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第四章
234話 約束の地へ
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あまりに大軍過ぎるので現地集合で各国から魔王領へ世界軍が派遣されることになった。
帝国としても鉄道は大量の物資輸送、特に兵器や砲弾といった重い装備の輸送を優先的に行っているため私を含む兵士は昔ながらの馬と徒歩で向かうことにした。
「レオ様、本当に行かれるのですね……」
「ああ。国内を孔明に任せ、あらゆる軍事的戦力は魔王領に集中させる」
「そこまでレオ様を駆り立てるものは何なのでしょうか……?」
防具の装備を手伝ってもらいながらタリオにそう問われ、私は改めて考える。
「何故だろうな……。だが、その魔王という響き、存在、それが私の首元に短剣を突き立てているような気分にさせるのだ」
この世界に来た時、フィクションだけ存在であった魔法やスキルといったものを見て心が沸いた。それと同時に、普通の人間では敵わない魔物やモンスターという存在に深い恐怖心を植え付けられた。
私が知るフィクションの通り、この世界の伝説通りの魔王が存在するならば、それは間違いなくこの世界最大の敵であり、それを私自身の手で倒すことが私に課された最後のイニシエーションに思えたのだ。
いささか勇者像、英雄像に毒されているとも言えるが。
「……仮に魔王領にレオ様が行ったとしても、前線に立つなどということまでは許されませんよ。歳三さんや孔明殿が絶対に許しません。歳三さんなら、レオ様の両脚を折ってでも止めるでしょう」
「おいタリオ、そこまで私を脅さなくても流石に無茶はしない。安心してくれ」
「あ……、で、出すぎた真似をお許し下さい!」
「いや、お前の心配は理解している。だが私ももう無茶はできない存在になってしまったからな。国を背負う立場、というのももちろんだが、エルシャを遺して死ぬことはない。……家族を喪う苦しみを知った今、そのような悲しみを彼女に背負わすことは絶対にしない」
「そこまで言うなら、私を置いて戦場へなんて行かないでよ」
エルシャは私の袖を掴み俯きながらそう呟いた。
いかなる時も気丈に振る舞う彼女であっても、今日という日はその感情を隠すことができないでいた。
「……必ず生きて帰る。今生の別れではないさ。……元気でな」
「……はい」
私たちは軽く唇を重ね、優しく抱き合った。
「……もういいか?」
ナポレオンがその光景を冷たい目で見ている。
「ゴホン! ──では出発しよう」
ルーデルやハオラン、他の大臣級の人物が率いる部隊は既に援軍へ向かっている。私たちで最後だ。
「全軍に告ぐ! 目指すは北方、魔王領! 全速前進!」
ナポレオンの号令により、スキル『葡萄月将軍』のバフを受けた全軍が行軍を開始した。
「全てを終わらせ、帰ってくる」
私はエルシャに、帝国に別れを告げ、彼の地へ向けて歩みを進めた。
いくらナポレオンのスキルがあろうと、魔王領までは数日かかる。それまでにも刻一刻と戦況の変化が伝えられた。
歳三がどうなっているのか気が気でないが、兵の士気に関わるので気取られないよう、表情を押し殺し、北を目指した。
そして五日後、帝国領と魔王領のを隔てる長城に到着した。
「世界が、人類の全てが、ここに集まっているのだな」
南に位置する協商連合は魔王領に一番遠いが、それでも世界軍の集合には遅れることなく既に装備を整えここで私を待ち構えていた。
「陛下、お久しぶりです。それと、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうディプロマ。戦場で誕生日を迎える日が来るとは思っていなかったのだがな」
今日は統一歴元年九月三日。私は二日前に十八歳の誕生日を迎えていた。
やっと平和を成し遂げ平穏な誕生日を迎えられると思っていたのに、こんなことになるとは想像もしていなかった。
「──それにしても早かったな」
