英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
221 / 262
第三章

219話 後悔

しおりを挟む
 次の日、ウルツ=ウィルフリード暗殺と領土侵犯を理由とした、ウィルフリード救援及び王国征伐の命が帝国中に公布された。

 国有軍50万の内35万が王国へ向かう。
 その他全ての貴族たちが軍を出し、盟約に従い亜人・獣人の国々からも援軍が出され、最終的に王国へ100万を超える軍勢が集結しようとしていた。

「レオ、今大丈夫ですか?」

「ああ。入っていいぞ、孔明」

 私は未だ父を喪ったという実感もないまま、呆然と皇城のバルコニーでエルシャと共に過ごし、今は彼女の膝枕の上で空を眺めていた。

「……レオ、本当に自ら陣頭に立たなくてよろしいのですか?」

「ああ。今の私に指揮など無理だ。今は喪に服していることになっているから問題ない。……そして現地ではナポレオンが指揮を執った方が『葡萄月将軍』の能力を全ての兵士が受けられる」

国内向けの演説などもナポレオンに任せた。どうやらスキルの激励効果は民間人にも掛かるらしく、戦意高揚にはうってつけらしい。

「それはそうですが……、それでは今度はレオの『英雄召喚』の魔力が貯まりませんよ」

「英雄が一人減ったからスキルで一人増やそうってか? ……父上の代わりなど何処にもいないよ」

「……無配慮な進言、申し訳ありません」

 孔明は袖の下で腕を組み、深く頭を下げた。

「別に怒ってないさ。戦力の補強が必要なのは理解している。……だが今の精神状態ではきっとまともな召喚はできないし、次の英雄も思い浮かんでいない」

 このスキルは私の知識、そして想いに強く左右される。
 無駄打ちするよりは、時間経過で魔力を貯めそのうち思い付いた時にやればいい。






「──で、本題は?」

「はい、それですが、即応軍がルイース=ウィルフリード母君を確保しました。ウィルフリードが陥落し母君が人質になる最悪の事態は避けられたでしょう」

「そうか。では母上を皇都に連れてきてくれ。ここが一番安全だ、というのと、単に家族の顔が見たい」

 平和も父も奪われた私は、これ以上何も失うことができない。

「承知しました。……それともうひとつ、今日になって王国から宣戦布告の使者がやって来ました。いかが致しましょうか」

「殺せ。だが王国内で盗賊などに襲われて死亡したように偽装しろ。奇襲攻撃を受けた事実は変わらないが、その方がより帝国民に対して王国征伐の箔が付く」

 プロパガンダも何でもやる。手緩いやり方が間違っていたことは身をもって実感した。

「ではそのように手筈を整えます。……そして最後、帝国情報局から局長のアルドが面会の申請がありました。お会いしますか?」

「こんな状態でもいいならなッ……!」

「ちょっと……! ──もう……」

 私はエルシャの腰に手を回し抱き締めるような形で彼女の脚の間に顔をうずめる。彼女も口では嫌がる素振りを見せるが、優しく頭を撫でてくれる。
 こうしていれば視界から邪魔なものが一切排され、鼻腔にのみ幸福が広がった。

「し、失礼しますレオ様……」

 アルドの声は酷く震えていた。

「…………」

「──ッ! こ、この度は私共の落ち度でウルツ様を失う結果となりました! 我々が魔王領での王国の動きまで監視していればこのような事には……!!!」

「…………」

「どうか、私の命一つで部下の助命を願えませんでしょうか! 彼らは依然として国境の観察や潜伏任務に就いております! 二度とレオ様の期待を裏切るようなことはありません!」

 ドゴン! と床に頭を打ち付ける音が聞こえてきた。
 そもそもアルドの大きな声というのは初めて聞いた。この目で見ずとも彼の想いは十分に伝わってきた。

「お前を処刑などしないぞアルド。お前たちの働きは私が一番理解している。王国とアキードとの果てしない長さの国境を監視した上で、更に危険な魔王領での王国の動きの調査は困難だと想像できる。……そして国境監視の報告書によって王国軍集結の兆候を知り、ウィルフリード近辺には即応軍を増員できた。おかげで母上は無事だ。お前たちの働きに感謝しよう」

「……! お心遣い感謝します! ですがやはりこのミスは誰かが責任を取らなければ──」

「アルド、それはお前が死にたいだけだろ?」

「なッ……!」

 私がエルシャにもたれ掛かるように体を起こすと、涙を滲ませる目を丸くしたアルドと目が合った。

「お前の出自は聞いている。父上に取り上げられ、結果として今この地位にいるのだものな。後を追いたくなる気持ちは分かる」

「…………」

「だが、私が死なずに頑張っているのにお前だけ死んで楽になろうなどという甘い考えは許さない」

 ここで私を抱き抱えるエルシャの腕が力強くなる。

「今のお前の主は私だ。父上ではない。私の命令に背き命を落とすことは許さない。いいな?」

「は……! うぐ……」

 アルドは零れる涙を腕で拭きながら、嗚咽混じりの返事をした。

「私とて慢心を後悔しているのだ。父上と精強なウィルフリード兵なら魔王領であっても無事任務をやり遂げられるとな。敢えて優遇せず、私に対する求心力を上げるための道具にしてしまったのだよ……」

「…………」

「魔王領調査、国境警備、国内治世。この全てをやらなければならなかった私は、そのどこかで過ちを犯したのだろう。……これから、私の責任と仕事が増える度、私のミスで命が失われていくのだろうな」

 私はそこから何も考えたくなくなり、エルシャの膝の上で少し眠る事にした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

スーパー忍者・タカシの大冒険

Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...