俺の人生を捧ぐ人

宮部ネコ

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第8章 子育てと寄り道

誕生

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 俺たちが四十になる年に、二人の子供は産まれた。
 出産日当日、藤越は仕事で間に合わないと俺に先に行くように促した。
 分娩室の前で初めて藤越のお母さんという人に会った。俺はここに来たのが場違いのような気がした。
「こんばんは」
 挨拶をするも不思議な顔をされた。当たり前だ。顔が藤越に似てるから俺はすぐ気付いたが、向こうは初対面で俺のことなんか知らないだろう。
「藤、じゃない。透馬は仕事で遅くなるみたいですよ」
 俺がそう言ってやっとこっちを向いた。
「透馬のお友達?」
「ええ。隣に住んでるんです」
 実際は友達じゃなかったが、そう言うしかない。
「あなたがお隣りの? 愛良から聞いたわ。わざわざ来て頂いたのね」
 わざわざとは思ってないけど、曖昧に頷く。本当の俺たちの関係は説明できるはずがない。藤越の子供なら俺にとっては家族みたいなものだけど、そんな感覚は理解してもらえないだろう。
「どうして透馬が家を出たか聞いたことがありますか?」
「え?」
「すみません。余計なことでした」
 俺はどうしてこう余計なことを聞きたくなるのか。ただ、あいつはいまだに家族のことで傷ついているようなそんな気がするのだ。
「あなたは知っているのね」
「いいえ。俺はほとんどの事情は知りませんけど、あいつが居場所がないって言ってたことは覚えています」
「居場所がない?」
「家族の中での居場所が」
 俺があいつのことを勝手にしゃべっていいのかと思ったけど、止まらなかった。
「だから俺は、将来愛良ちゃんが働き出して、子供が一人になるようなことがあったら、二人の代わりに側にいたいと思っています」
 いきなりこんなことを言って変な奴だと思われるかもしれない。
「もちろんどちらかが側にいればそれにこしたことはないですけどね」
 何をフォローしてるんだかと思った。
「そうね。私からもお願いするわ。あの子の周りには良い友達がいっぱいね」
「俺は友達じゃないですよ」
 藤越のお母さんは訝しげな顔をした。
「ただあいつを好きなだけです」
 え? と聞き返されはしなかったが、疑問を浮かべた表情。俺は結局フォローするしかなかった。
「二人が幸せならそれでいいと思ってますけど」
「あなたは誰?」
 名前を聞かれたんじゃないのはわかった。
 答えを口にする前に分娩室から呼ばれた。
「無事産まれましたよ」
「ご主人様もどうぞ」
 俺はご主人じゃない。戸惑ってると藤越がやっと来た。
「忠敏、もう産まれた?」
「ああ。ついさっき。入っていいって」
 俺は藤越を分娩室に押し込んで帰ろうかなと思った。
「忠敏も入んなよ」
「でも俺あんま関係ないし」
「別にいいじゃん」
 仕方ないから一緒に入った。産まれたばかりの赤ちゃんは猿みたいだった。
 愛良ちゃんが抱いている。自分の子供というのは無条件に愛しいものなのだろう。俺は一生経験することはないだろうけど。
 藤越のお母さんと目が合って少し気まずかったが、藤越がいたので軽くスルーされた。
「透馬、あなたも抱いてみたら」
「愛良、よくがんばったね」
「遅いよ。もう」
「ごめんね」
 藤越はそう言って赤ちゃんを抱きしめた。
 俺はそうっと分娩室を出て家に帰った。
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