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第六章
三条家と私たちの意志②
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翌日、昼過ぎ。私は起きてから、ずっと緊張が止まらないでいた。
三条家があるのは、東京の中でも高級住宅の立ち並ぶエリアらしい。
それだけでも緊張するのに、これから対峙するのが彼を勘当した親であることに余計に心臓がバクバクといっている。
服装は何がいいのか分からないと聞くと、悠互さんはあの日両親に挨拶に行ったのと同じ格好だと嬉しいと伝えてくれた。
それで、私はボウタイの水色のミディアム丈ワンピースを身に纏った。
足元にはタイツを合わせ、コートの下にもカーディガンを羽織るつもりだ。
「やっぱり可愛いな、杷留」
家を出る直前、着替えた私に悠互さんはふっと優しく口角を上げてそう言った。
あの時と、同じだ。
そう思ったけれど、違うのは彼の愛を確かに感じているということ。
だから、余計にこのまま引き裂かれてしまうのではないかという、別の不安が胸をよぎってしまう。
「ありがとうございます、悠互さん」
あの時は言えなかった彼の名前。
だけど、今はそう言って彼の名前を口にしていないと、もし離れてしまった時に後悔してしまう気がして仕方ない。
すると、悠互さんは私の顎をくいっと掬う。
それから、ちゅっと優しいキスを落としてくれた。
「そんなに不安そうな顔をするな。大丈夫だから」
「でも……」
それでも不安でそう零すと、悠互さんは私の唇を再び塞いだ。今度は私の唇を食むように落とされる。
それで、私の胸がどきりと鳴る。
「俺の隣で、俺を好きだと思っていてくれればそれでいい。終わったら、たっぷりと杷留を愛させてくれ」
妖艶に微笑む彼に、胸の鼓動が高鳴る。そんな私を見て、悠互さんはふふっと笑った。
悠互さんが私を乗せた車を止めたのは、高級住宅街の中でもひときわ目を引く大きな洋館だった。
悠互さんは車を門の中に止め、運転席から降りると私をエスコートするように助手席の扉を開いた。
あらためて、洋館を見上げた。
その大きさに、思わず身震いしてしまう。
「大丈夫だ」
私の腰を抱き、悠互さんがそう言う。
だけれど、彼の声もどこか硬いような気がした。
案内された部屋は、応接室らしい部屋だった。
入口に悠互さんと二人で立つ。
私は緊張しながら、その部屋の中を視線で見渡した。
広々としたその部屋は、たくさんの調度品が飾られ、中央に花柄の上品なソファと大理石のテーブルが置かれていた。
その絢爛な部屋の様子だけでも心臓が早まるのに、ソファに座っている三人が威厳たっぷりで、余計に緊張した。
ソファの端にはお姉さんが、そして彼女の隣には、中年の、だけど美しく品のある和装姿の女性が座っている。
彼女は、きっと悠互さんのお母さんだ。
そしてその奥に、一段と厳格のある人物が座っている。
白髪の混じった髪を丁寧に整えた、一ミリも隙の無さそうな男性。
腕を組み、怖い顔をしてこちらを見ているその人物を、私は見たことがある。
――三条宗満。悠互さんの、父親だ。
「急なお呼び立てに応じていただき、ありがとうございます」
そう言いながら、悠互さんは頭を下げた。私も彼に倣い、頭を下げる。
だけど、家族とは思えない挨拶に私は寂しさを感じた。ここは、彼にとって実家であって、実家でないのだ。
「初めまして、三条杷留と申します。悠互さんと、結婚を――」
「座りなさい」
バクバクと鳴る心臓の音に対応して必死に開いた口は、お父さんの声で遮られてしまった。
悠互さんは、緊張で肩の吊り上がったままの私の腰を抱く力を強めた。
「大丈夫」
彼の耳元で囁く声に頷くと、悠互さんは私の腰を抱いたまま、三人の前へと歩み寄る。
「失礼します」
彼らの真正面に腰を下ろすと、お姉さんはふいっと顔を逸らせた。
「杷留さん、と言ったね」
唐突に名前を呼んだのは、悠互さんのお父さんだった。
彼は威厳に満ちた顔で、じっと私の瞳を見つめている。
心臓があり得ないほどに早い。
だけどなんとか、私は口を開いた。
「はい」
すると、彼は表情をピクリとも変えずに、言葉を紡ぐ。
「悠互のことを、どう思っている」
低く、部屋に響く声。問い詰められているようで、涙が出そうになる。
すると悠互さんは、私の肩をぎゅっと抱きしめる。
そして耳元で告げてくれた。
「杷留の想いを、伝えてほしい」
彼の囁きに、愛しさが募る。
私は一度深呼吸をすると、お父さんに向き直った。
「私は、悠互さんを愛しています」
怒られるかもしれない。
怒鳴られるかもしれない。
でも、悠互さんを信じて、私はゆっくりと言葉を続けた。
「これから先も、悠互さんと共に生きていきたいと思っています。公私ともに支え合える、パートナーとして」
お腹の中からせり上がる熱いものを飲み込み、必死になって言った。
するとお姉さんが嫌悪感たっぷりな視線を、私たちに向ける。
それから、けっと私たちを自嘲するように笑みをこぼした。
「なによ、愛とか。くだらない」
「舞子」
お父さんの一言で、彼女は押し黙る。
それから、お父さんは再び私の本心を探るように、瞳をじっと覗いた。
「杷留さん。今の言葉に、嘘偽りはないな」
「はい」
