異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版)

田中寿郎

文字の大きさ
上 下
113 / 184
第二部 ダンジョン攻略編

第113話 苦悩するマツヤ

しおりを挟む
マツヤはラヘルブーレの出身であったが、マツヤにとってダブエラは第二の故郷と言える場所であったのだ。

まだ平和だった頃、父がダブエラに渡り商売をしていた関係で、マツヤは青春時代をダブエラで過ごし、そこで知り合った女性と結婚したのだ。

父が病死し、マツヤは妻とその母を連れてラヘルブーレ王国へと戻ったのだが、その後、戦争が始まった。

学生時代に仲の良かった友人達の何人かが軍に入った。職業軍人ではなかった友人達も徴兵されたかも知れない。そんな兵士達が捕虜となり、酷い待遇を受けている事を知り、なんとか助けたいと思ったのだ。





カラザ 「俺を恨むのは当然だ、だが、信じてくれ。みんな助けてもらえる。ほら、見ろ、俺の体を! こちらのクレイ様に治してもらったんだよ。クレイ様はお前達も買い取って治してくれると言ってるんだ」

ライザ 「信じられん……手足の欠損を治すなど、
治療費がいくら必要だと思ってるんだ」

マルボ 「ありえない。信じられない」

ドニー 「カラザよ、こんな状態になってまで、まだ俺達を騙そうとするのか…? もう俺達は終わりだよ、後は安らかに逝かせてくれ……」

カラザ 「騙すつもりなんてないんだ、信じてくれよ……」

ライザ 「祖国を裏切ったのも、騙すつもりではなかったんだろう?」

カラザ 「それは……」

他の奴隷達も、どうにも信じられないという様子である。それを見たクレイが言った。

クレイ 「ん~、なかなか信じられないのは解るが……カラザだって二週間くらい掛かったもんな、状況を受け入れるのに。

まぁ、百聞は一見にしかず、試しに一人治して見せよう。それを見て考えてみてくれ…」





マツヤは迷っていた。話が美味すぎる。捕虜奴隷達でなくとも信じられない。

だが、実は、正直なところマツヤも困っていたのだ。故郷の兵士だった捕虜奴隷を買い取ったのはよいが、その後、どうすればよいのか、先の見通しが何も立っていなかった。

マツヤの店は、それほど大きくはない。十数人の捕虜達を入れてしまえば部屋は埋まってしまい、新たな商品(奴隷)を入れるスペースはなくなってしまう。

そして、捕虜奴隷達は利益を生む事はなく、食費が嵩んでいくばかりである。

このままでは商会の資金はジリジリと減っていくだけである。

彼らは助けてくれた事を感謝し、迷惑だろうからと、安楽死させて欲しいと言い出した。

だが、せっかく助けたのに、できたらそんな事はしたくない。

そこに、突然降って湧いた好条件である。嘘でも信じたフリをして、黙って売ってしまえばいい。そんな考えも脳裏によぎるマツヤであったが、それを慌てて振り払い、真偽を見極めようと思いなおす。

確かに信じられない話ではあるのだが、カラザも、一緒に来た二人の女奴隷も、嘘をついているようには見えなかった。

(仮に嘘をつくよう命じられていたとしても、意に沿わない事をさせられている時の奴隷の表情は、奴隷商であるマツヤにはよく分かるのだ。)

何より、カラザも手足を切り落とされた状態だったとビューク達が証言している。だが、カラザは五体満足で健康そのものにみえる。治療してもらったというのは本当の話なのか。

だが、論理的にはそういう結論になるが、仕事上、多くの奴隷(中にはもちろん欠損奴隷も居た)を見てきたマツヤには、どうしても信じられないのであった。

最上位の治癒魔法(または最上位の治療薬)は身体欠損さえも治すとは聞くが、実際にそれで治ったという人間を見た事があるわけではないのだ。クレイが連れている二人の獣人の奴隷も治ったと言ってるが、五体満足な現在の状態を見れば、元から健康、欠損などなかったと考えたほうが信じられる。

視点を変えてみる。

(マツヤも、この美味い話が真実であると信じたいのだ。)

この冒険者の狙いは何だ?

