相手だ。

「へ、へへへ、陛下……!?」

 スヤスヤとまだ夢の中を彷徨う横顔はいつもより幼く見える。あの威圧感のある双眼が瞼の下に隠れているせいだろうか。まだ二十代の彼は、体格と恐ろしい表情も相俟って実年齢より上に見えることがほとんどだ。

 よし、記憶を整理しよう。

 自分の馬鹿げた格好を見るに、おそらく昨日の珍プレイは実際に起こったこと。ネロのネロが押し入って来た恐怖故に意識を飛ばしてしまったのだ。

 こんな状態を使用人に見つかるわけにはいかない。
 それはすなわち、職を失うことを意味する。

 サイドテーブルに置かれた銀の時計は五時を示している。幸いにも今から部屋に戻って準備をすれば間に合うはず。先ずは着替えを済ませてこの部屋から脱出せねば!


 そろり、と足を床に着いたろころで後ろからグンッと腕を引かれた。

「っわわ……!?」

「何処へ行く気だ?」

 振り返ると閉じた瞼はそのままに、眉間に皺を寄せた皇帝の御尊顔。

 オリヴィアはあたふたとしながら、自室に戻る旨を伝えた。しかし、君主様はオリヴィアの腕を離してくれない。それどころかもう一方の腕がぐるりと前に回されて巻き付いた。まるで「逃がしはしない」という風に。

「部屋に戻るのです!仕事がありますから」

「つれないことを言うな。もう少しそばに居ろ、抱き枕が居なくなれば眠りの質が悪化する」

「私の本業は料理人ですよ……!?」

 もはや聞こえていないのか、ネロからは何の言葉も返って来ない。

 彼には悪いけれど、こんな場所で時間を潰して出勤が遅れることなどあってはいけないので、オリヴィアは枕にタオルを巻いてネロの隣に並べてみる。これで代替品の代わりにでもなってくれれば、と願いながら腕の中を抜け出した。

(………せ…セーフ!)

 部屋の主が目覚めないことを確認して、あたふたと着替えを済ませると廊下へと飛び出す。

 眠りを妨げられたくないから夜間は部屋に人を近付けない、というネロの説明は本当のようで、広々とした廊下にはまだ人が居ない。遠くの方で談笑するメイドの姿を見つけたので、慌ててオリヴィアは角を曲がった。


「こっちの都合も考えてよ……」

 それは、無事に部屋に戻って自然と溢れた感想。

 我が君主は本当に勝手な人だ。

 今まで冷徹で感情の起伏が少ない機械人間だとばかり思っていたけれど、実のところは大層な変態様だし、極め付けはオリヴィアをいやらしい目で見ている。

 新しく知った彼への評価をどうすれば良いのか、オリヴィアはまだ決めかねていた。

 ドン引きだし、ショックは大きい。だけども別にネロを嫌うだとか、気持ち悪いと思うことはない。いや間違い、彼の特殊すぎる性癖は少々気味悪く感じる。


 考えても仕方がないのでとにかく着替えようと昨日着ていたスカートを脱ごうとしたら、何やらガサッと音を立てるものがあった。

「………律儀な人」

 それは前回受け取ったよりも少し分厚い封筒。
 気絶して十分仕事を果たせなかったオリヴィアにも、手当を出してくれるのは優しさだろう。もしくは怖がらせたことを悪く思ったのか。

 まだ眠気の残る頭を振って自分の身体を抱く。
 あのまま部屋に残っていたら、と考えたりして。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...