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134. 翠玉色の光
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真龍を真っ二つにした剛剣がまともに入って上空から墜落……、その死はゆるぎないように見えた。生命の火が消えてゆく――――。
妖しく揺れる皆既日食に覆われた戦場には、不気味な静けさが戻ってきた。風だけが、呟くように吹き抜けていく。俺たちの物語の終わりを告げているかのようだ。
『ねぇ! あなたってばぁ!!』
ドロシーの叫びももうほとんど聞こえない。
ごめん。俺は守れなかった――――。
たくさんの思い出が、走馬灯のように駆け巡る。笑顔、涙、約束……。
最期の思いを抱きながら、俺の意識は完全に途切れた。闇が全てを包み込み、静寂だけが残される。
◇
そこは暗闇……。なぎ倒されて燻ぶる木々の間で、俺は目を開ける。焦げ臭い匂いが鼻をつき、遠くではまだパチパチと木のはぜる音がした。
俺は衝撃で意識が混濁し、自分が今、何をやっているのか分からなかった。頭の中で記憶が霧のように揺らめき、確かなものを掴もうとしても指の間をすり抜けていく。ただ一つ、心の奥底で燃えているのは、誰かを守らなければという強い思い――――。
見上げると満天の星々の中に美しい光のリングが浮かんでいる。リングから放たれる幻想的な光芒は、まるでこの世の物とは思えない禍々しさを持って俺の目に映った。翠玉色の光が闇を染め上げ、倒れた木々の影が不気味に揺らめいている。
『あなたぁ! 聞こえる? あなたぁ! うっうっうっ……』
ドロシーの声が頭の奥に響く……。
ドロシー……、俺の愛しい人……、どうしたんだろう……。彼女の泣き声が、俺の心を抉るように痛ませる。
身体のあちこちが痛い……。まるで全身を鉄の棒で殴られたかのような鈍痛が、波のように押し寄せてくる。呼吸をするたびに、肋骨が軋むような感覚。
「いててて……」
思わず漏れた呻き声は、弱々しく暗闇に溶けていった。
『あなたぁ! 大丈夫?!』
ここで俺はようやく正気を取り戻した。意識の霧が晴れ、現実が鮮明に浮かび上がってくる。戦乙女との戦い、世界を救うための必死の抵抗。すべての記憶が一気に押し寄せてきた。
『あ、あれ? 生きてる……。なんで……?』
自分の声が不思議なほど遠くから聞こえる。
『あなたぁ! 無事なの!?』
彼女の声に、安堵と不安が入り混じっている。
『うん、まぁ、なんとか……』
『あなたぁ……、うわぁぁん!』
ドロシーの泣き声を聞きながら、俺は斬られたところを見てみた。すると、胸ポケットに入れていたバタフライナイフがひしゃげていた。銀色の金属がかすかなリングの光を反射して、歪な光を放っている。なるほど、こいつが俺を守ってくれたらしい。運命の糸が一本、確かにここで俺の命をつなぎとめてくれたのだ。
戦乙女の剣といえどもアーティファクトは両断できなかったようだ。そして、俺のレベル六万の防御力、これが破滅的な被害を防いでくれたようだ。首の皮一枚繋がって、死の淵から這い上がってきた実感が、じわじわと体中に広がっていく。
まさに九死に一生を得た俺はふぅっと大きく息をつき、自らの異常な幸運に感謝をした。荒野を渡る風が頬を撫でていき、生きているという実感を運んでくる。今この瞬間、生かされているという事実が、これほどまでに鮮烈に感じられたことはなかった。
妖しく揺れる皆既日食に覆われた戦場には、不気味な静けさが戻ってきた。風だけが、呟くように吹き抜けていく。俺たちの物語の終わりを告げているかのようだ。
『ねぇ! あなたってばぁ!!』
ドロシーの叫びももうほとんど聞こえない。
ごめん。俺は守れなかった――――。
たくさんの思い出が、走馬灯のように駆け巡る。笑顔、涙、約束……。
最期の思いを抱きながら、俺の意識は完全に途切れた。闇が全てを包み込み、静寂だけが残される。
◇
そこは暗闇……。なぎ倒されて燻ぶる木々の間で、俺は目を開ける。焦げ臭い匂いが鼻をつき、遠くではまだパチパチと木のはぜる音がした。
俺は衝撃で意識が混濁し、自分が今、何をやっているのか分からなかった。頭の中で記憶が霧のように揺らめき、確かなものを掴もうとしても指の間をすり抜けていく。ただ一つ、心の奥底で燃えているのは、誰かを守らなければという強い思い――――。
見上げると満天の星々の中に美しい光のリングが浮かんでいる。リングから放たれる幻想的な光芒は、まるでこの世の物とは思えない禍々しさを持って俺の目に映った。翠玉色の光が闇を染め上げ、倒れた木々の影が不気味に揺らめいている。
『あなたぁ! 聞こえる? あなたぁ! うっうっうっ……』
ドロシーの声が頭の奥に響く……。
ドロシー……、俺の愛しい人……、どうしたんだろう……。彼女の泣き声が、俺の心を抉るように痛ませる。
身体のあちこちが痛い……。まるで全身を鉄の棒で殴られたかのような鈍痛が、波のように押し寄せてくる。呼吸をするたびに、肋骨が軋むような感覚。
「いててて……」
思わず漏れた呻き声は、弱々しく暗闇に溶けていった。
『あなたぁ! 大丈夫?!』
ここで俺はようやく正気を取り戻した。意識の霧が晴れ、現実が鮮明に浮かび上がってくる。戦乙女との戦い、世界を救うための必死の抵抗。すべての記憶が一気に押し寄せてきた。
『あ、あれ? 生きてる……。なんで……?』
自分の声が不思議なほど遠くから聞こえる。
『あなたぁ! 無事なの!?』
彼女の声に、安堵と不安が入り混じっている。
『うん、まぁ、なんとか……』
『あなたぁ……、うわぁぁん!』
ドロシーの泣き声を聞きながら、俺は斬られたところを見てみた。すると、胸ポケットに入れていたバタフライナイフがひしゃげていた。銀色の金属がかすかなリングの光を反射して、歪な光を放っている。なるほど、こいつが俺を守ってくれたらしい。運命の糸が一本、確かにここで俺の命をつなぎとめてくれたのだ。
戦乙女の剣といえどもアーティファクトは両断できなかったようだ。そして、俺のレベル六万の防御力、これが破滅的な被害を防いでくれたようだ。首の皮一枚繋がって、死の淵から這い上がってきた実感が、じわじわと体中に広がっていく。
まさに九死に一生を得た俺はふぅっと大きく息をつき、自らの異常な幸運に感謝をした。荒野を渡る風が頬を撫でていき、生きているという実感を運んでくる。今この瞬間、生かされているという事実が、これほどまでに鮮烈に感じられたことはなかった。
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