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第一部 転生編
第16話 冒険者ギルドへようこそ!
しおりを挟む受付嬢 「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
クレイが冒険者ギルドのドアを開けると、甲高い受付嬢の声が飛んできた。
受付嬢の側に居た冒険者の男がうるせぇよと耳を塞ぐ仕草をする。
受付嬢 「しょうがないでしょ、決まり文句だから言わないといけないのよ! 声が小さいとギルマスから怒鳴られるんだから…」
そう言いながら、受付嬢はクレイに向かって愛想笑いをした。
受付嬢 「お見かけしない顔ですね? 冒険者ギルドに何かご依頼ですか?」
クレイ 「いや、依頼ではない、冒険者に登録したいんだが……」
* * * *
ジャクリンの襲撃事件があってから二年半ほどが経ち、十五歳の誕生日を迎えたクレイは、ついにヴァレット家を出たのであった。
本当はもっと早くに出たかったのだが、ジャクリンのおかげ? で、この世界では自分の作った武器ではまだまだ通用しないと言う事を思い知らされたため、さらなる改良と準備の期間を必要としたのだ。
とは言え、やってもやっても切りがなかった。十五歳になるまで寝る間を惜しんで魔法陣の解析と、解明できた魔法陣を使っての魔導具制作に明け暮れたのだが、それでも満足できる量と質には至っていなかったのだ。
だが、いつまでも甘えていられない。この世界では十五歳は成人と認められる年齢なのだ。そのため、どうであれこの日には家を出ようと決めていた。
一旦家を出て、外で研究を続ければよい。これまでの研究成果だけでも、細々と食べていける程度の収入は得られるだろうという公算はあった。
家を出る事を伝えると、母は少し悲しそうな顔をしながらも、クレイに「しっかりね」と言った。
父は「そうか」とひとこと言っただけであった。
ただ、言葉少なであったが、クレイの父ブランドは、クレイに餞別としてマジックポーチをくれたのであった。内部が魔法的に拡張されていて、見た目の何倍もモノが入るという代物である。しかも、その容量はとてつもなく大きいのであった。
実はこれは、曽祖父がどこかから手に入れた古代文明の遺物で、ヴァレット家の家宝となってもおかしくないモノであったのだが、ブランドはクレイが持っていたほうが祖父も喜ぶだろうと渡してくれたのだ。(その事をクレイは大分後に知る事になるのであったが。)
ポーチの中には少なくないお金と、地図と鍵が入っていた。
家を出たクレイが地図にしたがって町外れまで行ってみると、小さな家があった。なんと父は、クレイが住む家を用意してくれていたのだ。まずは宿屋にでも泊まって、仕事と住む家を探さなければと思っていたクレイにはとてもありがたい事であった。
用意されていた家は小さかったが、マジックポーチのおかげで特に不便はなかった。実家に置いていくしか無いと覚悟していたこれまでの研究資料や成果物なども、マジックポーチのおかげで全て持って来られたのも有り難かった。
何より、このマジックポーチのおかげで、停滞気味であったクレイの研究が一気に解決へと進んだのである。
両親には本当に感謝しかない。いつか恩返しをしようと思うクレイであった。
* * * *
そして、それからさらに五年の歳月が流れ、二十歳になったクレイは第二の旅立ちの時を迎える。
目覚ましい進化を遂げた研究成果を引っ提げ、クレイは冒険者になる事を決意したのだ。
(研究のさらなる飛躍のために、ダンジョンや古代遺跡等で手に入る前文明の遺物を手に入れるためである。)
だが、受付嬢は怪訝な顔をした。
受付嬢 「冒険者に? あなたがですか?」
冒険者を目指そうとするには、クレイは少々とうが立っていたためである。十二歳から十五歳程度でこの道に入るのが普通である。中にはもっと幼い時から活動している者もいる。そして、早い者ならクレイの年齢の頃には引退してしまう場合すらもあるのだ。
受付嬢 「失礼ですが、お仕事は…? 何かされていたのですよね?」
クレイ 「ああ、魔導具作りをしている」
