75 / 193
75. 神様たちの神
しおりを挟む
「え……? 消された?」
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「そうじゃ、一瞬で全部消された……それはもう跡形もなく……」
レヴィアの真紅の目に、恐怖の色が浮かび、ブルっと震えた。
「え? なぜですか?」
声が震え、全身に冷たいものが走る。
「あのお方の理想に合致しない星はすぐに消され、また新たな別の星が作られるんじゃ。もし、お主の注進で、気分を害されたら……この星も終わりじゃ」
「そ、そんな……」
俺は全身から血の気が引くのを感じた。この星が消されるということは、俺もドロシーもみんなも街も全部消されてしまう……そんなことになったら最悪だ。その想像だけで、胸が締め付けられる。
「元気で発展しているうちはいい、じゃが……停滞してる星は危ない……」
「じゃぁここもヤバい?」
俺の声が裏返る。恐怖が全身を支配する。
「そうなんじゃよ……。わしが手をこまねいてるのもそれが理由なんじゃ……。消されたら……、困るでのう……」
俺は絶句した。レヴィアの言葉に、この世界の脆さを痛感する。
美奈先輩の恐るべき世界支配に比べたら、ヌチ・ギのいたずらなんて可愛いものかもしれない。サークルでみんなと楽しそうに踊っていた先輩が、なぜそんな大量虐殺みたいなことに手を染めるのか、俺にはさっぱりわからなかった。その矛盾に、頭が混乱する。
「そもそも、ヴィーナ様とはどんなお方なんですか?」
俺は必死に理解しようとする。
「神様の神様じゃよ。詳しくは言えんがな」
神様とは『この星の創造者』って意味だろうが、単に創造者ではなく、そのまた神様だという……。一体どういうことだろうか……? その複雑な構造に首を傾げた。
「ちと、しゃべり過ぎてしまったのう、もう、お帰り」
レヴィアはそう言うと、指先で斜めに空中に線を引いた。すると、ピシッと音を立てて空間が割れ、レヴィアはそれを両手でぐっと広げる。向こうを見ると、なんとそこは俺の店の裏の空き地だった。
レヴィアはドロシーが寝ているカヌーをそっと飛行魔法で持ち上げると、ツーっと切れ目を通し、静かに空地に置いた。その優しい仕草に、俺は少し安心を覚える。
「何か困ったことがあったら我の名を呼ぶのじゃ。気が向いたら何とかしよう」
レヴィアはニッコリと温かく笑った。あの恐ろしいドラゴンとは全くの別人のようである。
「頼りにしています!」
俺はそう言うと切れ目に飛び込む――――。
そこは確かにいつもの空き地だった。宮崎にいたのに一歩で愛知……。確かに仮想現実空間というのはとても便利なものである。
「では、達者でな!」
レヴィアは、俺に手を振りながら空間の切れ目を閉じていった。
「ありがとうございました!」
俺は深々と頭を下げ、思慮深く慈愛に満ちたドラゴンに深く感謝をした。
それにしても、この世界も地球も海王星で合成されているという話は、一体どう考えたらいいのか途方に暮れる。俺を産み出し、ドロシーやこの街を産み出し、運営してくれていることについては凄く感謝するが……、一体何のために? そして、活気がなくなったら容赦なく星ごと消すという美奈先輩の行動も良く分からない。
謎を一つ解決するとさらに謎が増えるという、この世界の深さに俺は気が遠くなった。
◇
さて、帰ってきたぞ……。
午前中、飛び立ったばかりの空き地なのに、何だか久しぶりのような違和感があった。それだけ密度が濃い時間だったということだろう。
俺はすっかり傷だらけで汚れ切った朱色のカヌーに駆け寄り、横たわるドロシーの様子を見た。その姿は、まるで長い冒険の末に眠りについた姫様のようだ。
ドロシーはスースーと寝息を立てて寝ている。その寝顔は、さっきまでの驚異的な体験を忘れさせるほど穏やかだ。
「はい、ドロシー、着いたよ」
俺は優しく声をかける。
「うぅん……」
ドロシーは小さく呻いた。
俺は優しく髪をなでる。
「ドロシー、起きて……」
その髪の感触に、デジタルではあるが、この世界の確かさを再確認する。
ドロシーはむっくりと起き上がる――――。
「あ、あれ? ド、ドラゴンは?」
周りを見回すドロシー。その目には、まだ旅の名残りが残っている。
「うーん……、夢だったのかなぁ……?」
首をかしげる仕草に、俺は思わず微笑んでしまう。
「ドラゴンはね、無事解決。ところで、今晩『お疲れ会』やろうと思うけどどう?」
ドラゴンは置いておいて、今晩の予定に話しを振る。レヴィアのことを上手く説明する言葉を俺は持ち合わせていなかったのだ。
「さすがユータね……。お疲れ会って?」
ドロシーの目が少し輝く。
