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75. 神様たちの神
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「え……? 消された?」
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「そうじゃ、一瞬で全部消された……それはもう跡形もなく……」
レヴィアの真紅の目に、恐怖の色が浮かび、ブルっと震えた。
「え? なぜですか?」
声が震え、全身に冷たいものが走る。
「あのお方の理想に合致しない星はすぐに消され、また新たな別の星が作られるんじゃ。もし、お主の注進で、気分を害されたら……この星も終わりじゃ」
「そ、そんな……」
俺は全身から血の気が引くのを感じた。この星が消されるということは、俺もドロシーもみんなも街も全部消されてしまう……そんなことになったら最悪だ。その想像だけで、胸が締め付けられる。
「元気で発展しているうちはいい、じゃが……停滞してる星は危ない……」
「じゃぁここもヤバい?」
俺の声が裏返る。恐怖が全身を支配する。
「そうなんじゃよ……。わしが手をこまねいてるのもそれが理由なんじゃ……。消されたら……、困るでのう……」
俺は絶句した。レヴィアの言葉に、この世界の脆さを痛感する。
美奈先輩の恐るべき世界支配に比べたら、ヌチ・ギのいたずらなんて可愛いものかもしれない。サークルでみんなと楽しそうに踊っていた先輩が、なぜそんな大量虐殺みたいなことに手を染めるのか、俺にはさっぱりわからなかった。その矛盾に、頭が混乱する。
「そもそも、ヴィーナ様とはどんなお方なんですか?」
俺は必死に理解しようとする。
「神様の神様じゃよ。詳しくは言えんがな」
神様とは『この星の創造者』って意味だろうが、単に創造者ではなく、そのまた神様だという……。一体どういうことだろうか……? その複雑な構造に首を傾げた。
「ちと、しゃべり過ぎてしまったのう、もう、お帰り」
レヴィアはそう言うと、指先で斜めに空中に線を引いた。すると、ピシッと音を立てて空間が割れ、レヴィアはそれを両手でぐっと広げる。向こうを見ると、なんとそこは俺の店の裏の空き地だった。
レヴィアはドロシーが寝ているカヌーをそっと飛行魔法で持ち上げると、ツーっと切れ目を通し、静かに空地に置いた。その優しい仕草に、俺は少し安心を覚える。
「何か困ったことがあったら我の名を呼ぶのじゃ。気が向いたら何とかしよう」
レヴィアはニッコリと温かく笑った。あの恐ろしいドラゴンとは全くの別人のようである。
「頼りにしています!」
俺はそう言うと切れ目に飛び込む――――。
そこは確かにいつもの空き地だった。宮崎にいたのに一歩で愛知……。確かに仮想現実空間というのはとても便利なものである。
「では、達者でな!」
レヴィアは、俺に手を振りながら空間の切れ目を閉じていった。
「ありがとうございました!」
俺は深々と頭を下げ、思慮深く慈愛に満ちたドラゴンに深く感謝をした。
それにしても、この世界も地球も海王星で合成されているという話は、一体どう考えたらいいのか途方に暮れる。俺を産み出し、ドロシーやこの街を産み出し、運営してくれていることについては凄く感謝するが……、一体何のために? そして、活気がなくなったら容赦なく星ごと消すという美奈先輩の行動も良く分からない。
謎を一つ解決するとさらに謎が増えるという、この世界の深さに俺は気が遠くなった。
◇
さて、帰ってきたぞ……。
午前中、飛び立ったばかりの空き地なのに、何だか久しぶりのような違和感があった。それだけ密度が濃い時間だったということだろう。
俺はすっかり傷だらけで汚れ切った朱色のカヌーに駆け寄り、横たわるドロシーの様子を見た。その姿は、まるで長い冒険の末に眠りについた姫様のようだ。
ドロシーはスースーと寝息を立てて寝ている。その寝顔は、さっきまでの驚異的な体験を忘れさせるほど穏やかだ。
「はい、ドロシー、着いたよ」
俺は優しく声をかける。
「うぅん……」
ドロシーは小さく呻いた。
俺は優しく髪をなでる。
「ドロシー、起きて……」
その髪の感触に、デジタルではあるが、この世界の確かさを再確認する。
ドロシーはむっくりと起き上がる――――。
「あ、あれ? ド、ドラゴンは?」
周りを見回すドロシー。その目には、まだ旅の名残りが残っている。
「うーん……、夢だったのかなぁ……?」
首をかしげる仕草に、俺は思わず微笑んでしまう。
「ドラゴンはね、無事解決。ところで、今晩『お疲れ会』やろうと思うけどどう?」
ドラゴンは置いておいて、今晩の予定に話しを振る。レヴィアのことを上手く説明する言葉を俺は持ち合わせていなかったのだ。