ダンジョン攻略のための戦力を探していると言うが…ダンジョン攻略なら普通に冒険者を集めたほうが早くて安上がりのはずだ。

それについては、クレイは絶対に裏切らない仲間が欲しいと言う。なるほど、それなら解らなくはない。

おそらく過去に冒険者の仲間の裏切りにあった事があるのだろう。奴隷であれば絶対に裏切られる心配はないのだから。そういう感覚で奴隷を仲間として購入する冒険者も居ないわけではないのだ。

だが、その場合も健康な戦闘奴隷を買うのが普通だ。確かに欠損奴隷は格安で手に入るが、それを治療するには、健康な戦闘奴隷が百人以上買えてしまう金額が掛かるからだ。

だが、金を掛けずに自力で欠損を治療してしまえる能力があるというのなら、その話は現実味を帯びてくる…。

だが、それほどの治癒魔法の使い手であれば、貴族王族に抱え込まれているはず。あるいは教会に高位神官として抱き込まれているはずである。冒険者などする必要はない。

だが、それを嫌って治癒魔法が使える事を隠しているとしたら…? クレイは自分は治癒魔法は使えないが、しかし治療はできるという意味不明な事を言っていた。要するに、治療ができる事を隠したいという事なのかも知れない。

マツヤが色々グルグル考え込んでいると、クレイが奴隷の一人を治療してみせようと言いだした。

奴隷なのだから、売買に本人達の意志など関係ないのだが、せっかく保護したのだ。マツヤとしても本人達が納得できる形にしたい。信じられる話であるなら、できれば信じたい。

マツヤも奴隷達も、クレイの治療をその目で見せてもらう事にした。

ただし、治療の技は極秘の術なので、実際の治療は個室で誰にも見えないようにして行うとクレイは言った。

おそらく治癒魔法が使える事を隠したいのだろうとマツヤは忖度し、倉庫を少し片付けて使わせた。奴隷を代表してビュークが治療を受けることになった。

個室にクレイと奴隷の猫娘二人、そしてビュークが個室に入り、小一時間ほどが経過。

そして、奇跡のような情景をマツヤは見る事になったのであった。

ビュークが、自身の両の足で立って歩いて出てきた。もちろんなかったはずの腕も再生している。

それを見た奴隷達の目に光が戻るのをマツヤは見た。

たとえ莫大な借金を負う事になろうとも、危険なダンジョンに潜らされることになろうとも。再び元の体に戻れて動けるようになるなら…人生を取り戻せる。冒険者として新しい人生が開かれる。

美味い話など絶対に信じられないほど絶望していたはずの奴隷達だが、思わず冒険者となった自分を想像し、夢を見てしまったのであった。

マツヤは、クレイを信じる事にした。十五人の欠損状態の捕虜奴隷を、すべてクレイに託す事にしたのだ。

買取には格安の値段を提示した。本当は無料でも良かったのだが、一応国から正規の手続きで払い下げられた戦争奴隷である。その後、どこに売ったかも国に報告する義務があるので、格安でもちゃんと売買記録を作る必要があったのだ。


しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
小説家になろうでジャンル別日間ランキング入り!  世界最強の剣聖――エルフォ・エルドエルは戦場で死に、なんと赤子に転生してしまう。  美少女のように見える少年――アル・バーナモントに転生した彼の身体には、一切の魔力が宿っていなかった。  忌み子として家族からも見捨てられ、地元の有力貴族へ売られるアル。  そこでひどい仕打ちを受けることになる。  しかし自力で貴族の屋敷を脱出し、なんとか森へ逃れることに成功する。  魔力ゼロのアルであったが、剣聖として磨いた剣の腕だけは、転生しても健在であった。  彼はその剣の技術を駆使して、ゴブリンや盗賊を次々にやっつけ、とある村を救うことになる。  感謝されたアルは、ミュレットという少女とその母ミレーユと共に、新たな生活を手に入れる。  深く愛され、本当の家族を知ることになるのだ。  一方で、アルを追いだした実家の面々は、だんだんと歯車が狂い始める。  さらに、アルを捕えていた貴族、カイベルヘルト家も例外ではなかった。  彼らはどん底へと沈んでいく……。 フルタイトル《文字数の関係でアルファポリスでは略してます》 魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります~父が老弱して家が潰れそうなので戻ってこいと言われてももう遅い~新しい家族と幸せに暮らしてます こちらの作品は「小説家になろう」にて先行して公開された内容を転載したものです。 こちらの作品は「小説家になろう」さま「カクヨム」さま「アルファポリス」さまに同時掲載させていただいております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...