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第四章
233話 魔の手
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その日は造船計画の全容を見せてもらったり、エルシャの観光に付き合ったりで一日が終わった。
歳三のテコ入れがあった日本風の部屋や和食は以前とは比べ物にならないほど改善されていて、全体を通して満足の行く旅行と言えるものになった。
そんないい気分でいられたのもつかの間、次の日には衝撃の連絡が私の元へ届いたのだった。
「おはようございますレオ様。朝早くからお休みのところ申し訳ありませんが、至急お伝えしたいところが……」
「──んんん、今行く……」
そう団長の声で起こされた私はエルシャに布団を掛け、適当に一枚羽織って部屋から出た。
「レオ様、魔王領で動きがありました」
魔王領での動きという言葉に、私の心臓はドキリと音を立てる。
「歳三に何かあったのか?」
「いえ、それは大丈夫だそうです。……数年振りにモンスターたちが一斉に動き始めました。よって歳三殿率いる特殊作戦部隊は速やかに撤退、最前線での開発・陣地設営地点の防衛任務に当たっています」
歳三が無事であるというだけで私は少し安心した。しかし気を抜ける場面ではないのも確かだ。
「向こう方の規模は?」
「はい。数年間ろくな討伐ができなかった為、相当な数が見込まれます。即応部隊として北方二貴族の領地に駐屯している部隊が向かいましたが、孔明殿の判断により増援を送るとのこと」
「それがいいな」
「ですがそれに伴い、兵員輸送に鉄道を利用しますのでレオ様の乗る機関車は運行を見合わせることになってしまいます。申し訳ございません」
団長は頭を下げるが、彼が悪い訳ではない。
「大丈夫だ。……だが急に動き出したとなると、魔王とやらの存在を疑わざるを得ないな。これは世界会議案件だ。馬で帰るか鉄道の空きを待つか、どっちが早い……?」
「現場からの報告と孔明殿からの指示では、レオ様が急ぎ帰還するほどの事態ではないとのことです。おくつろぎになれる鉄道をお待ちになってよろしいかと」
「……そうか。ではそうさせてもらう」
この時感じた胸騒ぎ。それは間違いなどではなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
結局私たちは十日間も大陸の極東に足止めを食らった後、一週間掛けて皇都へ鉄道で帰還した。
「長旅になって悪かったなエル。ゆっくり休んでくれ」
「ええ……。貴方も無理はしないでね」
「ああ。じゃあ行ってくるよ」
皇城に着くなり私は一目散で孔明の元へ向かった。
孔明は私に気を使ったのかなんなのか知らないが、意図的に現地の情報を回してくれなかった。そのため今向こうが、歳三がどんな状況に置かれているのか全く分からない。
「──孔明!」
「おや、お帰りなさい」
孔明は私を横目に地図と睨めっこしている。
「何故私に何も教えてくれなかった? 今歳三たちはどうなってるんだ!?」
私が詰め寄ると、孔明は渋い顔でやっとこちらを向いた。
「正直に言って少々まずいです。魔物やモンスターの強さでは単純に数で比較はできないので人間の戦力換算としますが、向こうは兵士八十万に値する戦力です」
ここで言う兵士とは旧来の剣を持った兵士である。
近代的な武器を持つ歳三の特殊作戦部隊五万なら多少有利に戦えるだろうが、物量で押し潰されればどうしようもない。
「北方二貴族の領土にいた即応軍合計十万を回し、更に帝国全土からかき集め二十万を送りました。全軍三十五万で対処に当たっています」
「かなりギリギリじゃないか!どうして私に言わないんだ!」
「それを言えばレオは戦場に直行したでしょう?」
「……しないとも言いきれないな」
孔明は私の手網を握れない状況を酷く嫌うようになっていた。
大陸の覇者であり、しかも世界政府の議長という大役を務める私が死ねば、世界は瞬く間に戦乱の世に逆戻りだろう。泰平の世が絶望的な状況になるのは、私と思いを同じくする孔明とて望んではいない。
「世界政府の招集はかけています。明日、世界軍の派遣採択を」
「分かった。だが私も行くぞ。歳三の元へ」
「……止めても聞かないのでしょうね」
「ああ。恐らく、これが人類の最終決戦た私が立ち会うべきだ」
「……分かりました。確かに、“レオが魔王を討ち取った”という事実は今後の世界の舵取りに大いにプラスとなるでしょう。……しかし、そうであれば確実な勝利で終わらせなければなりませんよ」
「当たり前だ。私に敗北は有り得ない」
翌日、孔明が事前に整えた手筈通り世界会議が開催。その中で安全保障会議によって即時世界軍の派遣が採択された。
世界軍の全兵力は百五十万。魔王軍(仮称)の兵力が八十万であるという情報を信じるなら、そのおよそ二倍の兵力を持って特殊作戦部隊救援へ向かうのだ。
「御機嫌よう全人類諸君! 私は世界政府代表レオ=フォン=プロメリトスである!」
私は世界会議を終えた会議室から、そのまま全国へ向けた放送中継を行っていた。
「本日、我々世界政府は世界軍の魔王領派遣を決定した! それは伝説にある魔王が動き出したからだ!」
実際に魔王がいるかは分からない。しかし、魔物やモンスターたちを統べる者がいなければ、このような大群で我々に向かってくることもないはずだ。
「諸君! これは人類にとっての最終決戦となるだろう! ……大規模な動員に対するご理解、ご協力をお願いする。これから私自ら軍を率いてこれを鎮圧、そしてこの大陸から全ての脅威を取り払うのだ! もう二度と、この世界で争いが起こらないようにするのだ!」
