異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版)

田中寿郎

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第三部 暗殺者編

第181話 ダイナドー謝罪

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ダイナドー 「ううぅっうスター! 痛い! 何をしている、早く、治癒師を呼べ!!」

だが侯爵の声に執事ウスターは反応しない。

ウスターは次の攻撃に警戒して周囲を伺っていたのだ。だが、攻撃はその一撃で終わりのようであった。

近くにクレイが居るのではないかと気配も探っていたのだが、気配はないようである…

ダイナドー 「ウスター!!」

ウスター 「はっ? は、はい、直ちに…」

すぐに治癒師が呼ばれ、千切れてしまった腕を繋ぎ合わせる。この治癒師は欠損の復元まではできないが、切断してしまった手足を接合する事は可能なレベルであったため、なんとか事なきを得たのだが…。

しかし、クレイが治癒師を用意しておけと書いたのは、ダイナドーのためを思ってなどではない。むしろお仕置きを長く続けるためである。

この日から、これが毎日続く事になったのだ。

今日は右腕であったが、翌日は左手の指三本であった。次の日は左膝、次の日は右耳と、撃たれる場所は毎回変わる。そして撃たれる時間も日によって変わる。

常に治癒師を傍に待機させ、その都度治療させているので大事にはなっていないが、ダイナドーはいつ撃たれるか、どこを撃たれるか、毎日怯えながら暮らすようになった。

これは、暗殺者に狙われる恐怖を味わってもらうというクレイの趣向である。

攻撃は、時に何も無い日もあれば、一日に二発三発攻撃がある日もあった。その気まぐれ具合が余計に恐怖感を増していった。

堪りかねた侯爵は屋敷を出て、別の場所へと身を隠したのであるが、それも無駄であった。リルディオンの補助を受けて、マップに目標人物をマーキングできるようになったからである。マークを着けた人間がどこに移動しても、マップを見れば居場所が一目瞭然なのであった。

そして、転移魔法陣を使い、弾丸を撃ち込むだけの簡単な仕事である。一度マークされたら逃げられない。

ダイナドーは全身に鎧を着てみたが、これも効果はなかった。出口側の転移魔法陣は鎧の内部に現れるからである。しかも弾丸は鎧の中で跳ね返り、撃たれた箇所の肉はジュース状になって、却って酷い結果になってしまった。

そしてついに、ダイナドーは音をあげる。ヴァレットのクレイの家に、早馬でダイナドーから詫び状が届いたのである。



  * * * *



ダイナドー侯爵からの詫び状は、暗殺者を雇った事を認める内容と、その事についての全面的な謝罪、そして賠償金を支払う、報復をやめてくれるなら何でもするという内容が書かれていた。

だが、クレイはお仕置きだけで済ませる気はなかった。宣言していたとおり、報復として苦しめた後、殺すつもりであった。あったのだが……

素直に罪を認めて謝られると、そこまでしなくてもいいかとも思ってしまう。

クレイ 「俺も甘いな…」

だが、自分が暗殺者に襲われた事を改めて思い返してみる。命を狙われたのである。自分が知らないところでも襲われていた事があったようだ(睡眠中の襲撃など)。相手は本気で自分を殺しに来ていたようだ。即死でおかしくないような攻撃や毒を、明確に殺す意図を持って仕掛けてきたのである。たまたまリルディオンの防御装備のお陰で全て回避できたが、普通人なら死んでいたところである。

それに……改めてダイナドー侯爵についての記録を引き出していて、ふと気になって、ダイナドー侯爵によって死んだ人間という検索キーワードを使ってみたところ、出てきた記録は目を覆うようなものだった。すべての記録を見たわけではないが、少し見ただけでも、侯爵の理不尽な命令によって死ぬことになった人間は多いようだ。さらに、死なないまでひどい目にあった人間、酷い目に合わされないために仕方なく従うしかなかった人間も、枚挙にいとまがないという状態であった。

さらには、言う事を聞かせたい者には、身内を人質にとったり身内に危害を加えると脅迫したりしていたケースも散見される。

クレイの暗殺には結局失敗していたが、暗殺がいよいよ難しいとなれば、今度はクレイの身の回りの者にターゲットが変更される可能性が高いという事である。

誘拐程度なら救い出す自信はあったが、もしいきなり暗殺という手段が周辺の人間に向けられたら……?

身内を人質にとって脅す。そんな卑劣な相手に対して、どう対処するか?

もちろん、完膚なきまでに叩き潰すしかないだろう。そして、自分に手を出したら、同じ目に遭うぞ? という事を周知徹底するしかない。コイツに手を出したら、絶対に報復される。絶対にヤバイ事になる。そう思わせる必要があるのだ。絶対にそれが起きると確信させる必要がある。そのためにも、やはり、ダイナドー侯爵は死んでもらう事にしようとクレイは結論付けたのであった。



  * * * *



再びダイナドー侯爵の居る部屋。王都ではない、ダイナドー侯爵が避難所として用意してあった別の街の別荘である。

その部屋のテーブルの上に一枚の紙がヒラリと落ちた。

いつのまにかテーブルの上にあった紙に気付き、広げて内容を読んだダイナドーは顔を顰めた。

その内容は、

『反省したようだからお仕置きは終了してやる。その代わり、速やかに爵位を誰かに譲り引退せよ。引き継ぎに一ヶ月だけ待ってやる』

というものであった。

もう身体を吹き飛ばされる恐怖に怯えなくて良くなったのは僥倖である。思わずホッとしたダイナドーであったが、引退を迫られるとは思っていなかった。

だが、その後の警告を見れば、従う以外の選択肢はなかった。従わなければ、お仕置きを再開する。それだけでなく、侯爵家そのものを消滅させる、と書かれていたのだ。

どうしてこうなった? ダイナドーは自問するが、答えは出ない。いや、自業自得なのであるが、得てしてこういう人間は、自分は間違っていないと本気で思い込んでいるモノなのである。


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