片道切符の異世界転移

藍上おかき

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口外禁止のカゴメ湯のハズなんだけど

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 村を知り尽くしているおじいちゃんおばぁちゃんの集まりだから気さくに話しかけてくるのは当たり前。

 「ゲンさんは相変わらず湯船の中だったのかい?」

 「はい、外からの人と楽しく話してました」

 「外からの人?」

 運転手のおばぁちゃん、外からの人と聞いて反応。

「若い女の人に梅ちゃん梅ちゃんって」


 「ゲンさんもそろそろ危ないかしらねぇ?」

 運転手のおばぁちゃんと世間話をしながら、いつもと変わらない流れ行く景色。

 バス車内を見れば説得力はないけど、基本的にカゴメ湯のことは村の秘密。

 村の外に漏らしてはいけない。
  だけど、村の外からの闖入客はどうしても防ぎようもないけど。

 あたしがゲンさんがボケはじめてるみたいな事をいうとおばあちゃんは何かを悟ったかのように安心して平静に戻る。
 
「行き先は学校でいいかい?」

「いえ、今日も岳人書店でお願いいします」

「学校が休みになってると暇でいいねぇ、わかったよ」
 





 譜集や譜面。 もしくはスコアブックと言った方が最近の呼称。

 家には沢山の譜集があり、そのどれも全て演奏ができるんだけど、たまには気分転換に変わった曲目の挑戦してみたいなと。

  

 学校帰りに立ち寄る行きつけの本屋さんで珍しいスコアブックを取り寄せてもらっていた所だ。

 車内の窓にうつりこむのは、いつもと変わらない景色。

ちょっと肌寒さを感じるけどお風呂に入ってきたおかげでぽかぽかしている。
 もちろん、バス内の暖房も効いているから寒さは一切感じない。

 数件の民家が通り過ぎ、雑木林が通り過ぎ、どこまでもどこまでも続く大きな川の上。

 きっと遥か向こうに見える諏訪湖に繋がっているのだろう。
  あっという間に橋を渡り、大きな川が視界から過ぎていく。

 街道を少し走ると大きな坂を降りたり上ったり。
 
 通学で通い慣れたバスからの景色は退屈でしかなく感動もなければ趣もない。
  
初めてバスに乗った時は、みるものが新鮮で楽しかったのを覚えている。

 だけどその感情もいつの間にか飽きてしまい、退屈で面白みが薄れてしまっていた。

 



あの頃と今の違いといえば、大きなシャトルバスからマイクロバスに変わり、さらにふつうの車と変わらない大きさのコミューターバスに変わったくらい。 

 車内掲示物も籠目湯への営業時間と料金案内が書いてあるボスター程度だけ。 

 【武田信玄が合戦が終われば必ず入った秘伝の湯】 不老長寿と若返りを謳ったキャッチコピー。

 十八才以下の子供と七十歳を越えた後期高齢者は無料、営業時間は午前八時から午後9時まで、入浴料は二百円とある。

 いくらこの籠目湯が戦国の時代から口外禁止にしても、こんなバスに告知のポスター貼ってたらそれは口外禁止にはならない。
 
 きっと、あの梅ちゃんもこのポスターを見て入ってしまったのだろう。

 
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