受付嬢 「それなのに、今更冒険者に? ああ、魔導具作りでは儲からないからという感じですかね? ……ってすみません、余計な詮索をしました。来るものは拒まないのが冒険者ギルドのルールですからね。では、申込書を書いて、適正試験を受けて下さい」
クレイ 「え? 試験があるのか?」
実はクレイは、申込書を一枚書けば、登録は簡単に終わると思っていたのだ。確か前世で読んだラノベではそうだったはず。
まぁ今更やめますとも言えないし臆する理由もないので、クレイはとりあえず申込書に名前その他を書き渡した。
受付嬢 「ではこちらへどうそ……まずは、魔力を測定して冒険者証を作ります。この水晶玉に手を載せて下さい」
クレイ 「…ちなみに…」
受付嬢 「…なんでしょうか?」
クレイ 「魔力が少ないとか、まったくないとかだと、登録はできないのか?」
受付嬢 「そうですねぇ…、登録できないという決まりがあるわけではないのですが、推奨はされません。魔力は冒険者の強さに直結していますから、魔力が少ないという事は、冒険者の活動は難しいという事になるでしょう」
クレイ 「だが、冒険者はほとんどが平民出身だろう? 平民は貴族ほど魔力は多くはないはずだが…」
受付嬢 「平民だけというわけではありませんわ。貴族でありながら冒険者をしている人も居ますし、中には事情があって貴族籍を抜けた元貴族なども居ますしね。そういう人は大抵、上位ランカーとなっていますが。
ただ、全体としては平民出身の冒険者が多いのは確かです。それでも、平民の中では魔力量が多いという人が冒険者になるケースが多いんです。まぁそれでも、貴族の魔力量とは比べものにはならないのですが…」
クレイ 「ある意味、中途半端な者が多いって事か」
中途半端と言ったのが近くに居た冒険者に聞こえて不愉快そうな顔をしていた。
受付嬢 「もしかして、魔力量に自信がないんですね? であれば、街の中での依頼しか受けられないHランクという特別ランクもありますよ?」
クレイ 「いや、Hランクはちょっと……街の便利屋みたいな扱いだろう? 俺は、ちょっとやりたい事があって街の外に出たいんだよ」
この国にある街はほぼ全てが城郭都市となっている。それは、強力な魔物が街の外を闊歩しており、大変危険だからである。
街から出るには、重装備の護衛団がついたキャラバンなどに参加するしかないのだ。
だが、冒険者はその活動の特性(街の外で魔物を狩って減らす)から、自由に出入りする事が許されているのだ。少人数で街を出る冒険者というのは、ある意味命知らずとも言える。
受付嬢 「魔物と戦う力がないのに街の外に出たら死ぬだけですよ?」
クレイ 「戦う力はある。俺は魔導具を作ってると言ったろう?」
クレイはそう言いながら水晶の上に手を置いた。
しかし、水晶は反応せず……
…いや、よく見ると、ほんの僅かにだが、光っているようだ。
受付嬢 「魔導具で戦うんですか? …あ~、少ないですね。あっ! すいません、余計な事を……」
慌てて受付嬢は頭を下げた。周囲で聞き耳を立てている冒険者も居るのだ、そんな情報を周囲に聞こえるように言ってしまうのは受付嬢としては失格である。
クレイ 「いや、構わんよ、本当の事だからな。で、その少ない魔力量でも冒険者に登録はできるか?」
受付嬢 「それは…、駄目という規則はないので、どうしても、と言う事であれば……。試験を受けて頂いて、その結果を見てギルドマスターの判断次第、という事になりますが」
クレイ 「試験はどんな? まさか、木剣持って模擬戦やれとか言わないよな?」
受付嬢 「ええ、仰る通り、試験官と模擬戦をやってもらう事が多いですよ」
クレイ 「それはちょっと……俺は近接戦闘は弱いんでなぁ、別の試験にならないか? 例えば~」
『弱い癖にどうやって冒険者やるつもりなんだァ?』
近くで聞いていた冒険者が横から口を出してきた。
クレイ 「…魔導具作ってるって言っただろ? 戦うための武器を持ってる。ただ、その武器は威力が強すぎるから、魔物相手ならぶち殺してしまえばいいが、人間相手の模擬戦では使えないだろう? 模擬戦で相手を殺しちまったらさすがにまずいだろ」
冒険者 「魔導具だぁ? そんなものが実際の戦闘で役に立つかよ…?」
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