「さすがユータね……。お疲れ会って?」
ドロシーの目が少し輝く。
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「そうじゃ、一瞬で全部消された……それはもう跡形もなく……」
レヴィアの真紅の目に、恐怖の色が浮かび、ブルっと震えた。
「え? なぜですか?」
声が震え、全身に冷たいものが走る。
「あのお方の理想に合致しない星はすぐに消され、また新たな別の星が作られるんじゃ。もし、お主の注進で、気分を害されたら……この星も終わりじゃ」
「そ、そんな……」
俺は全身から血の気が引くのを感じた。この星が消されるということは、俺もドロシーもみんなも街も全部消されてしまう……そんなことになったら最悪だ。その想像だけで、胸が締め付けられる。
「元気で発展しているうちはいい、じゃが……停滞してる星は危ない……」
「じゃぁここもヤバい?」
俺の声が裏返る。恐怖が全身を支配する。
「そうなんじゃよ……。わしが手をこまねいてるのもそれが理由なんじゃ……。消されたら……、困るでのう……」
俺は絶句した。レヴィアの言葉に、この世界の脆さを痛感する。
美奈先輩の恐るべき世界支配に比べたら、ヌチ・ギのいたずらなんて可愛いものかもしれない。サークルでみんなと楽しそうに踊っていた先輩が、なぜそんな大量虐殺みたいなことに手を染めるのか、俺にはさっぱりわからなかった。その矛盾に、頭が混乱する。
「そもそも、ヴィーナ様とはどんなお方なんですか?」
俺は必死に理解しようとする。
「神様の神様じゃよ。詳しくは言えんがな」
神様とは『この星の創造者』って意味だろうが、単に創造者ではなく、そのまた神様だという……。一体どういうことだろうか……? その複雑な構造に首を傾げた。
「ちと、しゃべり過ぎてしまったのう、もう、お帰り」
レヴィアはそう言うと、指先で斜めに空中に線を引いた。すると、ピシッと音を立てて空間が割れ、レヴィアはそれを両手でぐっと広げる。向こうを見ると、なんとそこは俺の店の裏の空き地だった。
レヴィアはドロシーが寝ているカヌーをそっと飛行魔法で持ち上げると、ツーっと切れ目を通し、静かに空地に置いた。その優しい仕草に、俺は少し安心を覚える。
「何か困ったことがあったら我の名を呼ぶのじゃ。気が向いたら何とかしよう」
レヴィアはニッコリと温かく笑った。あの恐ろしいドラゴンとは全くの別人のようである。
「頼りにしています!」
俺はそう言うと切れ目に飛び込む――――。
そこは確かにいつもの空き地だった。宮崎にいたのに一歩で愛知……。確かに仮想現実空間というのはとても便利なものである。
「では、達者でな!」
レヴィアは、俺に手を振りながら空間の切れ目を閉じていった。
「ありがとうございました!」
俺は深々と頭を下げ、思慮深く慈愛に満ちたドラゴンに深く感謝をした。
それにしても、この世界も地球も海王星で合成されているという話は、一体どう考えたらいいのか途方に暮れる。俺を産み出し、ドロシーやこの街を産み出し、運営してくれていることについては凄く感謝するが……、一体何のために? そして、活気がなくなったら容赦なく星ごと消すという美奈先輩の行動も良く分からない。
謎を一つ解決するとさらに謎が増えるという、この世界の深さに俺は気が遠くなった。
◇
さて、帰ってきたぞ……。
午前中、飛び立ったばかりの空き地なのに、何だか久しぶりのような違和感があった。それだけ密度が濃い時間だったということだろう。
俺はすっかり傷だらけで汚れ切った朱色のカヌーに駆け寄り、横たわるドロシーの様子を見た。その姿は、まるで長い冒険の末に眠りについた姫様のようだ。
ドロシーはスースーと寝息を立てて寝ている。その寝顔は、さっきまでの驚異的な体験を忘れさせるほど穏やかだ。
「はい、ドロシー、着いたよ」
俺は優しく声をかける。
「うぅん……」
ドロシーは小さく呻いた。
俺は優しく髪をなでる。
「ドロシー、起きて……」
その髪の感触に、デジタルではあるが、この世界の確かさを再確認する。
ドロシーはむっくりと起き上がる――――。
「あ、あれ? ド、ドラゴンは?」
周りを見回すドロシー。その目には、まだ旅の名残りが残っている。
「うーん……、夢だったのかなぁ……?」
首をかしげる仕草に、俺は思わず微笑んでしまう。
「ドラゴンはね、無事解決。ところで、今晩『お疲れ会』やろうと思うけどどう?」
ドラゴンは置いておいて、今晩の予定に話しを振る。レヴィアのことを上手く説明する言葉を俺は持ち合わせていなかったのだ。
「さすがユータね……。お疲れ会って?」
ドロシーの目が少し輝く。
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