4 / 81
お兄ちゃんがいました
しおりを挟むママが倒れてしまったからその日は、そのまま寝ることになった。
クマのぬいぐるみはベッド脇に飾られていたから抱きしめていつものように眠る。
「……お母さんおやすみなさい」
翌朝身を覚ますと、メイドさんに声をかけられた。
「お嬢様おはようございます。本日はいいお天気ですよ」
シャッとカーテンを開けられると心地のいい日差しが入ってきた。鳥の囀りが聞こえて平和そのもの。
「お顔を洗ってお着替えいたしましょう。お嬢様はどの紅茶が好みですか? 目覚めのお茶をお淹れ致しますよ」
「わかんない」
「お嬢様のお好きなものを教えてくださいませね。本日はわたくしのおすすめのミルクティーをお出ししますね」
水の張ったボウルで顔を洗ってふかふかのタオルで顔を拭いた。
少しぬるめのお茶を飲むとホッとした気分になった。
ワンピースはグリーンで腰に大きなリボンが付いていて、同じ素材同じ色のリボンで髪を纏められた。
「とってもお似合いです。可愛らしいですわ」
手を引かれて、お屋敷の一階にある食堂へ連れて行かれた。
そこにいたのはパパと男の子だった。
「マリーおはよう、ママはまだ調子が良くないから今日はパパとヴェルナーと食事をしよう。ヴェルナーは昨日話していたマリーの兄だよ。ヴェルナーはマリーのことを覚えているよな?」
「はい。もちろんです! マリーは僕のことわかる?」
ううん。と頭を振ると悲しそうな顔をした。
「そうか。これから仲良くしてくれる?」
「うん」
返事をするとヴェルナーは嬉しそうな顔をした。
「マリーは僕の隣に座るといいよ」
椅子を後ろに引いて座らせてくれた。ここの家の人はみんな優しい。
食卓には沢山の食事が用意されていた。スープを少しとパンを少し口にしてスプーンを置いた。
「マリーもう食べないの?」
ヴェルナーに言われたので頷いた。
「マリーそれだけでは元気がでないよ? マリーは何が好き? パパに教えてくれ」
パパに質問された。私の好きなものはここにはない。そう思うとまた涙が出てきた。
「マリー、無理して食べる必要はないよ。フルーツはどう? 僕も好きなんだよ」
えっえっ……と泣いているとヴェルナーはずっと背中を撫でてくれた。
ようやく落ち着いた頃に
「マリー喉が乾かないか? 搾りたてのジュースを作らせたよ。飲める?」
パパがコップを渡してくれたので、ジュースを飲んだ。搾りたてのオレンジジュースは甘酸っぱくて喉にスッと入っていった。その様子をパパが見ていて
「美味しい?」
と聞かれた。
「うん」
と言うとホッとした顔をしていた。
食事が終わると、ヴェルナーに庭に誘われて散策に行くことになった。
手を引かれて歩く。ヴェルナーはギュッと手に力を入れてきた。
「マリー絶対に僕から離れちゃダメだよ」
優しい口調だけど、その瞳を見ると真剣だった。お家の庭だよね?
「マリーはなんの花が好き?」
「うーんっと……スズラン」
野生のスズランが沢山咲いているところにお母さんとピクニックに行った。スズランは可愛い見た目なのに毒があると聞いて驚いた。観賞するには良いけれど触ってはだめだと注意された。スズランの花粉や飾った水にも要注意と言われ、見た目とのギャップに再度驚かされた。
「ふふっ。可愛いマリーらしいね。今は時期ではないけれど庭にスズランが咲くところがあるから、楽しみにしていて」
単なる兄弟での庭の散歩のはずが後ろに騎士の格好をしたお兄さんたちが三人と、メイド二人が付いてきていた。
「気になる?」
うんと頷くと
「どこに裏切り者がいるか分からないから仕方がないよね。あの時可愛いマリーを連れ出したメイドと庭師が今でも許せない……」
許せないって言うことはまだどこかにいるんだよね?
66
お気に入りに追加
4,181
あなたにおすすめの小説
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる