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婚約破棄された令嬢は、復讐を祈って、その駅に身を捧げる

9:それからその後

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 帝都には帝都の社交界があるように、田舎には田舎の社交界があるものだ。
そこに住む名士たちの、ささやかで、根強く、排他的な社交界が。

 今日も、その名士たちの妻は、ある家に集まり、お茶を飲みながら情報の交換をしていた。
落ち着いた上品なドレスに身を包み、従順な笑みをうかべた女性たちは、年齢は幅広いものの、どこか似た雰囲気をかもしだしている。

 そんな彼女たちの、最近のもっぱらの話題といえば、新しい住人の情報と、以前の住人の醜聞だった。

「ゴールドナクス家の土地は、遠縁の方が相続されたようよ。30代半ばの、落ち着いたご夫婦なんですって。なんでも、弁護士をされていたそうよ」

「昨日、教会で少しお話をさせていただきましたの。とても感じの良い方でしたわ。奥様は、女学校を卒業なさっているんですって。働いて生活していた方には、とても見えませんでしたから、今度お茶会を開こうと思っているです。あなたたちにも、招待状をお送りしてもよろしいかしら」

「もちろんよ。どんな方かお会いして、お付き合いするのか見極めなくちゃいけませんもの。……ゴールドナクス家のアイーダ様みたいな方だったら、大変ですものね」

 穏やかに会話を交わしつつも、最後の言葉で声をひそめる。
すると次々に、女たちは声をひそめて、この街のとびきりの醜聞について語り始めた。

「ほんとうですわ。まさか代々この土地の名士として尊敬されていたゴールドナクス家のお嬢様が、姉の婚約者と婚前に関係を持つなんて。牛や、馬じゃあるまいし。とても顔を見知った方のされたこととは思えませんでしたもの」

「恐ろしい話ですわよね。ご両親を亡くされて、家を守るために手を尽くしていらしたフリーダ様が、それを知って線路に飛び込まれたのも無理ない話ですわ。たったひとり残された身内が、恥知らずの悪女だったなんて」

「婚約者の方も、ねぇ。結婚の準備のために屋敷に泊まり込んでいるときに、婚約者の妹に手を出すなんて。恥知らずにもほどがありますわ。……でも、あまり悪口を言うのもよくありませんわよね。おふたりも、もうお亡くなりになったんですもの」

「そうですね。それも、あんな恐ろしい……。犯人も、まだ見つかっていないんでしょう?」

「捕まりっこないですわよ。どうせ犯人は、アイーダ様となんのつながりもない、暴走した若者に決まっていますもの。ふたりの死体の上に『天罰』と書いた紙をまき散らしていたんですって。それも筆跡は様々で、何人もが彼らの『制裁』に加わっていたとか。二人の死体は、切り付けられた跡や、殴られた跡でいっぱいだったそうよ。最後には、生きたまま火に焼かれたとか……。すこしかわいそうなほどですわね」

「あんな記事が、新聞に載ってしまいましたもの。しかたないんでしょうけど」

 ひとりの夫人が、意味ありげに視線をふせる。

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