リゼの悪役令嬢日記

風野うた

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42 民家

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 「それでさぁ、何でブランド辺境伯爵がここに居るんだよ」


 俺はシータから、正教会の司教の家族を探して保護する様にと、指令を受けた。

しかも大至急で!!だと。

アイツは弟とはいえ、魔術師としては上司だからNOとは言えない。

依頼を受けたオレは、司教って誰だよ?ってところから頭を抱えた。

でも、気づいたんだよ。

ベルファント王国って言えばマーゴットだ!と。

早速、俺はマーゴットに協力を求めた。

凛々しい俺の婚約者は二つ返事で、オッケーしてくれた。

かっこいいよな。

しかも司教とその家族に面識もあるという。

何でも、正教会の司教の任命式に王族の一員として出席したらしい。

パリッと騎士服を着こなし、両腰に剣を佩いている姿が凛々しいマーゴット。

だが、忘れてはいけない彼女は、隣国の王女だ。

俺は見た目だけでなく、彼女は内面も素敵な女性だと思っている。

何故なら、俺の得意分野に関心を持ってくれるし、会話をすると素直に思っていることを返してくれる。

これは彼女が騎士道を重んじていることと関係しているのかもしれないが、とても好感が持てる。

前に、ヘミングウェイが部活でマーゴットとやりあって苦虫を嚙み潰してたけど、あれは騎士同士で心も体も体当たりし過ぎなのが、ダメなのだと思う。


おっと、話は逸れたが、今、俺たちは監禁場所と目星をつけた民家の様子をうかがっているところだ。

民家を魔術でサーチしてみる。

建物には透視を遮断する魔法などは掛かってないようだ。

案外、隙だらけだな。

思ったより広い空間が広がっている。

平屋と見せかけて、地下2階まであるようだ。

敵の数は、1階の建物の外に5名、建物の中に10名、地下1階は見張りのような奴はいなくて、広間に女性1名、子供2名、男性1名。

ん???男性1名?

男性1名って、人質の見張りか?最後に刃物とか出されたら厄介だな。

もう少し詳しく、、、。俺は集中して、男性に向けて透視をする。

徐々に姿が脳裏に浮かぶ。

「はぁ?」

思わず声に出てしまった。

何でここにブランド辺境伯爵が居るんだよ、しかも人質の体で。

アイツは敵なの?味方なの?

横で息を潜めて、マーゴットが突入のタイミングを見計らっている。

俺はシータに念話を送る。

「シータ、今いいか?」

「はーい!大丈夫だよ」

直ぐに返事が来た。

「あのな、司教の家族は見つけた。だが何故か一緒にブランド辺境伯爵が人質の体で居るんだけどさ、どうしたらいい?」

俺は困っている雰囲気を前面に出す。

「アズ兄ちゃん、ブランド辺境伯爵も一緒に保護しといて。司教の家族はベルファント王国は危ないから、ランドル王国の王宮に連れて行ってね。ブランド辺境伯爵は、えー、どうしようかな特に使えそうな要素もないなぁ、、ヘミングウェイ騎士団長に引き渡していいよ」

特に使えそうもないって、、、。シータ、お前ヒドイことを平気で言うよな。

「分かった。これから突入して、司教の家族は王宮で保護する。ブランド辺境伯爵はヘミングウェイに引き渡す。じゃあ、また連絡する」

「アズ兄ちゃん、しっかりよろしくね」

頼み事する時だけ、可愛く言ってくるんだよな、、、。

おう、兄ちゃん頑張るぜ!

「アズール、あの赤いスカーフつけている細身の男は、突入時に要注意だと思う。わたしが最初に暗器で抑えるから、その間に拘束して欲しい。あと、密集地だから火を放たれないように気をつけよう」

 小声でマーゴットが言ってきた。

慣れない異性からの名前呼びにドキドキしてしまう心は置いておいて、

「分かった。周辺に防御壁の魔術を掛けておく。マーゴット手に負えないときは俺を呼べ援護するから」

マーゴットがポカーンとしている。

「ん?どうした」

「え、いえ防護壁なんてスゴイなと思って。ありがとう」

ああ、ベルファント王国はあまり魔術師が居ないって言ってたもんな。よし、良いところを見せれるように頑張ろう。

「では、行きます!」

そう言うと、マーゴットは一番要注意と言っていた男に向けて、ワイヤーを投げた。

ところが、男は腰に佩いていた刀を一振りしてそれを避けた。確かにあいつは要注意だ。

マズい!味方に奇襲を知らされたら、この救出劇は失敗になる。

咄嗟にオレは風魔法で男を空高く舞い上げた。そして急降下させる。

上手くいった。ヨミ通り、男は気を失っている。

即座に呪文を唱え拘束する。

いっちょ上がりだ!!

