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27話
しおりを挟む「テオドール様ってもっと淡白だと思ってました」
「?」
リゼットの中から分身を抜いたテオドールが例の如く、グッタリしたリゼットの身体をタオルで拭いてくれた後。下だけ身に付けた彼が胸元まで毛布で隠すリゼットの隣に戻った時徐に問いかけた。テオドールは怪訝そうな顔で「淡白?」と聞き返す。その際解かれてくしゃくしゃになってしまった黒髪を弄ぶのを忘れない。
「女性に冷たいと有名でしたし、仮に恋人や婚約者が出来たとしても必要最低限の愛情表現しかしないんだろうな、と」
ところが実際は「綺麗」「可愛い」という言葉を惜しげもなく伝えてくれるし触れる手と行為の最中も優しい、時々意地悪だけど。あと距離も近い、物理的な。くっついていないと不安なのかと思ってしまう程。そんなに近づかなくてもリゼットは居なくならない。淡白とは程遠い。そんなテオドールは尚も髪に視線を落としつつも答える。
「俺もそうだと思ってた。いずれは結婚しなければいけなくなっても、相手には義務的な対応しかしないのだと。どうにも相手に愛を囁く自分が想像出来なかったんだ。こんな自分と結婚する相手が不憫だとすら思っていたよ、1年前までは」
テオドールは手に持った一房の黒髪を口元に近づけ、そっと口付けた。
「君に対して愛を囁く自分は不思議と想像出来た。仮に君と結婚出来たとして、義務的な対応しかしないなんて無理だと思ったんだ。恐らく君がウンザリする程時間の許す限り一緒に居たいと望むし、外を歩く時は君との仲を周囲に見せつけたいし、君の顔が赤くなるような言葉もたくさん言うだろうな、と。告白もしてないうちから、重いだろう?」
自嘲気味に呟くテオドールに向き直る。部屋は暗いが胸元を隠すことを忘れない。全て見られた後だけど、ちゃんと話す時に見られるのは恥ずかしい。テオドールは眉を下げて、困ったような笑みを浮かべていた。
「重いですね」
本心をそのまま口にするとテオドールが苦笑いした。
「本当正直だな」
「嘘でもそんなことないです、と言った方が良かったですか」
「それも…微妙だな、正直なままで居てくれ」
リゼットの悪い癖もテオドールは受け入れてくれている。
「重い、とは思いましたけど、嫌だとは思ってませんよ」
テオドールがカチン、と固まった。リゼットは瞠目する、何か変なことを言っただろうか、と。ただ思ってることを口にしただけだ。テオドールはリゼットを凝視したのち、目を逸らした。モゴモゴ口元が動いている、何を言っているのか聞こえない。
「…のか」
「はい?」
聞こえず聞き返すと、やはり目を逸らしたまま問いかけられた。
「嫌じゃない、ということは重い男が良いという意味なのか」
「えーと…そういうことですかね」
今さっきテオドールの言った「重い」行動を一瞬想像した。その結果…鬱陶しい、面倒臭い、といったマイナス感情を一切抱かなかった。それどころか、この1年あの涼しげな表情の裏で自分に対して、そんなことを考えていたのかという驚きと、そこまで自分のことを思ってくれていたのかという喜び。尚更気づかなかった自分の鈍感さに嫌気がさす。
自分もテオドールと同じ、仮にやむを得ない事情で結婚したとして相手と愛し愛される関係になる未来が想像出来なかったし、下手にベタベタされたら嫌がっただろう。けど、テオドール相手ならベタベタされても砂糖菓子みたいな言葉を囁かれても良い、寧ろして欲しいとすら思うのだ。人はこうも変わるのかと驚く。
リゼットの答えを聞いたテオドールがやっとこちらを向いた。表情が明るい、相当嬉しいようだ。
「そうか、団員が女性は重い男は厭う、と話していたから心配していたんだ」
重い男とは、また抽象的だ。
「重いといっても色々タイプがありますからね、テオドール様のように…気持ちが重いタイプは寧ろ嬉しい女性が多いのでは」
「リゼットも?」
「…まあ、はい」
目を合わせて言うのも照れ臭いので、今度はリゼットが目を逸らした。
「逆にどういう『重い男』は疎まれるんだ」
「私も人から聞いただけなので…相手の行動を全て把握しようとする、交友関係に口を出す、行動を制限しようとする人は女性からするとちょっと…らしいです」
尚、例外として美形で金持ちなら良いとのこと。噂程度だが、妻を好きすぎて誰の目にも触れさせたくない、と外部との接触を遮断、部屋に鎖で繋いで閉じ込めている大富豪がいるとか居ないとか。金と権力を持った人間が歪んだ愛情を持ったら、普通に人生が詰む。テオドールは絶対そうはならないという安心感があった。
「…そうならないよう気をつけよう」
テオドールはとても神妙な顔付きで頷く。予想通り。
「とはいえ、相手から束縛されるほど愛されたい、と言う人もいるらしいので、好みは人それぞれですね」
「リゼットは絶対嫌いだろうな、束縛されるのは」
コクリと頷く。リゼットは自分のペースを大事にしているので行動を制限されたり、やることなすこと必要以上に口を出されるのは苦手だ。何事も限度がある。
「例えばテオドール様が急に『君を他の男の目に映したくない』と血迷って私を監禁しようとしたら即逃げますね」
「そんなとち狂った真似は絶対しないし、どこの誰だその危険人物」
「友人からお薦めされた恋愛小説のヒーローがそういう人でした」
「…ヒーローということはヒロインと結ばれるのか?監禁する人間と?」
「最初はヒーローを拒絶してたんですが、監禁する以外は何不自由ない生活を送れててヒロインも家庭環境が良くなかったから、一途に愛を囁いてくれるヒーローに堕ちた、という感じです」
「完全に絆されてるじゃないか、ヒロインの身が心配なんだが」
「まあそこはフィクションですからね、気になるのなら貸しましょうか」
「あまり恋愛小説の類は読まないのだが…貸してくれないか」
「いいですよ」
早速その本を取りに行こうとベッドから出ようとするも、自分が何も着ていないことを思い出す。今更ながら、目元を赤く染めたリゼットが「服を着たいので、少し目を瞑っててもらえますか」と頼むと
「全部見たのになんで目を瞑る必要が?」
恥ずかしがる理由が分からないという顔。予想はしていた。だがこちらも譲れないのでキリッとした顔で対応する。
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