負けてはいけないと、じっと彼を見つめる。
すると、お父さんは私から顔を逸らし、悠互さんに向けて口を開いた。
三条家があるのは、東京の中でも高級住宅の立ち並ぶエリアらしい。
それだけでも緊張するのに、これから対峙するのが彼を勘当した親であることに余計に心臓がバクバクといっている。
服装は何がいいのか分からないと聞くと、悠互さんはあの日両親に挨拶に行ったのと同じ格好だと嬉しいと伝えてくれた。
それで、私はボウタイの水色のミディアム丈ワンピースを身に纏った。
足元にはタイツを合わせ、コートの下にもカーディガンを羽織るつもりだ。
「やっぱり可愛いな、杷留」
家を出る直前、着替えた私に悠互さんはふっと優しく口角を上げてそう言った。
あの時と、同じだ。
そう思ったけれど、違うのは彼の愛を確かに感じているということ。
だから、余計にこのまま引き裂かれてしまうのではないかという、別の不安が胸をよぎってしまう。
「ありがとうございます、悠互さん」
あの時は言えなかった彼の名前。
だけど、今はそう言って彼の名前を口にしていないと、もし離れてしまった時に後悔してしまう気がして仕方ない。
すると、悠互さんは私の顎をくいっと掬う。
それから、ちゅっと優しいキスを落としてくれた。
「そんなに不安そうな顔をするな。大丈夫だから」
「でも……」
それでも不安でそう零すと、悠互さんは私の唇を再び塞いだ。今度は私の唇を食むように落とされる。
それで、私の胸がどきりと鳴る。
「俺の隣で、俺を好きだと思っていてくれればそれでいい。終わったら、たっぷりと杷留を愛させてくれ」
妖艶に微笑む彼に、胸の鼓動が高鳴る。そんな私を見て、悠互さんはふふっと笑った。
悠互さんが私を乗せた車を止めたのは、高級住宅街の中でもひときわ目を引く大きな洋館だった。
悠互さんは車を門の中に止め、運転席から降りると私をエスコートするように助手席の扉を開いた。
あらためて、洋館を見上げた。
その大きさに、思わず身震いしてしまう。
「大丈夫だ」
私の腰を抱き、悠互さんがそう言う。
だけれど、彼の声もどこか硬いような気がした。
案内された部屋は、応接室らしい部屋だった。
入口に悠互さんと二人で立つ。
私は緊張しながら、その部屋の中を視線で見渡した。
広々としたその部屋は、たくさんの調度品が飾られ、中央に花柄の上品なソファと大理石のテーブルが置かれていた。
その絢爛な部屋の様子だけでも心臓が早まるのに、ソファに座っている三人が威厳たっぷりで、余計に緊張した。
ソファの端にはお姉さんが、そして彼女の隣には、中年の、だけど美しく品のある和装姿の女性が座っている。
彼女は、きっと悠互さんのお母さんだ。
そしてその奥に、一段と厳格のある人物が座っている。
白髪の混じった髪を丁寧に整えた、一ミリも隙の無さそうな男性。
腕を組み、怖い顔をしてこちらを見ているその人物を、私は見たことがある。
――三条宗満。悠互さんの、父親だ。
「急なお呼び立てに応じていただき、ありがとうございます」
そう言いながら、悠互さんは頭を下げた。私も彼に倣い、頭を下げる。
だけど、家族とは思えない挨拶に私は寂しさを感じた。ここは、彼にとって実家であって、実家でないのだ。
「初めまして、三条杷留と申します。悠互さんと、結婚を――」
「座りなさい」
バクバクと鳴る心臓の音に対応して必死に開いた口は、お父さんの声で遮られてしまった。
悠互さんは、緊張で肩の吊り上がったままの私の腰を抱く力を強めた。
「大丈夫」
彼の耳元で囁く声に頷くと、悠互さんは私の腰を抱いたまま、三人の前へと歩み寄る。
「失礼します」
彼らの真正面に腰を下ろすと、お姉さんはふいっと顔を逸らせた。
「杷留さん、と言ったね」
唐突に名前を呼んだのは、悠互さんのお父さんだった。
彼は威厳に満ちた顔で、じっと私の瞳を見つめている。
心臓があり得ないほどに早い。
だけどなんとか、私は口を開いた。
「はい」
すると、彼は表情をピクリとも変えずに、言葉を紡ぐ。
「悠互のことを、どう思っている」
低く、部屋に響く声。問い詰められているようで、涙が出そうになる。
すると悠互さんは、私の肩をぎゅっと抱きしめる。
そして耳元で告げてくれた。
「杷留の想いを、伝えてほしい」
彼の囁きに、愛しさが募る。
私は一度深呼吸をすると、お父さんに向き直った。
「私は、悠互さんを愛しています」
怒られるかもしれない。
怒鳴られるかもしれない。
でも、悠互さんを信じて、私はゆっくりと言葉を続けた。
「これから先も、悠互さんと共に生きていきたいと思っています。公私ともに支え合える、パートナーとして」
お腹の中からせり上がる熱いものを飲み込み、必死になって言った。
するとお姉さんが嫌悪感たっぷりな視線を、私たちに向ける。
それから、けっと私たちを自嘲するように笑みをこぼした。
「なによ、愛とか。くだらない」
「舞子」
お父さんの一言で、彼女は押し黙る。
それから、お父さんは再び私の本心を探るように、瞳をじっと覗いた。
「杷留さん。今の言葉に、嘘偽りはないな」
「はい」
負けてはいけないと、じっと彼を見つめる。
すると、お父さんは私から顔を逸らし、悠互さんに向けて口を開いた。
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