交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜

朝永ゆうり

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第六章

互いの気持ちを確かめて④

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 先ほどまではすごく寒いような気がしていたが、悠互さんといるとそれだけで寒くないような気がする。

 繋がれた手が温かいからなのか、それとも心が温かいからなのか。
 いずれにせよ、幸せな気持ちで、私は彼と帰路を歩いていた。

「そういえば、どうして悠互さんはあの場所に来られたんですか?」

 もうすぐ家に着くというとき、ふと気になり悠互さんに聞いた。

 パリでは家の鍵で見つけてもらったが、今回はそうはいかなかったはずだ。
 家の鍵は悠互さんの家に置いてきたのだから。

「ああ……」

 悠互さんは言葉を濁し、黙ってしまう。
 見上げると、彼の頬は赤らんでいた。それから、ふう、と息をついて話し出す。

「都路に聞いたんだ」
「え?」

「杷留に会いたい一心で、気持ちを伝えたい一心で、彼にはすべてを話してしまった。今思えば恥ずかしいが……彼が発破をかけてくれたんだ。自分も杷留を好きだから、あの公園で杷留の気持ちを確かめる、見に来いと言われた」

 三条さんは言いながら、私の手を握る力を強くした。

「もし都路の告白を杷留が受けてしまったら。都路が杷留の隣で笑っていたら。想像したら、居ても立ってもいられなくなって、慌ててあの公園に向かったんだ」

 頬を赤らめながら、そう告白してくれる彼が可愛く思える。

「大げさすぎませんか?」

 くすりと笑みをこぼしてしまうと、彼は立ち止まる。
 見上げると、彼は頬を赤らめながら、だけど真剣な顔をしていた。

「杷留を他の男に触れさせるなんて、考えただけでぞっとする。俺はそれほど、杷留が好きなんだ」

 トクリと胸が甘くなる。
 彼のその顔が、声色が、愛しくて仕方ない。

「私もです」

 そう答え、彼に頬を寄せる。
 頬がにんまりと緩んでしまったが、幸せだから仕方ない。


 家に着き、玄関を入る。
 この家に、こんなに幸せな気持ちで帰って来られるとは思わなかった。
 にまにましながら、思わず玄関をぐるりと見回してしまう。

 だけど、そこで私ははっとした。姿見に、自分の姿が映ってしまったのだ。

 上下グレーのスウェットに、コートを羽織ったおかしな格好。
 すっぴんなうえ、簡単にしかくくっていなかった髪は、夜風に吹かれて余計にぼさぼさになっていた。

 慌てて髪を撫でつけていると、スーツケースを部屋に運んでくれていた悠互さんが私を見て、首を傾げた。

「どうしたんだ?」
「え、あ、いや、あの……」

 さらなる羞恥が私を襲う。
 あんなに好きだとか言い合って、ニマニマしながら手を繋いで帰ってきた。その私の恰好が、これだったのだ。

 もちろん、悠互さんの目にはずっとこの恰好の私が映っていた。
 だから、なにが変わったというわけではないのだが、事実に気付いてしまったら恥ずかしくて仕方ない。

 どぎまぎしてしまい、何も言えないでいると、悠互さんがこちらにやってくる。
 それで余計に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。

 すっぴんでも、スウェット姿でも、悠互さんは好きだと伝えてくれた。
 だから、別にそれを伝えたところで彼に嫌われるわけじゃない。

 分かっているけれど、言えない。
 それも全部、こんな恰好で外に出てしまった、私が悪い。

 顔を真っ赤にして視線を逸らせていると、悠互さんは私の前で立ち止まり、ふわりと髪を撫でてくれた。

「そんなに緊張しないでくれ。恥ずかしいなら、今夜は別のベッドで寝よう」

 悠互さんは優しい。
 私が恥ずかしがっているのを別の意味に捉え、解決策まで出してくれる。

 だけど、別々のベッドでは寂しい。せっかく、心を通わせたのだから。

「違うんです!」

 思い切って、口を開く。

「こんな恰好をしていたって、今気づいて……すっぴんだし、髪もぼさぼさだし、こんなので悠互さんに好きだって告げたんだって。こんな姿のまま、悠互さんにくっついて歩いていたんだと反省をしてました」

 言いながら、語尾が小さくなってしまう。
 恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。

 だけど、悠互さんは頭上でクスリと笑った。

「なんだ、そんなことか」

 そう言うと、腰をかがめて私の顔を覗き込む。

「確かに、いつもより肌の色が暗めな気がするな」

 彼の言葉に、羞恥がマックスになる。

 彼と共に過ごしていた時は、メイクオフをしても天然成分のパウダーをしていた。
 だけど、今は本当のすっぴんなのだ。
 しかも、こんなに明るい場所で見られてしまうなんて。

「あんまり、見ないでください」

 顔を両手で隠しながら言うと、彼はちゅっと手の甲に触れるだけのキスを落とした。

「久しぶりに杷留の顔が良く見られるんだ。もっと、見せてくれ」
「でも――」

 恥ずかしくて俯き、だけど触れて欲しくてちらりと目だけ覗く。
 悠互さんは相変わらず優しく微笑んでいた。

「大丈夫。どんな杷留でも、可愛いよ。俺の大好きな、奥さんだ」

 その言葉は、今はやめて欲しい。

 胸の内でのたうち回るほどに悶絶していると、私の手が顔から離れた隙をついて、悠互さんの唇が私の唇に触れた。
 それがゆっくりと離されると、悠互さんの口からため息が零れ落ちた。

「ダメだな。我慢しないと」

 悠互さんは苦笑いを浮かべた。

「杷留とずっと共に生きていきたい。そのためにも、三条家のことはきちんと解決しようと思っているんだ。それまで、杷留のことを抱かないつもりでいた。なのに……杷留が可愛すぎて暴走しそうになる」
「悠互さん……」

 彼の想いに、胸がじわんとなる。
 思わず見つめてしまうと、彼は勘弁してくれと言うように口元を手で覆った。

「それなら、私もなにかお手伝いしたいです」

 悠互さんが三条家に向き合うのなら、協力したい。
 そう思ったのに、悠互さんは首を横に振った。

「これは、俺の問題だ。杷留に心労をかけたくない。なにより、コンペの準備で忙しいだろう」
「でも……」
「俺は、仕事に一生懸命に取り組む杷留も好きなんだ」

 くすりと優しい笑みを向けられ、何も言えなくなる。
 だけど、それでは彼の〝妻〟としての私が納得しない。

「……ひとりで、頑張りすぎないでくださいね。私、悠互さんの妻なんですから」

 私は彼の家族だ。彼と夫婦だ。
 そんな思いを込めて告げると、彼は一瞬キョトンとする。
 だけどすぐ、優しく微笑んでくれた。

「じゃあ、ひとつだけ頼みたいことがあるんだが、いいか?」

 ***

 その晩から、私たちは再び抱きしめ合って眠ることにした。
 シャワーを浴び、久しぶりに彼の腕に包まれて横になる。

 悠互さんが、私に頼んだこと。それは、毎日こうして抱きしめて眠りたい、ということだった。

『家のことを解決したら、その後はたっぷりと愛させてほしい』

 そう言った彼の、愛しい瞳を私は信じる。
 悠互さんなら、きっと三条家のことを乗り越えてくれるはずだ。

「おやすみ、杷留」

 三条さんはそう言うと、私のおでこに優しくキスを落とす。

 大好きな、彼の香り。優しい抱擁。
 それらに包まれながら、私はそっと目を閉じた。

 二人で過ごす、幸せな未来が来ることを切に祈りながら。
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