61 / 193
61. 風が作るウェーブ
しおりを挟む
「あ、そんなに力いっぱいしがみつかなくても大丈夫……だからね?」
「うふふ、いいじゃない、早くいきましょうよ!」
嬉しそうに微笑むドロシー。
俺は赤い顔でコホンと咳払いをした。
「と、当カヌーはこれより離陸いたします」
隠ぺい魔法と飛行魔法をかけ、徐々に魔力を注入していく――――。
ふわりと浮かび上がるカヌー。その瞬間、二人の心も宙に浮いたかのようだった。
「えっ!? えっ!? 本当に飛んだわ!」
驚きと喜びに湧くドロシー。
「ふふっ、冗談だと思ってたの?」
「だって、こんな魔法なんて聞いたことないもの……」
ドロシーは口をとがらせる。普通の飛行魔法では自分一人が浮き上がるのも大変なのだ。カヌーごと浮かび上がらせる魔法など前代未聞だった。
「まだまだ、驚くのはこれからだよ!」
俺はニヤッと笑うと魔力を徐々に上げていく。
カヌーは加速しながら上空へと浮かび上がり、建物の屋根をこえるとゆっくりと回頭して南西を向いた。眼下に広がる景色が、二人の心を高揚させる。
「うわぁ! すごい、すご~い!」
ドロシーが耳元で歓声を上げた。
上空からの風景は、いつもの街も全く違う様相を見せる。陽の光を浴びた屋根瓦はキラキラと光り、煙突からは湯気が上がってくる。
「あ、孤児院の屋根、壊れてるわ! あそこから雨漏りしてるのよ!」
ドロシーが目ざとく、屋根瓦が欠けているのを見つけて指さす。その鋭い観察眼に、俺は感心した。
「本当だ、後で直しておくよ」
「ふふっ、ユータは頼りになるわ……」
ドロシーは俺をぎゅっと抱きしめた。
ドロシーのしっとりとした頬が俺の頬にふれ、俺はドギマギしてしまう。
高度は徐々に上がり、街が徐々に小さくなっていく――――。
「うわぁ~、まるで街がオモチャみたいだわ……」
ドロシーは気持ちよい風に銀髪を躍らせた。
石造りの建物が王宮を中心として放射状に建ち並ぶ美しい街は、午前の澄んだ空気をまとって一つの芸術品のように見える。ちょうどポッカリと浮かぶ雲が影を作り、ゆったりと動きながら陰影を素敵に演出していた。
「綺麗だわ……」
ドロシーはウットリとしながら街を眺める。その瞳に、世界の美しさが映り込んでいた。
俺はそんなドロシーを見ながら、この瞬間を大切に心に刻もうと思った。
◇
「これより当カヌーは石垣島目指して加速いたします。危険ですのでしっかりとシートベルトを確認してくださ~い」
俺の声が風に乗って響く。
「はいはい、シートベルト……ヨシッ!」
ドロシーは可愛い声で安全確認。俺は思わず微笑んでしまう。
俺はステータス画面を出す。
「燃料……ヨシッ! パイロットの健康……ヨシッ!」
そしてドロシーを鑑定した。
「お客様……あれ? もしかしてお腹すいてる?」
HPが少し下がっているのを見つけたのだ。俺は少し心配になる。
「えへへ……。ちょっとダイエット……してるの……」
ドロシーは恥ずかしそうに下を向く。
「ダメダメ! 今日はしっかり栄養付けて!」
俺は足元の荷物からおやつ用のクッキーとお茶を取り出すと、ドロシーに渡した。
「ありがと!」
ドロシーは照れ笑いをし、クッキーをポリっと一口かじる。そよ風になびく銀髪が陽の光を反射してキラキラと輝いた。
「うふっ、美味しいわ! 景色がきれいだと何倍も美味しくなるわね」
ドロシーは幸せそうな顔をしながら街を見回す。
「そうだね……」
俺もクッキーをかじり、芳醇な甘みが広がっていくのを楽しんだ。俺の場合はドロシーと食べるから美味しいのだが。
ドロシーがクッキーを食べている間、ゆっくりと街の上を飛び、城壁を越え、麦畑の上に出てきた。
どこまでも続く金色の麦畑、風が作るウェーブがサーっと走っていく。そして、大きくカーブを描く川に反射する陽の光……、いつか見たゴッホの油絵を思い出し、しばし見入ってしまった。
「美味しかったわ、ありがと! 行きましょ!」
ドロシーが抱き着いてくる。俺は押し当てられる胸に、つい意識がいってしまうのをイカンイカンとふり払った。
「それでは行くよ~!」
防御魔法でカヌーに風よけのシールドを張る。この日のために高速飛行にも耐えられるような円錐状のシールドを開発したのだ。石垣島までは千数百キロ、ちんたら飛んでたら何時間もかかってしまう。ここは音速を超えて一気に行くのだ。
俺は一気にカヌーに魔力をこめた。グン! と急加速するカヌー。
「きゃあ!」
後ろから声が上がる。
カヌーを鑑定すると対地速度が表示されている。ぐんぐんと速度は上がり、あっという間に時速三百キロを超えた。
景色が飛ぶように流れていく――――。
「すごい! すご~い!」
耳元でドロシーが叫ぶ。
「ふふっ、まだまだこれからだよ」
しばらくこの新幹線レベルの速度で巡行し、観光しながらドロシーに慣れてもらおうと思う。