「はい。そちらの丞相殿に嘆願し、世界軍の招集以前に魔王領へ軍を送らせて頂きました。そして陛下同様、私自ら前線にて指揮を執る所存です」
ディプロマがやり手であることはよく知っている。それに自らの命を懸けて物事に取り組む人間であることも知っている。
「アキード軍はそれほど強くなかったと記憶している。無理はするな」
「はい……お恥ずかしながら……。せめて足でまといにはならぬよう肉壁程度の働きは果たせたらと思います」
「陛下、私たち王国軍は全ての指揮権を帝国に譲渡したく思います」
ディプロマと話している様子を見てプリスタも私の元へやって来た。
「突然どうした。ファルンホスト自慢の魔剣士部隊は前回の戦闘でもなるべく殺さぬよう配慮したつもりだが」
世界軍と言えど、基本は各国の自主権を尊重し、指揮権も各国に委ねられている。もちろん、緊急時は指揮権を私に、つまり帝国に引き渡す取り決めはされているが。
「そうでしたか。それは陛下の慈悲深き御心に感謝申し上げます。……しかし、帝国軍の圧倒的な強さは王国民全てが理解しております。それは王国の兵士では尚更です。……ですので王国軍では自らの存在意義を疑い、無駄死になのではないかと嘆く者ばかりなのです」
「ふむ。それは問題だな……」
銃を使う帝国軍に対し、剣を振り回す王国軍が肩を並べれば自らの無力さにやる気を失うのも致し方ないか。
「……では王国軍は王国方向の防御に努めてくれ。国を守る、という大義を与えれば、多少は奮起するだろう。そして指揮権は私が預かること、了承しよう」
「ご配慮頂きましてありがとうございます。それならば兵たちも納得するでしょう」
これで大敗すれば私のせい、と王国はその士気の低さから来る弱さや失敗から責任逃れできる。
まあこちらとしてもナポレオンの指揮下という扱いにすれば『葡萄月将軍』の効果を与えられるのでいいのだが。
このプリスタという男の強かさには毎度一杯食わされる。
まあそれを咎めるほど私も狭量ではない。彼は王国の代表として、自国の利益を最優先に考えているだけだ。
「……他に要望はないな? では魔王領へ、かつて人類が戦い私たちへ命を繋いだ約束の地へ、足を踏み入れるとしよう」
帝国としても鉄道は大量の物資輸送、特に兵器や砲弾といった重い装備の輸送を優先的に行っているため私を含む兵士は昔ながらの馬と徒歩で向かうことにした。
「レオ様、本当に行かれるのですね……」
「ああ。国内を孔明に任せ、あらゆる軍事的戦力は魔王領に集中させる」
「そこまでレオ様を駆り立てるものは何なのでしょうか……?」
防具の装備を手伝ってもらいながらタリオにそう問われ、私は改めて考える。
「何故だろうな……。だが、その魔王という響き、存在、それが私の首元に短剣を突き立てているような気分にさせるのだ」
この世界に来た時、フィクションだけ存在であった魔法やスキルといったものを見て心が沸いた。それと同時に、普通の人間では敵わない魔物やモンスターという存在に深い恐怖心を植え付けられた。
私が知るフィクションの通り、この世界の伝説通りの魔王が存在するならば、それは間違いなくこの世界最大の敵であり、それを私自身の手で倒すことが私に課された最後のイニシエーションに思えたのだ。
いささか勇者像、英雄像に毒されているとも言えるが。
「……仮に魔王領にレオ様が行ったとしても、前線に立つなどということまでは許されませんよ。歳三さんや孔明殿が絶対に許しません。歳三さんなら、レオ様の両脚を折ってでも止めるでしょう」
「おいタリオ、そこまで私を脅さなくても流石に無茶はしない。安心してくれ」
「あ……、で、出すぎた真似をお許し下さい!」
「いや、お前の心配は理解している。だが私ももう無茶はできない存在になってしまったからな。国を背負う立場、というのももちろんだが、エルシャを遺して死ぬことはない。……家族を喪う苦しみを知った今、そのような悲しみを彼女に背負わすことは絶対にしない」
「そこまで言うなら、私を置いて戦場へなんて行かないでよ」
エルシャは私の袖を掴み俯きながらそう呟いた。
