12 / 45
12 ゴシップ
しおりを挟む「おはよう、オリヴィア!よく眠れ……てはないようね」
「ジャスミン………」
ダラダラと朝の支度をしながら色々と考えていたせいか、妙に頭が重くなってしまった。
「パーティーの前菜、変更になるみたい」
「へぇ~」
「へぇ、じゃないわよ。どうしたの?最近やる気に満ち満ちていたのに、なんだか今日は鬱みたい。来週は持ち直してくれないと困るわよ!」
「それまでには何とか……」
来週にはエーデルフィア帝国にて近隣諸国を交えた六ヶ国会議が開催される予定であり、懇親会も兼ねた会議後のパーティーが王宮で行われることになっている。
もちろん普段通りの食事というわけにはいかず、その時期の新鮮な野菜や魚類を取り入れたメニューが展開され、料理人たちの腕が試される。
昨日までは楽しみで仕方がなかったそのイベントも、今はなんとも思わない。それどころか、どこか憂鬱に感じる。
(………もしかして本当に鬱?)
原因があるとしたらネロの面倒な性癖。
だけど、自分の胸に手を当てて考えてみても、嫌で堪らないということはない。確かに破天荒なプレイではあるものの、嫌ならばノーと言えば良いだけ。
いつでも断れるのになんとなく受けてしまうのは、きっとそこまで嫌悪していないということなのだろう。
「おい、聞いたか!?」
ジャスミンと始業前のおしゃべりを続けていたら、一年先輩のイーサムが話し掛けてきた。
「何がですか?」
テンションが高めなイーサムに対してあくまでも冷静に返すジャスミンに感心していると、調子の良い男は嬉しそうに口を開いた。
「来週の六ヶ国会議だが、アデーレからはソフィア王女が参加されるらしい!」
「アデーレ……?」
聞き覚えのある隣国の名前に記憶を辿って、その国が昨日ネロが差し出したいやらしい水着の産地であることを思い出した。ボフッと一気に顔が燃えるように熱くなる。
「え、オリヴィア…!?どうしたの、真っ赤よ!」
「あっ、熱くて!今日は真夏日ね!」
「おいまだ五月だぞ」
訝しむジャスミンとイーサムを前にオリヴィアは「あははは」と笑顔を張り付けて手で顔を扇ぐ。
思い出さなくても良い情報はいつも勝手に脳内で湧き上がってくるので厄介だ。これ以上無駄なことを考えなくて良いように、一心に厨房のタイルを見つめた。
「それで、ソフィア王女が参加されるから何だというのですか?」
ジャスミンがイーサムに問い掛ける。
オリヴィアは彼が得意げに鼻を鳴らすのを聞いた。
「ふんっ、聞いて驚くなよ!なんとソフィア王女は我が国のネロ皇帝と婚約が内定しているらしい。皇帝の母である皇太后と、アデーレの国王との間で取り交わされた約束だと聞いてる。つまり、結婚前の挨拶に来るんだよ!」
「どうせいつものゴシップですよね?」
「ジャスミン~疑うのは止せ。厨房の女たちが皇帝陛下に熱を上げてるのは知ってるが、お前たちにゃ叶わぬ恋だ」
「私とオリヴィアはデニス料理長派です。ねぇ、オリヴィア?」
「………え?」
顔を覗き込むジャスミンにハッとした。
慌てて笑顔を作って顔を上げる。
「ごめんなさい、ぼーっとしてたわ!」
「もう。貴女、今日はちょっと変よ?早めに帰って寝た方が良いと思う。先輩もそろそろ始業ですよー」
「お、デニスさんが来たな!」
さっさかと自分の持ち場へと戻るイーサムを見送って、オリヴィアはジャスミンと並んでサラダの下準備に取り掛かった。
あと数十分後にはネロが食堂を訪れる。
婚約の話が進んでいるなんて初耳だ。
アデーレ王国の王女様も、彼の複雑な性癖のことなど微塵も知らないに違いない。自国の破廉恥な衣装がまさか婚約者の手に渡って、その使用人に対して与えられているとは思わないだろう。
水にさらした玉ねぎを薄くスライスしながら無意識のうちに思考の海に沈んでいたら、うっかり指先を切った。赤い血がまな板の上に飛ぶ。
(………ついてない)
ジャスミンの言う通り、今日は早く眠ろう。
ネロに見つかる前に部屋に戻ってゆっくりと。
330
お気に入りに追加
992
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
執着系皇子に捕まってる場合じゃないんです!聖女はシークレットベビーをこっそり子育て中
鶴れり
恋愛
◆シークレットベビーを守りたい聖女×絶対に逃さない執着強めな皇子◆
ビアト帝国の九人目の聖女クララは、虐げられながらも懸命に聖女として務めを果たしていた。
濡れ衣を着せられ、罪人にさせられたクララの前に現れたのは、初恋の第二皇子ライオネル殿下。
執拗に求めてくる殿下に、憧れと恋心を抱いていたクララは体を繋げてしまう。執着心むき出しの包囲網から何とか逃げることに成功したけれど、赤ちゃんを身ごもっていることに気づく。
しかし聖女と皇族が結ばれることはないため、極秘出産をすることに……。
六年後。五歳になった愛息子とクララは、隣国へ逃亡することを決意する。しかしライオネルが追ってきて逃げられなくて──?!
何故か異様に執着してくるライオネルに、子どもの存在を隠しながら必死に攻防戦を繰り広げる聖女クララの物語──。
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞に選んでいただきました。ありがとうございます!】
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる