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拗れた友
1.ジル
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城内は、いつになく緊張感に包まれていた。
使用人は慌ただしく動き回り、俺たち連隊による警備の配置も、いつも以上に堅固にしてある。
というのもこの城に、デキヤン王国の王太子が視察に訪れているのだ。
元々フェリシアン様の帰省もそれに伴ってのことだった。
この忙しい時だというのに、全く、イライラが募る。
「ロランはどこだ?」
辺境伯フェルディナン様が直々に城塞内部の案内をしている間に、俺たちは後に王太子へ見せる連携訓練の準備をしなければならないというのに、待てども待てどもロランが来ない。
各部隊への指示を出している副連隊長のジェスタも、頭を抱えていた。
「あれだろ、どうせまだ拗ねてるんだろ。どうせ自分は主館に入れないからって。」
分かっている。そうに決まっている。フェルディナン様にそう言われてから、ずっとその調子なのだから。
だが、主館に入れなくともやれることは多岐にある。
というか、そもそも訓練中くらい立入禁止令は無効だと思うが。バカ真面目なバカが。
どこかの城塔にいるのだろうと思い探させてはいるものの、ネズミのようにすばしっこく隠れるのが上手いロランは、そこらの兵ではなかなか見つけられない。
「もう、あいつ無しでやるしかないんじゃないか?」
ジェスタまで諦めモードだ。
正直俺も半ば諦めてはいるが、補佐がいなくなると俺の仕事量が激増する為、諦めきれずにいるのだ。
それに、これはチャンスでもある。
キュース人のロランがタウヌール連隊で重要な地位に就き、しっかり務めを果たしていると王太子にアピールできれば、それはそのままキュース人の評価に繋がるはずだ。
戦争は既に終わったものの、デキヤン人とキュース人の溝は深い。
タウヌール領内ではロランの影響もあって、表面上は他の地よりましではあろうが、水面下ではまだまだだ。
ロランの為にも、少しでも差別を無くしたいという俺の思いとは裏腹に、当の本人がこれでは。
イライラが止まらない。
フェルディナン様に主館の出入りを禁じられたことが、多大にショックだったことはよく分かる。
ロランがどれだけフェルディナン様を慕っているか知っているから。
でも、そんなにか?
自身の責務を放棄するほど?
木製のテーブルに力いっぱい拳を振り下ろすと、ドスンと鈍い音が鳴り、その音の大きさにジェスタの肩が僅かに竦んだ。
「あの野郎…もし訓練をサボったら、性根を叩き直してやる。」
ぎり、と歯が軋んだ。
「そこで慰めに行かないのが、ジルらしいな。」
「あぁ?!」
俺が慰めてどうなる。ロランの心に響くのは、フェルディナン様の言葉だけだ。
ジェスタはすぐさま「なんでもないです。」と発言を撤回した。
もう何度目かも分からないため息が溢れた。
使用人は慌ただしく動き回り、俺たち連隊による警備の配置も、いつも以上に堅固にしてある。
というのもこの城に、デキヤン王国の王太子が視察に訪れているのだ。
元々フェリシアン様の帰省もそれに伴ってのことだった。
この忙しい時だというのに、全く、イライラが募る。
「ロランはどこだ?」
辺境伯フェルディナン様が直々に城塞内部の案内をしている間に、俺たちは後に王太子へ見せる連携訓練の準備をしなければならないというのに、待てども待てどもロランが来ない。
各部隊への指示を出している副連隊長のジェスタも、頭を抱えていた。
「あれだろ、どうせまだ拗ねてるんだろ。どうせ自分は主館に入れないからって。」
分かっている。そうに決まっている。フェルディナン様にそう言われてから、ずっとその調子なのだから。
だが、主館に入れなくともやれることは多岐にある。
というか、そもそも訓練中くらい立入禁止令は無効だと思うが。バカ真面目なバカが。
どこかの城塔にいるのだろうと思い探させてはいるものの、ネズミのようにすばしっこく隠れるのが上手いロランは、そこらの兵ではなかなか見つけられない。
「もう、あいつ無しでやるしかないんじゃないか?」
ジェスタまで諦めモードだ。
正直俺も半ば諦めてはいるが、補佐がいなくなると俺の仕事量が激増する為、諦めきれずにいるのだ。
それに、これはチャンスでもある。
キュース人のロランがタウヌール連隊で重要な地位に就き、しっかり務めを果たしていると王太子にアピールできれば、それはそのままキュース人の評価に繋がるはずだ。
戦争は既に終わったものの、デキヤン人とキュース人の溝は深い。
タウヌール領内ではロランの影響もあって、表面上は他の地よりましではあろうが、水面下ではまだまだだ。
ロランの為にも、少しでも差別を無くしたいという俺の思いとは裏腹に、当の本人がこれでは。
イライラが止まらない。
フェルディナン様に主館の出入りを禁じられたことが、多大にショックだったことはよく分かる。
ロランがどれだけフェルディナン様を慕っているか知っているから。
でも、そんなにか?
自身の責務を放棄するほど?
木製のテーブルに力いっぱい拳を振り下ろすと、ドスンと鈍い音が鳴り、その音の大きさにジェスタの肩が僅かに竦んだ。
「あの野郎…もし訓練をサボったら、性根を叩き直してやる。」
ぎり、と歯が軋んだ。
「そこで慰めに行かないのが、ジルらしいな。」
「あぁ?!」
俺が慰めてどうなる。ロランの心に響くのは、フェルディナン様の言葉だけだ。
ジェスタはすぐさま「なんでもないです。」と発言を撤回した。
もう何度目かも分からないため息が溢れた。
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