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まっすぐの道をずっと歩き、コンビニを通り過ぎて本屋さんのある交差点を左折した先のアパートが私の家。
以前の時も送ってもらったその曲がり角までたどり着くと、私たちは足を止めた。
「…ここで大丈夫です。
あの、送って頂いてありがとうございました」
クルリと踵を返して、私はイチゴバラさんの方へと向き直った。
そんなに長い距離じゃないんだけど、その間にしたお話で知らなかったイチゴバラさんの事をいろいろ知っちゃったな。
それまで変な詮索ばかりしちゃってたけど、結局殆ど当たらなかったんだもんね。
やっぱり人ってのは、ちゃんと向き合って話さないとわかんないものなんだよ。
「僕の方こそ、ありがとう。何だかあっと言う間だったね」
「あはっ
うち、職場から近いとこに住んでますから」
「ん…そうじゃなくて…」
「?」
急に元気のなくなったような表情に、私は首を傾げた。
「イチゴバラさん…?」
だけどまだ何か言いたげな感じに、私はそのままイチゴバラさんの顔を覗き込みながら伺っていた。
昼夜問わず車通りの多い交差点だから、外灯や車のライトで決して真っ暗ではないこの道。
そんな中、ライトに反射して見えるイチゴバラさんの表情は、何だか不穏そうにも見える。
プライベートな事、聞き過ぎたかな。
聞くだけ聞いて、結局私は何かしてあげるわけじゃないものね…。
「…毎日、仕事が終わって晩ご飯のおかずを買う時が、一番ホッとできる瞬間でした」
「あ…はい…」
それは以前から、店の方で話をしていた時に聞いた話だ。
夜遅くまで仕事をして、ようやく肩の力も抜いて今から食べるご飯のおかずを選ぶ瞬間だもの。
ずっと緊張していた状態から解放される事は、さぞ息も抜ける事だろうな。
「だけどそれは、妹尾さん。あなたのお陰なんだと思いました」
「………………えっ
わ 私ですか!?」
顔を上げ、ジッと私を見つめながら名前を出されたので、ドキッとしてちょっと大きな声が出てしまった。
「妹尾さんは、いつも明るくて元気よくて。笑顔で気持ちのいい接客をしておられる。
それが仕事あがりで疲れていた僕には、特に元気をもらってましたよ」
「…や…………//」
そんな面と向かってべた褒めされると、却って恥ずかしくなってしまう。
もともと童顔のせいで、人と話をしたりするのは苦手だったんだけど。
小山さんに背中を押されに押され、マニュアルではないあいさつなんかも苦手ながら覚えてしまった。
「遅くまでお疲れ様でしたね」なんて、惣菜屋の店員が心配する事じゃないのにね。
今でこそ慣れて普通に言っちゃってるけど、本当は半ばヤケクソで言い始めただなんて…イチゴバラさんには微塵も考えつかないだろうなぁ。
「大袈裟ですよぉ。
私が休みの時は、他のスタッフだっておんなじように接客してるだろうし…」
「いいえ。
僕は妹尾さんだからこそ、本当に癒されていたんです」
「…イ、イチゴバラさん…っ//」
そう言ってまっすぐに向けられていたイチゴバラさんの視線に、私も目が離せなくなっていた。
そしてそのまるで意味深な発言には、小さくとも私の胸はドクドクと早く鳴り響いていたの。
21時を30分以上は過ぎた夜。
さっきから何台も通っていく車のライトが、私たちを度に照らしては過ぎていく。
そうして、まるでチカチカと瞬いているかのようにさえ見えるイチゴバラさんの顔が、やがて更に私の胸を奮わせる言葉を放ったの。
「実は、かわいい人だなって、思って見てました。
僕も…男ですから」
「───────っ////」
男…ですから…!?
それって、私を“オンナ”として見ていたって事…?
で でもっ、30代後半ぐらいのように見えるイチゴバラさんが、私みたいな大人か子どもかわからないような童顔な奴にそんな……っ
「…今日は送らせてもらって、本当にありがとう。
短い時間だったけど、とても心が癒されました」
「………………っ////」
どう反応していいか、どんな顔していいのかがわからなくて、何も言えなかった。
ただイチゴバラさんの放った言葉が何度も頭の中で反芻していたのを、ぼんやりと聞いていただけ…。
「また明日、お店の方で何か買わせてもらいますね。
それじゃあ、おやすみなさい、妹尾さん」
そう言ってイチゴバラさんはフワッと優しい笑みを見せると、クルリと背中を向けて歩いて行った。
「…………………っ」
また明日うちの店にって言ってた。
けど…
明日は私、お休みの日なんです!って言ってないよぉ。
というか…
足がウソみたいに動けなくて、私はもうしばらくそこに突っ立ったままでいたの───…。
以前の時も送ってもらったその曲がり角までたどり着くと、私たちは足を止めた。
「…ここで大丈夫です。
あの、送って頂いてありがとうございました」
クルリと踵を返して、私はイチゴバラさんの方へと向き直った。
そんなに長い距離じゃないんだけど、その間にしたお話で知らなかったイチゴバラさんの事をいろいろ知っちゃったな。
それまで変な詮索ばかりしちゃってたけど、結局殆ど当たらなかったんだもんね。
やっぱり人ってのは、ちゃんと向き合って話さないとわかんないものなんだよ。
「僕の方こそ、ありがとう。何だかあっと言う間だったね」
「あはっ
うち、職場から近いとこに住んでますから」
「ん…そうじゃなくて…」
「?」
急に元気のなくなったような表情に、私は首を傾げた。
「イチゴバラさん…?」
だけどまだ何か言いたげな感じに、私はそのままイチゴバラさんの顔を覗き込みながら伺っていた。
昼夜問わず車通りの多い交差点だから、外灯や車のライトで決して真っ暗ではないこの道。
そんな中、ライトに反射して見えるイチゴバラさんの表情は、何だか不穏そうにも見える。
プライベートな事、聞き過ぎたかな。
聞くだけ聞いて、結局私は何かしてあげるわけじゃないものね…。
「…毎日、仕事が終わって晩ご飯のおかずを買う時が、一番ホッとできる瞬間でした」
「あ…はい…」
それは以前から、店の方で話をしていた時に聞いた話だ。
夜遅くまで仕事をして、ようやく肩の力も抜いて今から食べるご飯のおかずを選ぶ瞬間だもの。
ずっと緊張していた状態から解放される事は、さぞ息も抜ける事だろうな。
「だけどそれは、妹尾さん。あなたのお陰なんだと思いました」
「………………えっ
わ 私ですか!?」
顔を上げ、ジッと私を見つめながら名前を出されたので、ドキッとしてちょっと大きな声が出てしまった。
「妹尾さんは、いつも明るくて元気よくて。笑顔で気持ちのいい接客をしておられる。
それが仕事あがりで疲れていた僕には、特に元気をもらってましたよ」
「…や…………//」
そんな面と向かってべた褒めされると、却って恥ずかしくなってしまう。
もともと童顔のせいで、人と話をしたりするのは苦手だったんだけど。
小山さんに背中を押されに押され、マニュアルではないあいさつなんかも苦手ながら覚えてしまった。
「遅くまでお疲れ様でしたね」なんて、惣菜屋の店員が心配する事じゃないのにね。
今でこそ慣れて普通に言っちゃってるけど、本当は半ばヤケクソで言い始めただなんて…イチゴバラさんには微塵も考えつかないだろうなぁ。
「大袈裟ですよぉ。
私が休みの時は、他のスタッフだっておんなじように接客してるだろうし…」
「いいえ。
僕は妹尾さんだからこそ、本当に癒されていたんです」
「…イ、イチゴバラさん…っ//」
そう言ってまっすぐに向けられていたイチゴバラさんの視線に、私も目が離せなくなっていた。
そしてそのまるで意味深な発言には、小さくとも私の胸はドクドクと早く鳴り響いていたの。
21時を30分以上は過ぎた夜。
さっきから何台も通っていく車のライトが、私たちを度に照らしては過ぎていく。
そうして、まるでチカチカと瞬いているかのようにさえ見えるイチゴバラさんの顔が、やがて更に私の胸を奮わせる言葉を放ったの。
「実は、かわいい人だなって、思って見てました。
僕も…男ですから」
「───────っ////」
男…ですから…!?
それって、私を“オンナ”として見ていたって事…?
で でもっ、30代後半ぐらいのように見えるイチゴバラさんが、私みたいな大人か子どもかわからないような童顔な奴にそんな……っ
「…今日は送らせてもらって、本当にありがとう。
短い時間だったけど、とても心が癒されました」
「………………っ////」
どう反応していいか、どんな顔していいのかがわからなくて、何も言えなかった。
ただイチゴバラさんの放った言葉が何度も頭の中で反芻していたのを、ぼんやりと聞いていただけ…。
「また明日、お店の方で何か買わせてもらいますね。
それじゃあ、おやすみなさい、妹尾さん」
そう言ってイチゴバラさんはフワッと優しい笑みを見せると、クルリと背中を向けて歩いて行った。
「…………………っ」
また明日うちの店にって言ってた。
けど…
明日は私、お休みの日なんです!って言ってないよぉ。
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足がウソみたいに動けなくて、私はもうしばらくそこに突っ立ったままでいたの───…。
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