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第1章 勇者を探して
第8話 領主の招き
しおりを挟む夕食の時に。男と顔を合わせたが、特に話をしなかった。あの練習を私に見られていた事は、気付いていたはずだ。
夕食には、肉が出た。村長が気を使ってくれたようだ。明日は早いので、宴会は遠慮した。
翌朝、出立の挨拶に村長を訪ねると、手紙を渡された。昨夜、領主にゴブリンを討伐した旨、報告に行っていた者が領主から預かって来たそうだ。
その場で開封すると、私達に会いたいから、屋敷に立ち寄れとある。
見るんじゃ無かったか。聖女としてこの手の招きは、初めてではないが、苦手だしこれ以上、時間を無駄にしたくない。
まさか、無視する訳にもいかず、招きに応じる事にした。
幸いにも領主の屋敷は、ルトへの途中にある。遠回りじゃあないし、ちょっとお邪魔して、直に立ち去ろう。
村長に別れを告げ、朝靄の中を進む。
男は、相変わらず無口なままだが、時折、ほんの少しかがむ、まるで何かの鍛錬でも、しているかのように。
昨日見た事は無かったものにするつもりだったが、とうとう我慢できずに話題にしてしまった。
「昨日のあれは何?刀に魔力を通して、無詠唱で放つなんて。でも、まだまだのようね。やっと、葉っぱを何枚か落とせるくらいじゃあ、使い物にはならないわ。」
【あはは、確かに、まだまだ修行不足だよ。本当は、1枚だけを切りたいだが、どうしても、他の葉っぱに当たってしまう。】
「そ そうね。」
私はこの話題を振ったのを後悔したのだった。
その日は途中で野宿をして、翌日の夕方にに、領主の屋敷のある街に着いた。
城下町だ。そんなには、大きな街では、無いが色んな店があり、中央には噴水付の広場が有った。広場では、子ども達が元気に遊んでいる。
そんな様子を微笑ましく眺めていると
【何か大切な事を忘れている気がする。】
ふと、男に目をやると、涙を流していた。
私は気が付かないふりしかできなかった。
その日は、ここで宿屋に泊まった。まさか、夕方に領主を訪問する訳にはいかない。
宿屋の1階が食堂兼酒場になっており。
そこで夕食を取った。
(おい、聞いたか?この前村を襲ったゴブリンが皆討伐されたってよ。)
(へー、領主様もやるねえー)
(それがよう、討伐したのは、通りがかった旅人らしいぜ)
(そこまでは、良いんだが、領主様の近衛隊長が、獲物を横取りされたって、騒いでるんだとよ。)
隣で飲んでいる二人組の話に耳を傾けながら、明日の領主訪問が憂うつになっていた。
翌朝、2人で領主を訪ねる。
城というより豪華な別荘といった屋敷だった。男は入り口で武器をとりあげられそうですになるが、ただの杖だと言って渡さなかった。
【武士の魂だからな】
そう言いながら、杖を肩に担ぎ屋敷へと入った。
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