交際マイナス一日婚⁉ 〜ほとぼりが冷めたら離婚するはずなのに、鬼上司な夫に無自覚で溺愛されていたようです〜

朝永ゆうり

文字の大きさ
16 / 48
第二章

彼の演技はどこまで?⑤

しおりを挟む
 午前中の勤務を終え、昼過ぎ、社内のランチルーム。

「杷留、ここ!」

 食事の乗ったトレーを持ったままキョロキョロしていると、先に来ていた南江が私に気付いて大きく手を振った。

 今日は南江の外回りが昼にかからないので、一緒にランチを食べる約束をしていたのだ。

 彼女の元へ向かうと、四人掛けの席で、南江の隣に都路くんがいるのに気づいた。
 彼は先週一週間、出張で本社にいなかったから、会うのは久しぶりだ。

「都路くんも一緒だったんだね。お疲れ様」
「お疲れ」

 彼はそう言うと、なぜか彼はそっぽを向いて、ムスッとしてしまった。

「どうしたの、彼」

 南江の前に座りながら訊くと、彼女は苦笑いを浮かべた。

「ショックだったみたいよ。都路くん、杷留が結婚したって今日知ったみたいで。『何も聞いてない』ってさっきまですんごいご立腹だったから」

 改めて都路くんを見る。彼は「別に」と言いながら、テーブルの前に合ったトンテキを大きく切って口に運んだ。

 すると、南江は都路くんを指さしながら、口パクで『なにも話してないよ』と教えてくれる。
 きっと〝私が南江に一週間前に話したことは、彼には伝えていない〟ということだろう。
 私は南江にこくりと頷いてから、口を開いた。

「ごめん、都路くん。なんていうか、話すタイミングが分からなくて。まさか、あんなに大々的に、富永局長に紹介されるなんて思ってなかったし」

 正確に言えば『まさか結婚しているなんて思わなかった』だ。
 だけどそんなことは言えるわけもなく、私は申し訳なくなりながらも同じくトンテキにナイフを入れた。

「あ、それ!」

 不意に南江が声を上げたので、顔を上げる。彼女は私の手元を見て、目をしばたたかせていた。

 彼女が見ていたのは、どうやら左手の薬指だったらしい。そこには、三条さんにもらった指輪が嵌まっている。


 土曜日にもらった指輪を、三条さんは当たり前のようにずっと着けていた。
 私も着けていたのだけれど、今日は仕事だからと、朝に外して朝食へ向かった。すると三条さんは妙に寂しそうな顔をした。

『指輪、しないのか?』

 そう問う三条さんの指には、ばっちりと指輪がはまっていた。なんだか申し訳ない気持ちになり、どうせこの指輪の出番も今しかないのだからと、私もずっと嵌めることにしたのだ。

 南江の声に、都路くんも私の手元をちらりと見る。
 するとやたらとぎょっとして、それからふいっとすぐに自分の手元に目を移した。

「やっぱり愛されてるんじゃない」

 南江はニヤニヤしながら、私の手の甲を小突いた。彼女は、全てを知っているというのに。
 まさか、三条さんが私を好きだなんて、そんなことありえない。

「でも、高価なものじゃないみたいだし」

 苦笑いを浮かべてそう言うと、南江は目を丸くした。

「なに言ってるの、それ高級アクセサリーブランドの定番の形よ」

 南江の視線は、『知らないの?』とでも言うようだ。
 宝飾品への知識のなさが露呈してしまい、恥ずかしい。まさか、高価なものだったなんて。

「なんで結婚指輪の価格知らねーんだよ」

 都路くんもボソッと、呆れたようにそう言った。

「三条さんが用意してくれたから……高価なものじゃないって言われたし」
「でも、一生に一度の大切なもんだろ。高価じゃないわけがない」

 私たちの事情を知らない都路くんは、ため息をこぼした。
 すると南江が口を開く。

「愛されてるんだよ、杷留」

 彼女は余計にニヤニヤしながら、広げていたお弁当に箸を入れた。

「だってさ、あの鬼で女っ気のない三条さんと、同じく仕事一筋の杷留が電撃結婚! って聞いたとき、変な噂とか嫌がらせとか起きるかもって、私ちょっと心配してたんだけど――」

 南江がそこまで言うと、急に都路くんが口を挟んできた。

「自分たちのことはとやかく言うな、そんな暇があるなら業務に集中しろ」
「そうそう! そうやってお触れだしてさ。しかも、あらぬ噂やおかしな行動をした者は徹底的に処罰する、みたいなこと言ってたよね」

 私は思わずきょとんとしてしまった。
 しかし、二人は構わずに食事を続けながら話す。

「言葉はもうちょっと柔らかかった気もするけど」
「杷留のこと守ろうって必死なのが伝わってきた。素敵な旦那様だなって思ったよ」

 そんな会話を続ける二人に、私は食事の手を止めてしまう。

 先週一週間、快適に仕事をこなせていたのは、三条さんのおかげだったらしい。
 そんなこと、全く気付かなかった。

 聞いてしまえばドクドクと心臓が早まり、顔が勝手に熱くなる。
 そんな私に気付いた南江がちらりとこちらを見て、ふふっと笑った。

『ラブ』

 彼女は口パクで、私にそう伝えてくる。私は慌ててかぶりを振ったけれど、南江は構わず口を開いた。

「この調子だと、新婚旅行もすぐ行っちゃいそうね」
「行かないよ!」

 言ってから、はっとした。フランス旅行が決まっている。

「新婚旅行ってわけじゃないけれど、でも今度フランスに行く、予定、です」

 言いながら恥ずかしくなり、語尾がしどろもどろになる。
 二人はそんな私を見て、目をまん丸にした。

「フランス⁉」

 興奮する南江の横で、都路くんはなぜか盛大に噎せていた。

「たまたま、もらったの! だから――」

 必死に水を呷る都路くんの隣で、南江はまた口パクで『ラブ』とニヤニヤする。

 私はため息をこぼしながら、でもなぜか口角が勝手に緩んでしまうのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

普通のOLは猛獣使いにはなれない

ピロ子
恋愛
恋人と親友に裏切られ自棄酒中のOL有季子は、バーで偶然出会った猛獣(みたいな男)と意気投合して酔った勢いで彼と一夜を共にしてしまう。 あの日の事は“一夜の過ち”だと思えるようになった頃、自宅へ不法侵入してきた猛獣と再会し、過ちで終われない関係となっていく。 普通のOLとマフィアな男の、体から始まる関係。

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。 断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。 夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。 パリで出会ったその美人モデル。 女性だと思っていたら――まさかの男!? 酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。 けれど、彼の本当の姿はモデルではなく―― (モデル)御曹司×駆け出しデザイナー 【サクセスシンデレラストーリー!】 清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー 麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル) 初出2021.11.26 改稿2023.10

俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る

ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。 義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。 そこではじめてを経験する。 まゆは三十六年間、男性経験がなかった。 実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。 深海まゆ、一夜を共にした女性だった。 それからまゆの身が危険にさらされる。 「まゆ、お前は俺が守る」 偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。 祐志はまゆを守り切れるのか。 そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。 借金の取り立てをする工藤組若頭。 「俺の女になれ」 工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。 そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。 そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。 果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。

天才小児外科医から溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
天才小児外科医から溺愛されちゃいました

家政婦の代理派遣をしたら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
このご時世、いつ仕事がクビになるか分からない。社内の派遣社員が一斉にクビを告げられた。天音もそんな1人だった。同じ派遣社員として働くマリナが土日だけの派遣を掛け持ちしていたが、次の派遣先が土日出勤の為、代わりに働いてくれる子を探していると言う。次の仕事が決まっていなかったから天音はその派遣を引き受ける事にした。あの、家政婦って聞いたんですけど?それって、家政婦のお仕事ですか!? 強面の雇い主(京極 樹)に溺愛されていくお話しです。

元遊び人の彼に狂わされた私の慎ましい人生計画

イセヤ レキ
恋愛
「先輩、私をダシに使わないで下さい」 「何のこと?俺は柚子ちゃんと話したかったから席を立ったんだよ?」 「‥‥あんな美人に言い寄られてるのに、勿体ない」 「こんなイイ男にアピールされてるのは、勿体なくないのか?」 「‥‥下(しも)が緩い男は、大嫌いです」 「やだなぁ、それって噂でしょ!」 「本当の話ではないとでも?」 「いや、去年まではホント♪」 「‥‥近づかないで下さい、ケダモノ」 ☆☆☆ 「気になってる程度なら、そのまま引き下がって下さい」 「じゃあ、好きだよ?」 「疑問系になる位の告白は要りません」 「好きだ!」 「疑問系じゃなくても要りません」 「どうしたら、信じてくれるの?」 「信じるも信じないもないんですけど‥‥そうですね、私の好きなところを400字詰め原稿用紙5枚に纏めて、1週間以内に提出したら信じます」 ☆☆☆ そんな二人が織り成す物語 ギャグ(一部シリアス)/女主人公/現代/日常/ハッピーエンド/オフィスラブ/社会人/オンラインゲーム/ヤンデレ

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

処理中です...