孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

朝永ゆうり

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似合わない花束 ①

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「杏依先生、ここはもう大丈夫だから裏のセッティングお願い」

 発表会当日、元同僚の明美と受付業務をしていたが、一部が始まると明美は杏依の背中を押した。

 発表会は二部制で、一部は小学校低学年までの子どもたち、二部は高学年より上、大人までのレッスン受講者が練習成果を披露する。

 杏依の出番は二部のラストだ。白哉にはおおよその時間も伝えていた。

 本当に、来てくれるのかな。

 発表会のホストである海原楽器の社員ゆえ、受付業務が始まればスマホを見る時間などない。
 今から裏――すなわち地下に移動してしまえば、電波も届かない。

 朝から不安と期待の入り混じったドキドキに胸を占拠されている。

 杏依はまだ姿を見ていない白哉に思いを馳せながら、地下の器楽控室へと向かった。

 ◆◆◆

 白哉は花束を片手に、演奏会の会場へやってきた。
 ピンク色の花ばかりになってしまったこの花の束ほど、自分に似合わないものはないと思う。

 けれど、自分用に買ったわけではない。花言葉を調べ、「希望」とか「感謝」を入れようと思ったら、ピンク色の花束が出来上がってしまったのだ。

 それでも、くどくなりすぎないようにとカスミ草などをあしらい、バランス良く仕上げてくれた花屋の店員は流石だと思う。結果的に、杏依の印象にぴったりの花束が出来上がった。

 オペ予定は変わってもらった。どういう風の吹き回しかと、周りに怪しまれたが関係ない。
 碧人に至っては「貸し二つ目~」となぜか楽しそうにしていた。アイツの言動には腹が立つが、それ以上に、杏依の晴れ舞台を見たい。

 あの日、白哉は判断を誤った。彼女の腕を切ることを、躊躇してしまったのだ。その結果、ピアノ講師という仕事を断つ決断を、彼女にさせなければならなくなかった。

 それでもなお前を向き、別のことに挑戦し続ける彼女は、白哉にとって希望の光だ。

 受付に着くと、見知った顔があった。
 碧人に連れて行かれた忌々しい合コン現場で、杏依の隣に座っていた、彼女の元同僚だ。

 彼女も白哉に気付いたようで、「あ、どうも!」と明るく挨拶された。

「その花束、杏依先生にですか? 素敵ですね、そっか二人付き合ってたんですね」

「え、あ、いや……まあ、はい」

 否定するのもややこしい。白哉は一瞬考えたけれど肯定し、目の前の花束を愛でた。

 ピンク色のガーベラとカーネーション。見ていると自然に頬がにやけてしまい、そのことに気付いて慌てて表情筋を引き締めた。

「出演者への贈り物はこちらでお預かりしてるんですけど、杏依先生にはあなたから直接渡してあげてください。そのほうが、彼女も喜ぶでしょうから」

 自分の頬は自然ににやけてしまうけれど、相手にニヤつかれるのはあまりいい気分がしない。

「はい」と短く答え、白哉はもう少しで終わるという一部の演奏を、ロビーで聴きながら待った。
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