全てを終わらせる時が遂に来たのだ。
「諸君! 私を信じよ! 人類の力を信じよ!」
歳三のテコ入れがあった日本風の部屋や和食は以前とは比べ物にならないほど改善されていて、全体を通して満足の行く旅行と言えるものになった。
そんないい気分でいられたのもつかの間、次の日には衝撃の連絡が私の元へ届いたのだった。
「おはようございますレオ様。朝早くからお休みのところ申し訳ありませんが、至急お伝えしたいところが……」
「──んんん、今行く……」
そう団長の声で起こされた私はエルシャに布団を掛け、適当に一枚羽織って部屋から出た。
「レオ様、魔王領で動きがありました」
魔王領での動きという言葉に、私の心臓はドキリと音を立てる。
「歳三に何かあったのか?」
「いえ、それは大丈夫だそうです。……数年振りにモンスターたちが一斉に動き始めました。よって歳三殿率いる特殊作戦部隊は速やかに撤退、最前線での開発・陣地設営地点の防衛任務に当たっています」
歳三が無事であるというだけで私は少し安心した。しかし気を抜ける場面ではないのも確かだ。
「向こう方の規模は?」
「はい。数年間ろくな討伐ができなかった為、相当な数が見込まれます。即応部隊として北方二貴族の領地に駐屯している部隊が向かいましたが、孔明殿の判断により増援を送るとのこと」
「それがいいな」
「ですがそれに伴い、兵員輸送に鉄道を利用しますのでレオ様の乗る機関車は運行を見合わせることになってしまいます。申し訳ございません」
団長は頭を下げるが、彼が悪い訳ではない。
「大丈夫だ。……だが急に動き出したとなると、魔王とやらの存在を疑わざるを得ないな。これは世界会議案件だ。馬で帰るか鉄道の空きを待つか、どっちが早い……?」
「現場からの報告と孔明殿からの指示では、レオ様が急ぎ帰還するほどの事態ではないとのことです。おくつろぎになれる鉄道をお待ちになってよろしいかと」
「……そうか。ではそうさせてもらう」
この時感じた胸騒ぎ。それは間違いなどではなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
結局私たちは十日間も大陸の極東に足止めを食らった後、一週間掛けて皇都へ鉄道で帰還した。
「長旅になって悪かったなエル。ゆっくり休んでくれ」
「ええ……。貴方も無理はしないでね」
「ああ。じゃあ行ってくるよ」
皇城に着くなり私は一目散で孔明の元へ向かった。
孔明は私に気を使ったのかなんなのか知らないが、意図的に現地の情報を回してくれなかった。そのため今向こうが、歳三がどんな状況に置かれているのか全く分からない。
「──孔明!」
「おや、お帰りなさい」
孔明は私を横目に地図と睨めっこしている。
「何故私に何も教えてくれなかった? 今歳三たちはどうなってるんだ!?」
私が詰め寄ると、孔明は渋い顔でやっとこちらを向いた。
「正直に言って少々まずいです。魔物やモンスターの強さでは単純に数で比較はできないので人間の戦力換算としますが、向こうは兵士八十万に値する戦力です」
ここで言う兵士とは旧来の剣を持った兵士である。
近代的な武器を持つ歳三の特殊作戦部隊五万なら多少有利に戦えるだろうが、物量で押し潰されればどうしようもない。
「北方二貴族の領土にいた即応軍合計十万を回し、更に帝国全土からかき集め二十万を送りました。全軍三十五万で対処に当たっています」
「かなりギリギリじゃないか!どうして私に言わないんだ!」
「それを言えばレオは戦場に直行したでしょう?」
「……しないとも言いきれないな」
孔明は私の手網を握れない状況を酷く嫌うようになっていた。
大陸の覇者であり、しかも世界政府の議長という大役を務める私が死ねば、世界は瞬く間に戦乱の世に逆戻りだろう。泰平の世が絶望的な状況になるのは、私と思いを同じくする孔明とて望んではいない。
「世界政府の招集はかけています。明日、世界軍の派遣採択を」
「分かった。だが私も行くぞ。歳三の元へ」
「……止めても聞かないのでしょうね」
「ああ。恐らく、これが人類の最終決戦た私が立ち会うべきだ」
「……分かりました。確かに、“レオが魔王を討ち取った”という事実は今後の世界の舵取りに大いにプラスとなるでしょう。……しかし、そうであれば確実な勝利で終わらせなければなりませんよ」
「当たり前だ。私に敗北は有り得ない」
翌日、孔明が事前に整えた手筈通り世界会議が開催。その中で安全保障会議によって即時世界軍の派遣が採択された。
世界軍の全兵力は百五十万。魔王軍(仮称)の兵力が八十万であるという情報を信じるなら、そのおよそ二倍の兵力を持って特殊作戦部隊救援へ向かうのだ。
「御機嫌よう全人類諸君! 私は世界政府代表レオ=フォン=プロメリトスである!」
私は世界会議を終えた会議室から、そのまま全国へ向けた放送中継を行っていた。
「本日、我々世界政府は世界軍の魔王領派遣を決定した! それは伝説にある魔王が動き出したからだ!」
実際に魔王がいるかは分からない。しかし、魔物やモンスターたちを統べる者がいなければ、このような大群で我々に向かってくることもないはずだ。
「諸君! これは人類にとっての最終決戦となるだろう! ……大規模な動員に対するご理解、ご協力をお願いする。これから私自ら軍を率いてこれを鎮圧、そしてこの大陸から全ての脅威を取り払うのだ! もう二度と、この世界で争いが起こらないようにするのだ!」
全てを終わらせる時が遂に来たのだ。
「諸君! 私を信じよ! 人類の力を信じよ!」
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