上 下
76 / 154

76. 三人の絆

しおりを挟む
「仲間を呼んで、美味しいものでも食べよう」

 そろそろアバドンもねぎらってあげたいと思っていたのだ。ドロシーにも紹介しておいた方が良さそうだし。

「え? 仲間……? い、いいけど……誰……なの?」

 ちょっと警戒するドロシー。

「ドロシーが襲われた時に首輪を外してくれた男がいたろ?」

「あ、あのなんか……ピエロみたいな大きな……人?」

 眉をひそめるドロシーの声には緊張の色が混じる。

「そうそう、アバドンって言うんだ。彼もちょっと労ってやりたいんだよね」

「あ、そうね……助けて……もらったしね……」

 ドロシーはうつむく。その様子に、俺は少し心配になった。

「大丈夫だって! 気の良い奴なんだ。仲良くしてやって」

 俺はにこやかに言う。

「う、うん……」

 ドロシーは小さくうなずいた。

 俺はアバドンに連絡を取る。アバドンは大喜びで、エールとテイクアウトの料理を持ってきてくれるらしい。その反応に、俺は少し安心する。


       ◇


 日も暮れて明かりを点ける頃、ドロシーがお店に戻ってきた。夕暮れの柔らかな光が、店内に優しく差し込む。

「こんばんは~」

 水浴びをしてきたようで、まだしっとりとした銀髪が新鮮に見える。その髪が夕陽に照らされ、まるで銀の糸のように輝いている。

 俺はテーブルをふきながら椅子を引いた。

「はい、座った座った! アバドンももうすぐ来るって」

「なんか……緊張しちゃうわ」

 ちょっと伏し目がちのドロシー。出会いへの不安と期待が垣間見える。

 カラン! カラン!

 タイミングよくドアが開き、夕暮れの風が店内に爽やかに流れ込む。

「はーい、皆さま、こんばんは~!」

 アバドンが両手に料理と飲み物満載して上機嫌でやってきた。その姿は、まるで祭りの道化師のようだ。

「うわー、こりゃ大変だ! ちょっとドロシーも手伝って!」

「う、うん」

 俺はアバドンの手からバスケットやら包みやらを取ってはドロシーに渡す。三人で協力し合う姿に新しい絆の芽生えを感じ、思わず笑みがこみあげてきた。

 あっという間に料理で埋め尽くされるテーブル――――。

「うわぁ! 凄いわ!」

 ドロシーは超豪華なテーブルに目をキラキラさせる。

「ドロシーのあねさん、初めて挨拶させていただきます、アバドンです。以後お見知りおきを……」

 アバドンはうやうやしく挨拶をする。魔人なのに彼の優しさと誠実さが伝わってくる。

 ドロシーは赤くなりながら、ペコリと頭を下げた。

「あ、あの時は……ありがとう。これからもよろしくお願いします」

 俺はそんな様子を微笑ましく眺め、大きなマグカップに樽からエールを注いで二人に渡した。

「それでは、ドロシーとアバドン、二人の献身に感謝をこめ、乾杯!」

 声に心からの感謝を込める。

「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 三人の声が重なり、店内に温かな空気が広がった――――。

 ゴクゴクとエールを飲み、爽やかなのど越し、鼻に抜けてくるホップの香りが俺を幸せに包む。

「くぅぅ!」

 俺は目をつぶり、今日あったいろんなことを思い出しながら幸せに浸った。ドラゴンとの出会い、世界の真実、そして今ここにいる大切な仲間たち。複雑な思いが胸に去来するが、この瞬間の幸せが何よりも大切だと感じる。

「姐さんは今日はどちら行ってきたんですか?」

 アバドンがドロシーに話題を振る。

「え? 海行って~、クジラ見て~」

 ドロシーは嬉しそうに今日あったことを思い出す。その目は、キラキラと輝いている。

「クジラって何ですか?」

 キョトンとするアバドンの質問に、ドロシーの目がさらに輝く。

「あのね、すっごーい大きな海の生き物なの! このお店には入らないくらいのサイズよね、ユータ!」

「そうそう、海の巨大生物。まるで泳ぐ島のようだったな。こーんな!」

 俺は少し大げさに両手を広げた。

「へぇ~、そんな物見たこともありませんや。見たかったなぁ……」

 アバドンの声には、驚きと羨望が混じっている。

「それがね、いきなりジャンプして、もうバッシャーンって!」

 ドロシーは両手を高く掲げ、クジラのジャンプを再現する。その嬉しそうな仕草に、見てる方もついほほ笑んでしまう。

「うっわーー! そりゃビックリですね!」

 アバドンも両手を広げながら上手く盛り上げる。

「で、その後、帆船がね、巨大なタコに襲われてて……」

「巨大タコ!?」

 驚くアバドン。その表情には、冒険物語を聞く子供のような純粋さが見える。

「クラーケンだよ、知らない?」

「あー、噂には聞いたことありますが……、私、海行かないもので……」

「それをユータがね、バシュ!って真っ二つにしたのよ」

 ドロシーの声には、誇らしさが溢れている。

「いよっ! さすが旦那様!」

 アバドンのヨイショが炸裂。

「いやいや、照れるね……、カンパーイ!」

 俺は頬が熱くなるのを感じながらジョッキを掲げる。

「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 三人の声が重なり、だいぶ飲み会も盛り上がってきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...