「スゴイ!!」

お隣のマーゴットが声を上げたので俺は思わず振り向く。

「アズさま、スゴイです。わたしはこういう戦い方を初めて見ました。弟子入りしたいです」

何だかマーゴットがオレに羨望の眼差しなのだが、、、。

「ア、アズさまって、、、照れくさいから辞めてくれ。呼び捨てで行こうって決めたんだからさ。敬語も作戦が言いにくいから辞めよう」

俺はマーゴットに勘弁してくれと訴える。

「あれを見たら呼び捨てになど出来ないです。敬語は使わないので、アズさま呼びは許して欲しい」

なるほど、とても感心してくれたってことか、照れくさいな。

「分かったよ。呼び方はどうぞお好きに。さあ、突入するぞ」

「はい、アズさま!」

うーん、ムズかゆい呼び方だけど、まぁ良しとする。


 俺とマーゴットは隠れていた場所から、残りの見張りも拘束して、二人で民家へと足を踏み入れた。

一緒に来た騎士団はオレの合図があるまで待機にしている。

なぜなら、民家の間口が狭いからだ。

大勢で突入して無駄にけが人を出したくない。

中に入ると家具などは見当たらず、ガランとしていた。生活感はどこにもない。

一刻も早く保護しなければ、特に子供たちの状況が心配だ。

俺たちはあらわれた敵を1人ずつ静かに片づけて魔術で拘束していく。

使役紋で操られている可能性も考えて、ケガを負わせず気を失わせるようにする。

手ごたえの無さから考えると特に訓練されているような人員ではないだろう。

「アズさま、下に降りる階段がこのタペストリーの裏にあります」

マーゴットが壁を指さしている。

俺は近づいて耳を澄ます。下からかすかに物音がした。

マーゴットと視線を合わせる。

互いに頷き、無言で階段を下りていく。

地下1階に着いた。

細長い廊下は真っすぐ伸びていて、右側に手前から3つドアが並んでいる。

物音はその先からしている。

息を殺して進む。

廊下の突き当りに重そうな鉄製のドアが現れた。

開ける前に俺はマーゴットに一旦止まるようにとしぐさをする。

扉の向こうに人がいるかをサーチする。

女性が1名、子供2名、男性が1名、この建物に入る前にサーチした人数と一致する。

俺はマーゴットにOKのサインと敵は居ないというしぐさをした。

彼女の表情が少し柔らかくなる。

次は扉に手を当てて、爆薬などが設置されていないかを確認した。

特に問題がなかったので鍵を魔術で開錠し、重い扉を力を込めてゆっくり開ける。

扉の先にいた司教の家族とブランド辺境伯爵は、突然音もなく現れた俺たちを強張った表情で見た。

俺は扉を閉めて、直ぐに防音魔法をかけた。

「助けに来た。もう話しても大丈夫だ」

オレがそう言うと、女性が叫ぶ。

「王女殿下!どうしてこのようなところに」

確かに王女が助けに来るとか思わないよな。

「司教さまのご家族のみなさま、ご無事で何よりです」

マーゴットが女性と子供たちに向けて、笑顔で答える。

確かにケガもなく、拘束もされてなくて安心した。

「で、何であんたがここに捕らわれているんだ?ブランド辺境伯爵」

俺は顔色の悪くなったブランド辺境伯爵に問う。

「もう何からお詫びしたらよいのやら、申し訳ないアズール・バッファエル公爵令息」

深々とお辞儀をされる。

「初めまして、ベルファント王国の王女マーゴットと申します。捜査へのご協力よろしくおねがいいたしますね」

怖い笑顔で、マーゴットがブランド辺境伯を威圧する。

彼はすっかり委縮してしまい、しばらく使い物にならなさそうだった。

俺は怖い思いをしたであろう子供たちに話し掛けてみた。

「何か食べたいものはないか?」

すると子供たちは母親に何かを耳打ちして聞いている。

母親が子供に頷く。

「あのね、あたしお団子が食べたい。あんこがいっぱいのがいい!!」

「ボクはアイスクリームが食べたい!!」

姉弟は元気に答えた。

「分かった。ここから安全なところに行って食べような」

俺は子供たちに約束する。

「ありがとうございます。ところで夫は無事なのでしょうか?」

母親が心配そうに聞いてきた。

「はい、無事です。安心してください」

俺が答えると、母親はホッとした表情を見せてくれた。


そのあと、司教の家族はランドル王国王宮で保護するため、俺たちが護衛も兼ねて、一度王都まで送っていくことにした。

ブランド辺境伯爵はヘミングウェイに引き渡すので、適当なところで落ち合えばいいだろう。



 そして、この民家は騎士団に詳細な捜索をしてもらう。

が、その前に俺とマーゴットは気になっていた地下2階へ降りてみた。

結果から言うと胸糞悪い場所だった。

拷問部屋や鉄格子の部屋。

人を殺し燃やした形跡もあった。

奥の研究室らしき部屋には、この大陸を中心とする世界地図が壁に貼られていて、ベルファント王国が黒く塗りつぶされていた。

冷静にそれを見つめるマーゴットの心中は察せないが、祖国が塗りつぶされていい気はしないだろう。

シータから、次は占星術師ノアを探せって依頼が来たけど、一体何が起こってるんだ?

「マーゴット、早く任務を終えて学園生活に戻りたいよな」

「ええ、私もそういう気分です」

いい相棒が出来た気がした。いや婚約者だったな、、、。
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