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「そうじゃ、一瞬で全部消された……それはもう跡形もなく……」
レヴィアの真紅の目に、恐怖の色が浮かび、ブルっと震えた。
「え? なぜですか?」
声が震え、全身に冷たいものが走る。
「あのお方の理想に合致しない星はすぐに消され、また新たな別の星が作られるんじゃ。もし、お主の注進で、気分を害されたら……この星も終わりじゃ」
「そ、そんな……」
俺は全身から血の気が引くのを感じた。この星が消されるということは、俺もドロシーもみんなも街も全部消されてしまう……そんなことになったら最悪だ。その想像だけで、胸が締め付けられる。
「元気で発展しているうちはいい、じゃが……停滞してる星は危ない……」
「じゃぁここもヤバい?」
俺の声が裏返る。恐怖が全身を支配する。
「そうなんじゃよ……。わしが手をこまねいてるのもそれが理由なんじゃ……。消されたら……、困るでのう……」
俺は絶句した。レヴィアの言葉に、この世界の脆さを痛感する。
美奈先輩の恐るべき世界支配に比べたら、ヌチ・ギのいたずらなんて可愛いものかもしれない。サークルでみんなと楽しそうに踊っていた先輩が、なぜそんな大量虐殺みたいなことに手を染めるのか、俺にはさっぱりわからなかった。その矛盾に、頭が混乱する。
「そもそも、ヴィーナ様とはどんなお方なんですか?」
俺は必死に理解しようとする。
「神様の神様じゃよ。詳しくは言えんがな」
神様とは『この星の創造者』って意味だろうが、単に創造者ではなく、そのまた神様だという……。一体どういうことだろうか……? その複雑な構造に首を傾げた。
「ちと、しゃべり過ぎてしまったのう、もう、お帰り」
レヴィアはそう言うと、指先で斜めに空中に線を引いた。すると、ピシッと音を立てて空間が割れ、レヴィアはそれを両手でぐっと広げる。向こうを見ると、なんとそこは俺の店の裏の空き地だった。
レヴィアはドロシーが寝ているカヌーをそっと飛行魔法で持ち上げると、ツーっと切れ目を通し、静かに空地に置いた。その優しい仕草に、俺は少し安心を覚える。
「何か困ったことがあったら我の名を呼ぶのじゃ。気が向いたら何とかしよう」
レヴィアはニッコリと温かく笑った。あの恐ろしいドラゴンとは全くの別人のようである。
「頼りにしています!」
俺はそう言うと切れ目に飛び込む――――。
そこは確かにいつもの空き地だった。宮崎にいたのに一歩で愛知……。確かに仮想現実空間というのはとても便利なものである。
「では、達者でな!」
レヴィアは、俺に手を振りながら空間の切れ目を閉じていった。
「ありがとうございました!」
俺は深々と頭を下げ、思慮深く慈愛に満ちたドラゴンに深く感謝をした。
それにしても、この世界も地球も海王星で合成されているという話は、一体どう考えたらいいのか途方に暮れる。俺を産み出し、ドロシーやこの街を産み出し、運営してくれていることについては凄く感謝するが……、一体何のために? そして、活気がなくなったら容赦なく星ごと消すという美奈先輩の行動も良く分からない。
謎を一つ解決するとさらに謎が増えるという、この世界の深さに俺は気が遠くなった。
◇
さて、帰ってきたぞ……。
午前中、飛び立ったばかりの空き地なのに、何だか久しぶりのような違和感があった。それだけ密度が濃い時間だったということだろう。
俺はすっかり傷だらけで汚れ切った朱色のカヌーに駆け寄り、横たわるドロシーの様子を見た。その姿は、まるで長い冒険の末に眠りについた姫様のようだ。
ドロシーはスースーと寝息を立てて寝ている。その寝顔は、さっきまでの驚異的な体験を忘れさせるほど穏やかだ。
「はい、ドロシー、着いたよ」
俺は優しく声をかける。
「うぅん……」
ドロシーは小さく呻いた。
俺は優しく髪をなでる。
「ドロシー、起きて……」
その髪の感触に、デジタルではあるが、この世界の確かさを再確認する。
ドロシーはむっくりと起き上がる――――。
「あ、あれ? ド、ドラゴンは?」
周りを見回すドロシー。その目には、まだ旅の名残りが残っている。
「うーん……、夢だったのかなぁ……?」
首をかしげる仕草に、俺は思わず微笑んでしまう。
「ドラゴンはね、無事解決。ところで、今晩『お疲れ会』やろうと思うけどどう?」
ドラゴンは置いておいて、今晩の予定に話しを振る。レヴィアのことを上手く説明する言葉を俺は持ち合わせていなかったのだ。
「さすがユータね……。お疲れ会って?」
ドロシーの目が少し輝く。
32
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる