無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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日常~徐々に忍び寄るモノ~

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「退屈だわ……」

 中庭のベンチに座りながら、ぽつりと呟く。
 その呟きを聞いた隣に座る少年が反応し、顔を上げた。

「それ一日に何回言ってますか?」
「今まで食べてきた魚の数なんていちいち数えないでしょ? それと同じよ」
「この国は魚が美味しいですよね」

 ロイがニッコリと微笑みながらそう言った。
 この一年ですっかり皮肉が聞くようになったものね……。

「あなたは退屈じゃないのかしら? 毎日毎日代わり映えのしない日常!」
「こう見えても僕は、フルトンさんの雑務の手伝いなどを毎日してますからね。退屈だなんて思う暇はありませんよ」
「……あなた一年前に比べて随分と生意気になったわね」
「一年も無理やりエナさんに付き合わされていたら、色々と度胸もつきますよ」
「あの頃のびくびくおどおどしていたロイはどこに行ってしまったのかしら」

 いつの頃からか、からかってもつまらない反応しか返してこなくなってしまった。
 別に従順な召使いがほしかったわけではないので、これはこれで構わないのだけどね。

「話変わりますけど、最近港によく変な船が来るみたいですね」
「変な船?」
「とある一団が乗っているらしく、毎日備えのボートで港町までやってきて入国の交渉をしてきて困っていると、フルトンさんが言ってました」
「入れてあげればいいじゃないの」

 またこの国の悪い癖が出ているのかと、少しばかりうんざりしてしまう。
 一年経った今でも、この国は基本的によそ者を受け付けないのだ。
 代々続くご先祖さまからの方針だそうだし、父と母もこれについては変えていくつもりはないとはっきりと言っていた。

「同じことをフルトンさんにも言いましたけど、のっぴきならない事情があるらしくてそういうわけにはいかないと……」
「何よのっぴきならない事情って」
「さすがにそこまでは教えてくれませんでしたよ」

 私が知らないのに、ロイが教えられるはずがないか。

「エナさん、そろそろ時間なんじゃないですか?」
「用事なんてないわよ」
「礼節の授業があるんでしょう? エナさんがそういうプライベート情報を逐一話すから、すっかりエナさんのスケジュールを把握しちゃってますよ」
「はいはい……それじゃあまた明日ね」
「はい、また明日」

 席を立ち手を振る私を、ロイが爽やかな笑顔で見送ってくれる。
 随分と生意気になってしまったロイだけど、私に向けてくれるその笑顔だけは少しだけ好きだった。



 ちゃんと真面目に礼節の授業を受けて、心身ともにヘロヘロになった私は独自のルートで城を抜け出し、町へと向かう。
 疲れた頭には甘い物を与えてあげないと可哀そうだしね。

「今日は何を食べようかしら? お小遣いもまだ残ってるし、今日は少しだけ奮発しちゃおうかな?」

 昔はよく「この国のお姫様からお金なんて取れない!」と言われたものだが、賢明な説得の末どうにか金銭のやり取りをさせてもらえるようになった。
 だってお店の人が一生懸命作った物を、この国の姫だからと言ってただでもらっていくなんてあまりにも図々しいじゃない?
 それにどうせ私が払ったお金は、巡り巡って私のお小遣いになるのだから何の問題もないはずだわ。

「少し歩くけど、今日は港の方まで行ってみようかな?」

 風の噂で港町の方で新しいケーキが売り始めたらしい。まあ風でもなんでもなくロイから聞いた話なんだけど。
 すれ違う町の人たちが私を見てにこやかに挨拶をしてくれるので、それに一人一人きちんと笑顔で返しながら港の方に向けて足を運んでいく。
 遠いと言えど何分小さな島国だ、港までは15分ほど歩けば着けてしまう。

「さすがに港までくると、潮風がきついわね」

 磯の香りをふんだんに含んだ潮風を全身で感じながら歩いて行くと、見知った後ろ姿を見つけてしまい、咄嗟に物陰に隠れてしまう。

「マイヤじゃない! どうして今日に限って港にいるのよ!」

 折角美味しいケーキを食べに来たのに、マイヤに見つかったらお城に連れ戻されてしまう。
 しばらく様子を伺おうと思い、物陰からそっと顔を出し耳を澄ますと、となにやら言い争う声が聞こえてくる。
 よくよく観察すると、マイヤとその部下である新米騎士数人と、この国では見かけない真っ白な白いローブを着た複数の男が物々しい雰囲気で互いに言葉を交わしているようだった。

「お願いします、一度だけでいいので王様と謁見させてはいただけないでしょうか?」
「貴様らも大概しつこいな? 何度言われようと貴様らのような怪しい宗教団体をこの国に……ひいては王と謁見させるなどもってのほかだ! 即刻立ち去れ!」

 マイヤの声からするにあれは本気で怒っているな……それにして宗教団体?
 もしかしてロイが言っていた、最近よく港に来る変な船のことかな?