「うふふ、いいじゃない、早くいきましょうよ!」
嬉しそうに微笑むドロシー。
俺は赤い顔でコホンと咳払いをした。
「と、当カヌーはこれより離陸いたします」
隠ぺい魔法と飛行魔法をかけ、徐々に魔力を注入していく――――。
ふわりと浮かび上がるカヌー。その瞬間、二人の心も宙に浮いたかのようだった。
「えっ!? えっ!? 本当に飛んだわ!」
驚きと喜びに湧くドロシー。
「ふふっ、冗談だと思ってたの?」
「だって、こんな魔法なんて聞いたことないもの……」
ドロシーは口をとがらせる。普通の飛行魔法では自分一人が浮き上がるのも大変なのだ。カヌーごと浮かび上がらせる魔法など前代未聞だった。
「まだまだ、驚くのはこれからだよ!」
俺はニヤッと笑うと魔力を徐々に上げていく。
カヌーは加速しながら上空へと浮かび上がり、建物の屋根をこえるとゆっくりと回頭して南西を向いた。眼下に広がる景色が、二人の心を高揚させる。
「うわぁ! すごい、すご~い!」
ドロシーが耳元で歓声を上げた。
上空からの風景は、いつもの街も全く違う様相を見せる。陽の光を浴びた屋根瓦はキラキラと光り、煙突からは湯気が上がってくる。
「あ、孤児院の屋根、壊れてるわ! あそこから雨漏りしてるのよ!」
ドロシーが目ざとく、屋根瓦が欠けているのを見つけて指さす。その鋭い観察眼に、俺は感心した。
「本当だ、後で直しておくよ」
「ふふっ、ユータは頼りになるわ……」
ドロシーは俺をぎゅっと抱きしめた。
ドロシーのしっとりとした頬が俺の頬にふれ、俺はドギマギしてしまう。
高度は徐々に上がり、街が徐々に小さくなっていく――――。
「うわぁ~、まるで街がオモチャみたいだわ……」
ドロシーは気持ちよい風に銀髪を躍らせた。
石造りの建物が王宮を中心として放射状に建ち並ぶ美しい街は、午前の澄んだ空気をまとって一つの芸術品のように見える。ちょうどポッカリと浮かぶ雲が影を作り、ゆったりと動きながら陰影を素敵に演出していた。
「綺麗だわ……」
ドロシーはウットリとしながら街を眺める。その瞳に、世界の美しさが映り込んでいた。
俺はそんなドロシーを見ながら、この瞬間を大切に心に刻もうと思った。
◇
「これより当カヌーは石垣島目指して加速いたします。危険ですのでしっかりとシートベルトを確認してくださ~い」
俺の声が風に乗って響く。
「はいはい、シートベルト……ヨシッ!」
ドロシーは可愛い声で安全確認。俺は思わず微笑んでしまう。
俺はステータス画面を出す。
「燃料……ヨシッ! パイロットの健康……ヨシッ!」
そしてドロシーを鑑定した。
「お客様……あれ? もしかしてお腹すいてる?」
HPが少し下がっているのを見つけたのだ。俺は少し心配になる。
「えへへ……。ちょっとダイエット……してるの……」
ドロシーは恥ずかしそうに下を向く。
「ダメダメ! 今日はしっかり栄養付けて!」
俺は足元の荷物からおやつ用のクッキーとお茶を取り出すと、ドロシーに渡した。
「ありがと!」
ドロシーは照れ笑いをし、クッキーをポリっと一口かじる。そよ風になびく銀髪が陽の光を反射してキラキラと輝いた。
「うふっ、美味しいわ! 景色がきれいだと何倍も美味しくなるわね」
ドロシーは幸せそうな顔をしながら街を見回す。
「そうだね……」
俺もクッキーをかじり、芳醇な甘みが広がっていくのを楽しんだ。俺の場合はドロシーと食べるから美味しいのだが。
ドロシーがクッキーを食べている間、ゆっくりと街の上を飛び、城壁を越え、麦畑の上に出てきた。
どこまでも続く金色の麦畑、風が作るウェーブがサーっと走っていく。そして、大きくカーブを描く川に反射する陽の光……、いつか見たゴッホの油絵を思い出し、しばし見入ってしまった。
「美味しかったわ、ありがと! 行きましょ!」
ドロシーが抱き着いてくる。俺は押し当てられる胸に、つい意識がいってしまうのをイカンイカンとふり払った。
「それでは行くよ~!」
防御魔法でカヌーに風よけのシールドを張る。この日のために高速飛行にも耐えられるような円錐状のシールドを開発したのだ。石垣島までは千数百キロ、ちんたら飛んでたら何時間もかかってしまう。ここは音速を超えて一気に行くのだ。
俺は一気にカヌーに魔力をこめた。グン! と急加速するカヌー。
「きゃあ!」
後ろから声が上がる。
カヌーを鑑定すると対地速度が表示されている。ぐんぐんと速度は上がり、あっという間に時速三百キロを超えた。
景色が飛ぶように流れていく――――。
「すごい! すご~い!」
耳元でドロシーが叫ぶ。
「ふふっ、まだまだこれからだよ」
しばらくこの新幹線レベルの速度で巡行し、観光しながらドロシーに慣れてもらおうと思う。
63
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる