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後日談…①

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媚薬騒動を経て、互いの家族への挨拶を終えリゼットとテオドールは正式に婚約者となった。

周囲が前より騒がしくなったこと以外、特段変わったこともなく日々を過ごしていたある日のこと、テオドールに食事に誘われた。

「以前誘った店だ。バタバタしていて機会を逃していただろう?リゼットが良ければ一緒に行きたいと思ってるのだが…」

誘ったテオドールは何処か自信なさげだ。リゼットが断ると思ってるのかもしれない。確かにレオンの謹慎は解けておらず、手放しで安心出来る状況ではないので仕方ないかもしれない。だがリゼットはそこまで深刻に受け止めてなかったので

「はい、大丈夫ですよ。いつにしますか?」

二つ返事で承諾するとテオドールが困惑しつつも、ブルーサファイアの瞳が喜びでパーッと輝き出す。

相談の結果、今週末の18時に行くことが決まった。テオドールが個室を予約しておくという。リゼットは行く予定の店に個室があることを初めて知った。

周囲を気にすることなく食事と談笑を楽しむことが出来るように、とのことだ。件の店は女性客ばかりだと聞いていたから、普通の席だと確実に目立つであろうテオドールがゆっくり出来ない。リゼットはテオドールの提案に異存はなかった。

ドレスコードはないので好きな服装で大丈夫だそうでリゼットは「何着て行こう」と頭を悩ませることになるしテオドールはテオドールでリゼットの私服を楽しみにしていた。



**************


リゼットはミアの協力を得て、当日来ていく服を決めた。以前彼女に勧められて買ったオープンショルダーのスカイブルーのワンピースである。髪はサイドを編み込んでもらった、ミアに。

肩先を見せるすることになるが、最近10代20代の女性の間で流行っているデザインだ。肌を見せるといっても下品にならない程度なので普段も着やすい。

何気に仕事着以外を彼に見せるのが初めてなので、リゼットはいつになく緊張していた。逆に言えば私服も碌に見たことがないのに婚約に至っているのである。プライベートで会ったことがなく、専ら仕事でしか顔を合わせなかった。食事を一緒にするのも初めてではないが、職員用の食堂は数に入れてはいけない気がする。

これは世間一般に言うデートというやつだろうか。ミアには呆れ顔で「どこからどう見てもデートでしょうが!」と怒られてしまった。そうか、デートか。

人生初デートが始まろうとしていた。


待ち合わせ時間の10分前に宿舎にやって来たテオドールはシャツにジャケットというシンプルな出立ちだったが、際立った顔立ちとスタイルのせいかとても神々しく見える。この一年すっかり見慣れていたが、テオドールは超の付く美形であったことを思い出した。これ自分が隣に並んで大丈夫なのか?と些か不安を覚えるも、

「君は淡い色も似合うな、とても良い」

顔を綻ばれながら褒めてくれたので不安が一瞬で消える。お礼を伝えるとテオドールはじーっとリゼットを凝視したのち、神妙な面持ちでポツリと呟く。

「…俺は女性の服の好みを考えたことが無かったが…こういうのが好きなのかもしれない」

お気に召したようである、意外だ。

「いや、リゼットは肌を見せる服を着ないと勝手に思っていたから反動が大きいのか…」

自分の好みを真剣に分析し出した。制服のリゼットしか知らないのならそう思っても仕方が無いが、リゼットは膝丈のスカートも半袖のブラウスも着る。肌を適度に見せる服は普通に着るし、引きこもりの癖に可愛い系の服を買うことが多い。

「テオドール様がお好きなら、今度会う時着てくるようにします」

そう言うと彼の口から飛び出したのは「否」だった。

「俺の好みではなく、リゼットが着たい服を着るべきだろう」

「いえ、私もこのタイプの服好きなんですよ」

リゼットが自分の好みよりテオドールを優先させたわけではない、と知った彼は思案したのちやや前のめりで告げる。

「その服も良いが、やはり色んな服を着たリゼットも見てみたいな…君が良ければ公爵家うちと付き合いの長い仕立て屋を呼ぼうか?」

リゼットは彼の勢いにやや押される。多分彼は着飾ったリゼットが見たいのだろう。

その申し出は嬉しいのだが、仮に仕立ててもらってもドレスを着ていく機会があまり無い。それに公爵家と懇意の仕立て屋は絶対高額。リゼットは必要最低限のドレスを、伯爵家御用達の適正価格の仕立て屋で頼んだことしかない。頼む職人によって値段が段違いに跳ね上がると聞く。ドレスの頼みすぎで身を持ち崩しかける貴族も居る。

リゼットはきっぱり断ることはせず、結論を先延ばしにすることにした。何となく着せ替え人形になり、その様をテオドールが楽しそうに眺めてる姿が脳裏に浮かんだ。



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