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第14章 その後
その後
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その後のことは、断片的にしか覚えていない。気付いたら愛美ちゃんに連絡していたこと。愛美ちゃんが救急車を呼んでくれたこと。
そして俺は透馬に付き添い、病院に泊まったこと。
医者の脳死という言葉をどこか無感動で聞いたこと。
そもそも俺は正式な家族じゃないし、普通だったら透馬の側にはいられなかったようだ。
愛美ちゃんや井口などが、無理を言って側にいさせてくれたと、後になって聞いた。
俺はただずっと、半分意識がないまま、夢を見ていた。
何度も透馬が車にひかれた場面を繰り返す夢。
最初に出会った頃から何度やり直しても何も未来が変わらない。リアル過ぎて頭が壊れそうになるぐらい。
自分がどれくらい病院のベッドで透馬の隣に寝ていたかすらわかっていなかった。心身摩耗という状態だったのかもしれない。
俺が最初に気付いたのは、母ちゃんの怒鳴り声だった。
「一体いつまで人様に迷惑かけて」
というよく聞く声に懐かしさすら感じた。
「母ちゃん?」
周りが止めるのも聞かず母ちゃんは俺を殴りつけたらしい。
「あんたがそうしてたって藤越君は戻って来ないよ」
母ちゃんを連れてきたのは、井口の友人の田原だった。
その経緯は少し複雑だ。
井口は俺がずっと混濁してるのを見かねて病院に朝から晩まで来ていたらしい。近くのホテルに泊まっていたとか。
そして井口が抜けている間の校長の業務を田原が代わりにやっていたとか。その縁で田原が母ちゃんを連れてきたらしい。
俺は全く知らなかった。
その時、俺はようやく現実に向き合うことを余儀なくされた。
病院に泊まることもやめ、家に帰ることになった。
病院にいる間飲まず食わずで点滴まで入れられていたから、本当に自分は馬鹿だったと思う。
井口が仕事を犠牲にしていたこともその時初めて知った。
井口がどうしてわざわざ俺が回復するまで病院に通い続けていたのか、聞いた話は、透馬に頼まれていたからだという。
一度透馬が関本さんに会いに井口の学校へ行った時、ついでに頼んでいたらしい。つまり透馬はこうなることを予測していた?
頭が混乱してくる。夢の中で透馬の言葉を聞いた気がする。「生きて」と。あれは、本当にあいつの声だったのか。
俺は納得がいかなかった。どうしてわざわざ井口に変なことを頼むのか。俺に直接言えばいいじゃないか。そもそも車にひかれたのはほんの偶然で、それを透馬がどうやって予測できたというのか。
何もかもがわからず、いらいらする。
俺は井口なんかに頼らなくたって自分で立ち直れる。そんな風に思われていたのなら心外だと思った。
井口に無性に怒りが湧いた。井口のせいでないことはわかっていたが、誰かを憎むことしか俺を現実に繋ぎ止めることはできなかったのだ。透馬がもういないという現実に。
子供じみた考えなのはわかっていた。でも、透馬が俺のことを信じてくれていなかったと思うと、怒りが込み上げてくるのだった。
確かに喪失感はどうしようもない。何もやる気が起きないほどに。
生きる気力すらわいて来ない。でも、あいつが生きろと言ったなら、つらくても生きなくてはならない。
矛盾した自分の思考を隅に置いて、俺はただそのまま生命を全うする選択をした。
そして俺は透馬に付き添い、病院に泊まったこと。
医者の脳死という言葉をどこか無感動で聞いたこと。
そもそも俺は正式な家族じゃないし、普通だったら透馬の側にはいられなかったようだ。
愛美ちゃんや井口などが、無理を言って側にいさせてくれたと、後になって聞いた。
俺はただずっと、半分意識がないまま、夢を見ていた。
何度も透馬が車にひかれた場面を繰り返す夢。
最初に出会った頃から何度やり直しても何も未来が変わらない。リアル過ぎて頭が壊れそうになるぐらい。
自分がどれくらい病院のベッドで透馬の隣に寝ていたかすらわかっていなかった。心身摩耗という状態だったのかもしれない。
俺が最初に気付いたのは、母ちゃんの怒鳴り声だった。
「一体いつまで人様に迷惑かけて」
というよく聞く声に懐かしさすら感じた。
「母ちゃん?」
周りが止めるのも聞かず母ちゃんは俺を殴りつけたらしい。
「あんたがそうしてたって藤越君は戻って来ないよ」
母ちゃんを連れてきたのは、井口の友人の田原だった。
その経緯は少し複雑だ。
井口は俺がずっと混濁してるのを見かねて病院に朝から晩まで来ていたらしい。近くのホテルに泊まっていたとか。
そして井口が抜けている間の校長の業務を田原が代わりにやっていたとか。その縁で田原が母ちゃんを連れてきたらしい。
俺は全く知らなかった。
その時、俺はようやく現実に向き合うことを余儀なくされた。
病院に泊まることもやめ、家に帰ることになった。
病院にいる間飲まず食わずで点滴まで入れられていたから、本当に自分は馬鹿だったと思う。
井口が仕事を犠牲にしていたこともその時初めて知った。
井口がどうしてわざわざ俺が回復するまで病院に通い続けていたのか、聞いた話は、透馬に頼まれていたからだという。
一度透馬が関本さんに会いに井口の学校へ行った時、ついでに頼んでいたらしい。つまり透馬はこうなることを予測していた?
頭が混乱してくる。夢の中で透馬の言葉を聞いた気がする。「生きて」と。あれは、本当にあいつの声だったのか。
俺は納得がいかなかった。どうしてわざわざ井口に変なことを頼むのか。俺に直接言えばいいじゃないか。そもそも車にひかれたのはほんの偶然で、それを透馬がどうやって予測できたというのか。
何もかもがわからず、いらいらする。
俺は井口なんかに頼らなくたって自分で立ち直れる。そんな風に思われていたのなら心外だと思った。
井口に無性に怒りが湧いた。井口のせいでないことはわかっていたが、誰かを憎むことしか俺を現実に繋ぎ止めることはできなかったのだ。透馬がもういないという現実に。
子供じみた考えなのはわかっていた。でも、透馬が俺のことを信じてくれていなかったと思うと、怒りが込み上げてくるのだった。
確かに喪失感はどうしようもない。何もやる気が起きないほどに。
生きる気力すらわいて来ない。でも、あいつが生きろと言ったなら、つらくても生きなくてはならない。
矛盾した自分の思考を隅に置いて、俺はただそのまま生命を全うする選択をした。
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