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62. 宙を舞う巨体
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コンパスを見ながら川沿いに海を目指すと、ほどなくして海が見えてきた。
青く広がる水平線にキラキラと煌めく太陽の光――――。
「これが海だよ、広いだろ?」
俺は後ろを向いた。
ドロシーは身を乗り出し、俺の肩の上で叫んだ。
「すご~い!!」
目をキラキラと輝かせながら海を眺めるドロシー――――。
つれてきて良かったと俺は心から思った。
それにしても、日本だったらこの辺に中部国際空港の人工島があるはずなのだが……、見えない。単純に地球をコピーしたわけではなさそうだ。その事実に、俺は改めてこの世界の不思議さを感じた。
俺は海面スレスレまで降りてきてカヌーを飛ばす。新幹線の速度でかっ飛んでいく朱色のカヌーは、海面に後方乱気流による水しぶきを放ちながら南西を目指す。
ドロシーは初めて見る水平線をじーっと眺め、何か物思いにふけっていた。
どこまでも続く青い水平線……、十八年間ずっと城壁の中で暮らしてきたドロシーには、きっと感慨深いものがあるのだろう。その思いを想像すると、俺の胸に温かいものが広がった。
「あ、あれ何かしら?」
ドロシーが沖を指さす。その声に、好奇心と驚きが混ざっていた。
見ると何やら白い煙が上がっている――――。
「どれどれ……」
鑑定をしてみると、
マッコウクジラ レア度:★★★
ハクジラ類の中で最も大きく、歯のある動物では世界最大
と、出た。
「うっひょー! クジラだ! 海にすむデカい生き物だよ」
クジラなんて俺も初めてである。
「え、そんなのがいるの?」
ドロシーは聞いたこともなかったらしい。
俺は速度を落とし、傾いてゆっくりと旋回しながらクジラの方に進路をとった。
やがて碧く透き通った海の中に長く巨大なマッコウクジラの巨体が悠然と泳いでいるのが見えてきた。その長さはゆうに十メートルを超えている。
デカいーーーー。
その光景に、俺とドロシーは息を呑んだ。
そばに小型のクジラが寄り添っている。多分、子供だろう。
まるで太古の昔から変わらない自然の営みを目の当たりにしているかのようだった。クジラの悠々とした泳ぎに、時間がゆっくりと流れているような錯覚さえ覚える。
「ねえ、ユータ……」
ドロシーの澄んだ声が、風に乗って耳に届く。
「なぁに?」
「こんな世界があったなんて……私、知らなかった」
その言葉に、心が温まってくる。ドロシーの目に映る世界の広がりを、俺も同時に感じているような気がした。
二人は言葉を交わさずに、ただその瞬間を共有していた。海の匂い、潮風の感触、キラキラと輝く海面――――。全てが新鮮で、心に深く刻まれていく。
俺は静かにカヌーを操縦し、クジラたちの邪魔にならない距離を保ちながら、この奇跡的な出会いをできるだけ長く楽しもうと思った。
「本当に大きいわぁ……」
嬉しそうにクジラを見つめるドロシー。
「歯がある生き物では世界最大なんだって」
俺は知識を披露しながら、ドロシーの反応を楽しんでいた。
「ふぅん……あっ、潜り始めたわよ」
クジラはゆったりと潜っていく……。その優雅な動きに、二人は息を呑んだ。
「どこまで潜るのかしら?」
「さぁ……、深海でデカいイカを食べてるって聞いたことあるけど……」
などと話をしていると、急にクジラが急上昇を始めた。その突然の変化に、俺の心臓が跳ね上がる。
「え? まさか……」
クジラはものすごい速度で海面を目指してくる。その迫力に、俺は思わず身構えた。
「え、ちょっと、ヤバいかも!?」
クジラはその勢いのまま空中に飛び出した。二十トンはあろうかという巨体がすぐ目の前で宙を舞う。巨大なヒレを大きく空に伸ばし、水しぶきを陽の光でキラキラと輝かせながらその美しい巨体は華麗なダンスを披露する。その光景は、まさに圧倒的なアートだった。
「おぉぉぉ……」「うわぁ……」
圧倒される二人……。その瞬間、時が止まったかのようだった。
そのまま背中から海面に落ちていくクジラ――――。
ズッバーン!
ものすごい轟音が響き、盛大な水柱が上がる。それをまともにくらったカヌーは小さな木の葉のように揺さぶられた。
「キャ――――!!」
俺にしがみついて叫ぶドロシー。
シールドは激しく海水に洗われ、何も見えなくなった。シールドがなかったら危なかったかもしれない。
「はっはっは!」
俺は思わず笑ってしまう。壮大なクジラのジャンプに洗われる、そんなこと全く想像もしていなかったのだ。
「笑いことじゃないわよ!」
ドロシーは怒るが、俺はとても楽しかった。想像もできないことが起こる、これが人生。まさに生きているという実感が俺の心を熱くさせる。
「クジラはもういいわ! バイバイ!」
ドロシーは驚かされてちょっとご機嫌斜めだ。その表情に、俺は思わず微笑んでしまう。
「ハイハイ、それでは当カヌーは再度石垣島を目指します!」
俺はコンパスを見て南西を目指し、加速させた。カヌーが海面を滑るように進み始める。
ブシュ――――!
後ろで盛大にクジラが潮を吹く。まるで挨拶をしているみたいだった。その音に、俺とドロシーは振り返り、思わず笑みを交わした。
青く広がる水平線にキラキラと煌めく太陽の光――――。
「これが海だよ、広いだろ?」
俺は後ろを向いた。
ドロシーは身を乗り出し、俺の肩の上で叫んだ。
「すご~い!!」
目をキラキラと輝かせながら海を眺めるドロシー――――。
つれてきて良かったと俺は心から思った。
それにしても、日本だったらこの辺に中部国際空港の人工島があるはずなのだが……、見えない。単純に地球をコピーしたわけではなさそうだ。その事実に、俺は改めてこの世界の不思議さを感じた。
俺は海面スレスレまで降りてきてカヌーを飛ばす。新幹線の速度でかっ飛んでいく朱色のカヌーは、海面に後方乱気流による水しぶきを放ちながら南西を目指す。
ドロシーは初めて見る水平線をじーっと眺め、何か物思いにふけっていた。
どこまでも続く青い水平線……、十八年間ずっと城壁の中で暮らしてきたドロシーには、きっと感慨深いものがあるのだろう。その思いを想像すると、俺の胸に温かいものが広がった。
「あ、あれ何かしら?」
ドロシーが沖を指さす。その声に、好奇心と驚きが混ざっていた。
見ると何やら白い煙が上がっている――――。
「どれどれ……」
鑑定をしてみると、
マッコウクジラ レア度:★★★
ハクジラ類の中で最も大きく、歯のある動物では世界最大
と、出た。
「うっひょー! クジラだ! 海にすむデカい生き物だよ」
クジラなんて俺も初めてである。
「え、そんなのがいるの?」
ドロシーは聞いたこともなかったらしい。
俺は速度を落とし、傾いてゆっくりと旋回しながらクジラの方に進路をとった。
やがて碧く透き通った海の中に長く巨大なマッコウクジラの巨体が悠然と泳いでいるのが見えてきた。その長さはゆうに十メートルを超えている。
デカいーーーー。
その光景に、俺とドロシーは息を呑んだ。
そばに小型のクジラが寄り添っている。多分、子供だろう。
まるで太古の昔から変わらない自然の営みを目の当たりにしているかのようだった。クジラの悠々とした泳ぎに、時間がゆっくりと流れているような錯覚さえ覚える。
「ねえ、ユータ……」
ドロシーの澄んだ声が、風に乗って耳に届く。
「なぁに?」
「こんな世界があったなんて……私、知らなかった」
その言葉に、心が温まってくる。ドロシーの目に映る世界の広がりを、俺も同時に感じているような気がした。
二人は言葉を交わさずに、ただその瞬間を共有していた。海の匂い、潮風の感触、キラキラと輝く海面――――。全てが新鮮で、心に深く刻まれていく。
俺は静かにカヌーを操縦し、クジラたちの邪魔にならない距離を保ちながら、この奇跡的な出会いをできるだけ長く楽しもうと思った。
「本当に大きいわぁ……」
嬉しそうにクジラを見つめるドロシー。
「歯がある生き物では世界最大なんだって」
俺は知識を披露しながら、ドロシーの反応を楽しんでいた。
「ふぅん……あっ、潜り始めたわよ」
クジラはゆったりと潜っていく……。その優雅な動きに、二人は息を呑んだ。
「どこまで潜るのかしら?」
「さぁ……、深海でデカいイカを食べてるって聞いたことあるけど……」
などと話をしていると、急にクジラが急上昇を始めた。その突然の変化に、俺の心臓が跳ね上がる。
「え? まさか……」
クジラはものすごい速度で海面を目指してくる。その迫力に、俺は思わず身構えた。
「え、ちょっと、ヤバいかも!?」
クジラはその勢いのまま空中に飛び出した。二十トンはあろうかという巨体がすぐ目の前で宙を舞う。巨大なヒレを大きく空に伸ばし、水しぶきを陽の光でキラキラと輝かせながらその美しい巨体は華麗なダンスを披露する。その光景は、まさに圧倒的なアートだった。
「おぉぉぉ……」「うわぁ……」
圧倒される二人……。その瞬間、時が止まったかのようだった。
そのまま背中から海面に落ちていくクジラ――――。
ズッバーン!
ものすごい轟音が響き、盛大な水柱が上がる。それをまともにくらったカヌーは小さな木の葉のように揺さぶられた。
「キャ――――!!」
俺にしがみついて叫ぶドロシー。
シールドは激しく海水に洗われ、何も見えなくなった。シールドがなかったら危なかったかもしれない。
「はっはっは!」
俺は思わず笑ってしまう。壮大なクジラのジャンプに洗われる、そんなこと全く想像もしていなかったのだ。
「笑いことじゃないわよ!」
ドロシーは怒るが、俺はとても楽しかった。想像もできないことが起こる、これが人生。まさに生きているという実感が俺の心を熱くさせる。
「クジラはもういいわ! バイバイ!」
ドロシーは驚かされてちょっとご機嫌斜めだ。その表情に、俺は思わず微笑んでしまう。
「ハイハイ、それでは当カヌーは再度石垣島を目指します!」
俺はコンパスを見て南西を目指し、加速させた。カヌーが海面を滑るように進み始める。
ブシュ――――!
後ろで盛大にクジラが潮を吹く。まるで挨拶をしているみたいだった。その音に、俺とドロシーは振り返り、思わず笑みを交わした。
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