「一度王様とお話しさせていただければ、我らの教団の素晴らしさをわかってもらえるはずです!」
「くどい! 王もこの国に宗教を取り入れるつもりはないと言っている! 何度言ったらわかるのだ!」
「ですが……」

 話は平行線を辿るだけで、一向に収束する気配が見られない。
 マイヤの苛立ったあの様子を見るに、もう何度もああやって交渉しに来ているのだろう。
 すっかり興が削がれてしまった私は、マイヤに気づかれないように物音を立てず静かにその場を後にしたのだった。



 その日の夜、相変わらず部屋で魔導書を読んでいると、マイヤがなんだか疲れた様子でため息を吐いた。
 実はもうそのため息五回目くらいなんだけど、本人は気が付いているのだろうか?

「お疲れみたいね?」
「ん? ああ、少しな……」

 何があったのかは知っているけど、そこを話してしまうと城を抜け出して港まで行っていたのがバレてしまうので、ここは何も知らない体で行かなくては……!

「悩みがあるなら私に話すといいわ」
「エナに話したところでどうにもならん……ていうかエナに話したら面白がって首突っ込んでくるだろうから、口が裂けても言えんな」
「失礼しちゃうわね! 私のことなんだと思ってるのかしら?」
「まあ、心配してくれていること自体は感謝しておくよ」

 そう言ってマイヤが少し疲れた笑顔で笑った。
 これは私の想像以上に疲れてるみたいだ……少しからかってみたかったけど、そういう気分ではなくなってしまった。
 ……そうだ折角だし!

「マイヤ、ちょっとこっちまで来てくれないかしら?」
「ん? なんだ?」

 手招きに応じたマイヤが、椅子に座る私の元まで近づいてきたので、立ち上がり椅子に座るように促すと疑問符を浮かべながらも、私の座っていた椅子に腰かけた。

「その肩パッド邪魔だから外してくれない?」
「別に構わないが……何をする気だ?」
「いいからいいから」

 外した肩パッドを膝に乗せたマイヤの後ろに回り込んで、目を閉じて意識を集中し私の中の魔力を活性化させていく。
 マイヤのむき出しになった両肩に、魔力を集めた両手を乗せて再び意識を集中させていく。

「……おおっ? なんか暖かいな?」
「怪我を治す魔法を私なりにアレンジして、疲れを癒すことに重点を置いた魔法にしてみたの。初めて試したんだけど、どうかしら?」
「ああ、いい感じだ……」

 ここまで魔法を扱えるようになったのも、ひとえにシオン先生の教えの賜物である。
 ひょっとしたら先生なら、疲れを一瞬で消し飛ばす魔法が使えるかもしれないけど、修行中の私ではこれが精一杯。

「エナが魔法の勉強を始めた時はどうなることかと思ったが……ちゃんとやってるみたいで安心したよ」
「マイヤってば私のこと少し見くびりすぎじゃないかしら?」
「それは失礼したな」

 魔法が効いているのか、先程よりも随分すっきりした表情でマイヤが笑う。
 筋肉の付いたがっしりとした肩。
 マイヤがこの国の為……そして私の為にいつも色々と頑張っていることを、私はちゃんと知っている。
 よそ者だということで不当な扱いを受けることもあったし、自身もダークエルフという人種の違いの負い目を感じて、少し距離を取っている時もあった。
 けれども彼女はその環境を少しずつ変えていき、今ではこの国になくてはならない存在にまで上り詰めた。
 そこに辿り着くまで私の知らない苦労が沢山あっただろう……けれどもマイヤはその苦労を私に見せたことは一度もない。
 強い人だ……本当に父と母と同じくらい尊敬している。

「ねえマイヤ?」
「なんだ?」
「いつまでも私のお姉ちゃんでいてね?」
「お前何か勘違いしてるだろ? アタシは守護騎士であってエナの姉替わりではないぞ?」
「そういうことじゃないわよ!」

 思わず肩に置いた手に力を入れるが、分厚い筋肉に阻まれて私の指はマイヤの肩に食い込むことなく阻まれる。

「なんだ? 一緒に肩も揉んでくれるのか?」
「こんな堅い肩は私の力じゃ無理よ! メイスを持ってきて自分で叩きなさい」
「あっはは! そのくらいがちょうどいいかもな!」

 まったく何がおかしいのかしら? こっちは恥ずかしいのを我慢してのさっきの台詞だったのに。

「……アタシの妹を名乗りたいなら、もう少しおしとやかにしてくれ」
「充分おしとやかにしてるつもりだけど?」
「辞書もってきてやろうか?」
「もう!!」

 これで終わりだという意味を込めて、勢いよくマイヤの両肩を叩くと、パシンっといい音が室内に響き渡った。

 こんな風にマイヤとくだらない話をする時間が私は大好き。
 中庭でロイをからかい、またからかわれる時間もそれはそれで私は好きだ。
 先生の魔法の授業を受けて、毎日少しづつ魔法を使えるようなっていくのを実感するのも好き。
 いつも忙しいけど、私の為に必ず時間を作ってくれる父と母が本当に大好き。
 この小さな島国が私は本当に大好き。

 好きで溢れた私の日常。
 変わらない……変わる必要なんてない平和な日々。
 けれどそれがずっと続くと、「好き」も「退屈」へと姿を変えてしまう。
 いつかマイヤが言っていた……そうなってしまったらおしまいなのだと。

 いつからそうだったのかはわからないし、本当は初めからそうだったのかもしれない。

 彼女の言った「おしまい」は、いつの間にか私の日常に紛れ込んでいたのだ。



 それからさらに数日が過ぎた、ある日の中庭でのこと。

「もうすぐ誕生日なのよ!」
「そうなんですか? おめでとうございます」

 そう言ってロイがニッコリと微笑んだ。

「あなたそうやって笑っておけば、とりあえずやり過ごせると思ってるんじゃないわよね?」
「そんなことありませんよ?」

 どうだか……。

「誕生日パーティーとかするんですか?」
「勿論よ! 去年も国を挙げて私の誕生日を祝ったんだから!」
「僕がこの国に流れ着く前の話ですよね?」
「そういえば去年のパーティーの時はまだロイはいなかったわね」

 同時にロイがこの国に漂着してからもう一年経つのかと、少し感慨深い気持ちになる。

「勿論ロイだって招待してあげるわ! だって私の……と……」
「とっ?」
「とっ……友達だもの!」
「……そうですね」

 ロイのことはずっと前からそう思っていたけど、それをこうして直接言葉として伝えたのは初めてじゃなかろうか?
 まさかそれを伝えるのがこんなにも恥ずかしいとは思ってもみなかった。

「いつもそうやって素直だと、可愛いんですけどね」
「なっ!?」
「まあ冗談ですけど」
「冗談っ!?」

 なんなのこいつ!? そのむかつく笑顔を横から引っ叩いてあげようかしら!?

「私のことからかってそんなに面白いのかしら?」
「最近の僕のライフワークですから」
「もう一度記憶を無くしたら、また昔みたいなロイに戻ってくれるのかしらね?」
「さあ、どうでしょうね」

 そう言ってロイがころころと笑う。
 そんな無邪気な笑顔を見せられてしまうと、怒る気すら失せてしまう。

「記憶、まだ戻らない?」
「そうですね……でも最近はもう戻らなくてもいいんじゃないかと思ってますよ」
「どうして? 気にならないの?」
「それは気になりますけど……今の僕はこの国で一年間暮してきた幸せな記憶がありますし、それがあれば十分なんじゃないかなって思うんです」
「……そっか」

 ロイが……友達が幸せだというなら、私も幸せだ。
 基本的にからかってくるけども、こうしてロイと二人で中庭で談笑するのが、いつの間にか私にとっても大事な時間になっていた。

「……でも最近は少し気になることもあります」
「何かあったの?」
「はい……フルトンさんの様子が少しおかしいんですよ」

 後になって思えば、ロイのその言葉が始まりの合図だったのかもしれない。
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