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後日談…②

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件の店は宿舎から馬車で10分程の距離だった。白を基調としたお城のような店構えで店内を覗くと女性客が多くを占めている。男性客の姿も見えるが女性の連れのようで、男性だけで来ている人の姿は認められない。

(これは男性だけだと行きづらいかもしれない)


リゼットは店員と話すテオドールの後ろに立ちながらそんなことを思う。だが、すぐ別のことに意識が向く。突き刺さるような視線を感じたのだ。

店内を見回すと突然現れた麗しい美男子に女性客全員が目を奪われているようだ。男性連れの女性も含まれていて、逆に男性はテオドールに恨みがましい目線を向けていた。

恐らくリゼットは店内にいる女性客の嫉妬の的になっている。目を合わせないようにしてるが、睨まれているのが分かった。

個室にして良かった、と心の底から安堵したのだった。





個室に通されたリゼット達は手渡されたメニューを眺める。言われていた通りシーフードを使った料理が豊富だ。どれもこれも美味しそうに見えてしまい、取り敢えず店員におすすめを聞きそれをいくつか頼むことにした。酒はどうか、と勧められたがテオドールが飲まないというのでリゼットも控えることに決める。

暫く経ってからサラダやシーフードのパスタにピザが運ばれてくる。魚介の旨みが凝縮されてきてどの料理も美味しい、舌鼓を打つリゼットをテオドールは楽しそうに見つめていた。

「君は美味しそうに食べるな」

「そうですかね」

あまり自分の食べてる時の表情について考えたことはない。リゼットは細身の割に良く食べるので驚かれることはある。テオドールもボリュームがある食堂のメニューをペロリと平らげていた時意外そうな顔をしていた。が、寧ろ好印象に映ったらしく何が楽しいのかリゼットの食事する様子を眺めることが増えた。

多分小動物がモグモグと餌を食べてるのを見てる気分なのだ。

「食べるのが好きなのに食事を忘れることがあるのは最初はよく分からなかったな」

リゼットも治したいと思ってる癖を指摘されて、何も言えない。これでも改善しつつあるのだ。

「最近はそういうことは無くなってますよ」

「いや一週間前昼食を食べるのを忘れていただろう?」

ギクリ、とリゼットはフォークを持つ手を止める。あの日は遂熱中してしまい、うっかり忘れていたのだ。テオドールに心配をかけたく無いからと黙っていたのだが。

「何故知ってるんです」

「さあ?何でだろうな」

おどけた様子で結局彼は教えてくれなかった。もしかしたらリゼットの様子を逐一伝える協力者でもいるのかもしれないが、真実は教えてくれそうにない。




最後に運ばれて来たデザートを食べた後店を出た。迎えの馬車が来るまで少し時間があったので、折角だからと散歩をすることにした。

友人と街を散策することはあれど、男性とは勿論初めてだ。当然のように周囲の女性達の視線を一心に集めるテオドールの隣にいるリゼットは少しだけ居心地が悪い。こればかりは慣れないといけないのだが、すぐには難しいのだ。

が、当のテオドールが向けられる視線を煩わしいものと捉えて全く気にするそぶりすら見せず、リゼットしか見ていない。そんな一貫した態度をやがて気づいた女性達はテオドールから関心を無くしていった。そんなテオドールを見上げるリゼットは不思議と心が温かくなっていく。居心地の悪さもいつの間にか感じなくなっていった。





あっという間に迎えの馬車が来る時間になったので、落ち合う場所まで歩いて行く。テオドールに手を引かれて馬車に乗り込むと女子職員の宿舎に向けて走り出す。

公爵家の馬車ということもあり揺れが少なく、快適といって良い乗り心地。腹が満たされているのも相まって、少し眠くなってくる。

うっかり隣に座るテオドールにもたれかかってしまい、慌てて身体を起こす。

「ごめんなさい」

リゼットが謝るとテオドールは「いや、気にしなくて良い」と返す。そして徐にリゼットの頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけてくる。テオドールの碧眼には確かな熱が籠っていた。リゼットがそれを認めると、2人の唇が重なった。

角度を変え、啄むような口付けは徐々に深くなる。時折リゼットの口から声が溢れるが、車輪の音で恐らく御者には聞こえてない。けど、大体何をしてるか察しているかもしれない。

テオドールの舌がリゼットの唇の隙間から入り込み、口内を貪る。何度もしているのに、テオドールは味合うように舌先や歯列を撫でた。右手は頬に添えられ、左手はリゼットの背中に周り背骨をなぞる。ゾワゾワとした感覚と身体の内側から暴かれる快感にリゼットはうっとりとした表情で酔いしれていた。

やがて互いの唇が離れると、欲情をその瞳に宿したテオドールがこう切り出す。

「…以前ゆっくりと恋人として過ごしていきたいと言ったと思うが、俺は今すぐにでも君と暮らしたい。その方が安心するというのもあるが、俺が君と一緒に居たいんだ」

リゼットはテオドールに真っ直ぐに射抜かれ、目を逸らせない。リゼット自身は自分のペースを崩されるのが苦手だ。 テオドールもリゼットのマイペースさを理解した上で合わせると言ってくれていた。

そんな彼がこんなことを言うのだ。本当にリゼットと一緒に住むことを望んでいるのだろう。

「…前向きに検討します…」

だがリゼットはすぐに結論を出すことは出来なかった。やはり自分が人と一緒に暮らせるかという根っこの不安が消えないのだ。住むのは結婚する、少なくとも1年以上先だと認識していたから突然の申し出に困惑しているのもあったが。

望んだ答えでは無かったのにテオドールは落胆した様子はなく、希望を見出したかのように明るく笑った。難色を示されたものの、彼の中では勝算があったのだ。しつこく頼み込むのではなく、リゼットの方がテオドールから離れがたくなるようにすれば良いと。

その努力の甲斐あって、リゼットからテオドールの望む返事が得られるまでそう時間は掛からなかった。手入れはされていたものの誰も住んでいなかったテオドール名義の小さな邸に、新しい住民達が引っ越してくるのは、もう少し後のこと。




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