いかなる時も気丈に振る舞う彼女であっても、今日という日はその感情を隠すことができないでいた。
「……必ず生きて帰る。今生の別れではないさ。……元気でな」
「……はい」
私たちは軽く唇を重ね、優しく抱き合った。
「……もういいか?」
ナポレオンがその光景を冷たい目で見ている。
「ゴホン! ──では出発しよう」
ルーデルやハオラン、他の大臣級の人物が率いる部隊は既に援軍へ向かっている。私たちで最後だ。
「全軍に告ぐ! 目指すは北方、魔王領! 全速前進!」
ナポレオンの号令により、スキル『葡萄月将軍』のバフを受けた全軍が行軍を開始した。
「全てを終わらせ、帰ってくる」
私はエルシャに、帝国に別れを告げ、彼の地へ向けて歩みを進めた。
いくらナポレオンのスキルがあろうと、魔王領までは数日かかる。それまでにも刻一刻と戦況の変化が伝えられた。
歳三がどうなっているのか気が気でないが、兵の士気に関わるので気取られないよう、表情を押し殺し、北を目指した。
そして五日後、帝国領と魔王領のを隔てる長城に到着した。
「世界が、人類の全てが、ここに集まっているのだな」
南に位置する協商連合は魔王領に一番遠いが、それでも世界軍の集合には遅れることなく既に装備を整えここで私を待ち構えていた。
「陛下、お久しぶりです。それと、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうディプロマ。戦場で誕生日を迎える日が来るとは思っていなかったのだがな」
今日は統一歴元年九月三日。私は二日前に十八歳の誕生日を迎えていた。
やっと平和を成し遂げ平穏な誕生日を迎えられると思っていたのに、こんなことになるとは想像もしていなかった。
「──それにしても早かったな」
「はい。そちらの丞相殿に嘆願し、世界軍の招集以前に魔王領へ軍を送らせて頂きました。そして陛下同様、私自ら前線にて指揮を執る所存です」
ディプロマがやり手であることはよく知っている。それに自らの命を懸けて物事に取り組む人間であることも知っている。
「アキード軍はそれほど強くなかったと記憶している。無理はするな」
「はい……お恥ずかしながら……。せめて足でまといにはならぬよう肉壁程度の働きは果たせたらと思います」
「陛下、私たち王国軍は全ての指揮権を帝国に譲渡したく思います」
ディプロマと話している様子を見てプリスタも私の元へやって来た。
「突然どうした。ファルンホスト自慢の魔剣士部隊は前回の戦闘でもなるべく殺さぬよう配慮したつもりだが」
世界軍と言えど、基本は各国の自主権を尊重し、指揮権も各国に委ねられている。もちろん、緊急時は指揮権を私に、つまり帝国に引き渡す取り決めはされているが。
「そうでしたか。それは陛下の慈悲深き御心に感謝申し上げます。……しかし、帝国軍の圧倒的な強さは王国民全てが理解しております。それは王国の兵士では尚更です。……ですので王国軍では自らの存在意義を疑い、無駄死になのではないかと嘆く者ばかりなのです」
「ふむ。それは問題だな……」
銃を使う帝国軍に対し、剣を振り回す王国軍が肩を並べれば自らの無力さにやる気を失うのも致し方ないか。
「……では王国軍は王国方向の防御に努めてくれ。国を守る、という大義を与えれば、多少は奮起するだろう。そして指揮権は私が預かること、了承しよう」
「ご配慮頂きましてありがとうございます。それならば兵たちも納得するでしょう」
これで大敗すれば私のせい、と王国はその士気の低さから来る弱さや失敗から責任逃れできる。
まあこちらとしてもナポレオンの指揮下という扱いにすれば『葡萄月将軍』の効果を与えられるのでいいのだが。
このプリスタという男の強かさには毎度一杯食わされる。
まあそれを咎めるほど私も狭量ではない。彼は王国の代表として、自国の利益を最優先に考えているだけだ。
「……他に要望はないな? では魔王領へ、かつて人類が戦い私たちへ命を繋いだ約束の地へ、足を踏み入れるとしよう」
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