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109. 自己啓発本の教え
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俺たちは素知らぬ顔で屋敷の玄関を通り過ぎ、衛兵と配達員が話し始めるタイミングを見計らう――――。
俺は隣家の玄関のドアを素早くナイフで切ってググっと大きく広げた。
ドアの向こうがどうなっているかなんて全く分からない。完全なる賭けだった。
素早く物音も立てずに自然にすっと二人は忍び込む――――。
嫌な汗が背中を流れた。
潜り抜けると玄関はホールになっており、左右に廊下が続いている。
「誰も……、いない? 良かった……」
とりあえずはセーフのようで、俺は安堵の息をついた。ヌチ・ギの屋敷に忍び込む前に終わってしまっては泣くに泣けない。
俺はアバドンと目配せをしてヌチ・ギの屋敷側へと早足で進む。
その時だった――――。
ガチャッ!
前の方でドアが開いてしまう。
もはや逃げ場もない。ぶわっと全身が総毛立つ感覚が広がった――――。
果たして、出てきたのはメイド。
さてどうする?
俺は心臓が止まりそうになる。
大ピンチではあるが、ビビる姿を見せるのは絶対にダメだ。
俺は何食わぬ顔で、
「ご苦労様です!」
と、手を軽く上げ、ニコッと笑った。マズい時こそ笑顔で。日本の自己啓発本に書いてあったような気がした。
メイドは怪訝そうな顔をしながら会釈する。その目には、疑いの色が浮かんでいるが、彼女にもすぐに騒ぐだけの情報が無かった。
騒がれなければ勝ちなのだ。俺はニヤッと笑いながら足早に廊下を進んでいく。
俺は思わず笑いそうになった。命すら惜しくない奪還計画において、この手の障害はむしろ楽しくすら感じてくる。普段やらないとんでもないことを堂々とやる、そんな機会はそうそうないのだ。
廊下の突き当りまでくると、俺は壁をナイフで素早く切り、アバドンとすぐに潜り込む。後ろの方で悲鳴が聞こえたが気にせずに進んでいく。まるでその悲鳴が、俺たちの背中を押すかのようだった。
壁をくぐればもうヌチ・ギの屋敷――――。
いよいよ敵陣潜入である。俺はこれから始まる無理筋の挑戦にゴクリと息を呑んだ。
降り立つとそこは、薄暗いガランとした部屋だった。ほこりをかぶった椅子や箱が並んでおり、長く使われていない様子である。
俺は神経を研ぎ澄まし、部屋の中を静かにチェックしていく。ここは世界の管理者の屋敷である。常識でとらえてはならない。
するとドアのむこうから声が響いてくる。どうやらさっきの警備兵と配達員らしい。俺はそっとドアに近づくとナイフでドアに切れ目を入れた。
大きく深呼吸すると息を止め、そっと開いて向こうをのぞく――――。
ドアの向こうはエレベーターホール。配達員が世間話をしながら大きなエレベーターに台車の荷物を載せている所だった。エレベーターを鑑定してみると、『空間転移装置』と出た。つまり本当の屋敷への転送装置という事らしい。やはり予想通りこの屋敷はただの玄関だった。
と、なると、自分たちもこのエレベーターに乗る以外ない。
(これに……乗るか?)
俺の心臓が激しく鼓動するのを感じた。エレベーターの起動方法が分からない以上、今この荷物と共に転送してもらうしかないがそれは大いなる賭けになる。
くぅぅぅ……。
しかし、このエレベーターの向こうにドロシーがいる。乗る以外ないのだ。
「あと一個です」
そう言って配達員が台車を押して玄関へと移動し、警備兵も後をついて行った。
いきなり訪れた絶好のチャンス。行くならここしかない――――。
汗ばんだ額を腕で拭う配達員の背中に、ユータは緊張の面持ちで目を凝らした。玄関から彼らが消えるのを確認し、俺とアバドンは顔を見合わせ、無言で頷き合う。
俺は隣家の玄関のドアを素早くナイフで切ってググっと大きく広げた。
ドアの向こうがどうなっているかなんて全く分からない。完全なる賭けだった。
素早く物音も立てずに自然にすっと二人は忍び込む――――。
嫌な汗が背中を流れた。
潜り抜けると玄関はホールになっており、左右に廊下が続いている。
「誰も……、いない? 良かった……」
とりあえずはセーフのようで、俺は安堵の息をついた。ヌチ・ギの屋敷に忍び込む前に終わってしまっては泣くに泣けない。
俺はアバドンと目配せをしてヌチ・ギの屋敷側へと早足で進む。
その時だった――――。
ガチャッ!
前の方でドアが開いてしまう。
もはや逃げ場もない。ぶわっと全身が総毛立つ感覚が広がった――――。
果たして、出てきたのはメイド。
さてどうする?
俺は心臓が止まりそうになる。
大ピンチではあるが、ビビる姿を見せるのは絶対にダメだ。
俺は何食わぬ顔で、
「ご苦労様です!」
と、手を軽く上げ、ニコッと笑った。マズい時こそ笑顔で。日本の自己啓発本に書いてあったような気がした。
メイドは怪訝そうな顔をしながら会釈する。その目には、疑いの色が浮かんでいるが、彼女にもすぐに騒ぐだけの情報が無かった。
騒がれなければ勝ちなのだ。俺はニヤッと笑いながら足早に廊下を進んでいく。
俺は思わず笑いそうになった。命すら惜しくない奪還計画において、この手の障害はむしろ楽しくすら感じてくる。普段やらないとんでもないことを堂々とやる、そんな機会はそうそうないのだ。
廊下の突き当りまでくると、俺は壁をナイフで素早く切り、アバドンとすぐに潜り込む。後ろの方で悲鳴が聞こえたが気にせずに進んでいく。まるでその悲鳴が、俺たちの背中を押すかのようだった。
壁をくぐればもうヌチ・ギの屋敷――――。
いよいよ敵陣潜入である。俺はこれから始まる無理筋の挑戦にゴクリと息を呑んだ。
降り立つとそこは、薄暗いガランとした部屋だった。ほこりをかぶった椅子や箱が並んでおり、長く使われていない様子である。
俺は神経を研ぎ澄まし、部屋の中を静かにチェックしていく。ここは世界の管理者の屋敷である。常識でとらえてはならない。
するとドアのむこうから声が響いてくる。どうやらさっきの警備兵と配達員らしい。俺はそっとドアに近づくとナイフでドアに切れ目を入れた。
大きく深呼吸すると息を止め、そっと開いて向こうをのぞく――――。
ドアの向こうはエレベーターホール。配達員が世間話をしながら大きなエレベーターに台車の荷物を載せている所だった。エレベーターを鑑定してみると、『空間転移装置』と出た。つまり本当の屋敷への転送装置という事らしい。やはり予想通りこの屋敷はただの玄関だった。
と、なると、自分たちもこのエレベーターに乗る以外ない。
(これに……乗るか?)
俺の心臓が激しく鼓動するのを感じた。エレベーターの起動方法が分からない以上、今この荷物と共に転送してもらうしかないがそれは大いなる賭けになる。
くぅぅぅ……。
しかし、このエレベーターの向こうにドロシーがいる。乗る以外ないのだ。
「あと一個です」
そう言って配達員が台車を押して玄関へと移動し、警備兵も後をついて行った。
いきなり訪れた絶好のチャンス。行くならここしかない――――。
汗ばんだ額を腕で拭う配達員の背中に、ユータは緊張の面持ちで目を凝らした。玄関から彼らが消えるのを確認し、俺とアバドンは顔を見合わせ、無言で頷き合う。
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