上 下
161 / 262
第二章

159話 進展

しおりを挟む
 皇女が来たからと行って私の仕事がなくなるわけではない。
 それから数ヶ月間は、エルシャとの新しい生活スタイルと相変わらず山積みである仕事の間で押し潰されるような日々であった。

 政治の中枢を担う建物の改築が完了したことにより、とりあえず使っていた兵舎からまた移動しファリア中心に新たな庁舎が生まれた。
 それに合わせ孔明や役人たちもその近くに移り住み、今まで多少不便だったものが一挙に解決された。

 三階建ての庁舎はファリアで屋敷に並んで一番高い建物である。部屋数も屋敷並にあり、執務室に会議室、更には応接室や事務室といった全ての政治機能を集約した新庁舎として相応しいものであった。

「レオ、それは何をしているの?」

「これは建築許可証だな。だが私はただサインするだけさ。街づくりに関しては大枠は決まっているから、あとは素人が変に指示をするより、孔明みたいな本職の人間に任せた方がいい」

「貴方はそれでいいの?」

「……? ファリアがそれだけ大きく成長したということだ。喜ばしい限りだよ」

 改築した昔の屋敷はあくまでもその場しのぎでしかなかった。新しい屋敷も完成してからは、私たちはすぐに綺麗でより大きいこっちの屋敷に引っ越した。
 ちょうど収穫の季節ということもあって、まとまった収入があったので装飾品も揃えることができた。まあ当のエルシャ本人はそこまで気にしていなかったようだが、高貴な血筋である自分の婚約者を無下に扱うわけにもいかなかったので自己満足ではあるがそれなりのものを用意した。

 しかしせっかく裏庭や美術品の展覧室まで用意したのにエルシャはこうやってよく私の仕事部屋へ来る。

 皇族なだけあって彼女の教養の高さにはしばしば驚かされた。
 政治の舵取りに口出しをすることは絶対になかった。だが文書の中にある小さな間違いや計算のズレ、微妙に抜けた法律の穴などを的確に指摘してくれた。

「れ、レオ様……、こちら次の書類になりますにゃ……」

「ありがとう。──そこの机にある書類は全て終わったものだ。向こうに送っといてくれ」

「かしこまりましたにゃ……」

 エルシャが私の横にいることでミーツはいつもビクビクしていた。
 しかしいつだかのように下世話な話をされることもなくなったので仕事がしやすくていい。

「……どれどれ。……これはヘクセルとシフからか。…………なるほど、これは顔を出した方がいいな」

「どこか行くの?」

「ああ。私に直接見てもらいたいものがあるらしいからな。これからヘクセルの研究所に行ってくる」

「そう。私もついて行っていい?」

「……まあいいと思うが、君が見て楽しいものはないと思うぞ」

「じゃあ一緒に行くわ。一緒に歩くのが楽しいから。……準備するからちょっと待ってて」





 こうしてエルシャは私の出先にまでついてくる。

「エルシャ様、お元気ですか」

「ええ。あなたも元気そうで良かったわヘルムート」

「デートの邪魔して悪いがこれも仕事なのでな、許してくれよレオ?」

「私も仕事で出てるんだ。茶化すな歳三」

 旧知の関係ということもあり、私とエルシャが並んで歩く両脇には、彼女側には団長と旧近衛騎士の兵士、私側には歳三とカワカゼら妖狐族が護衛についた。
 左右で武器から服装まで和洋に分かれているのはなんとも珍妙な見た目である。

 私一人なら歳三と二人で行動できるのだが、エルシャと一緒にここまでの護衛を付けて歩けば街も軽く騒ぎになるので少々厄介だ。
 だがエルシャはそんな騒ぎもどこか楽しんでいるようで、街の人に手を振ったり出店に寄って見たりと既に打ち解けていた。

 私が屋敷にいる時は別に外出もしないが、こうした時は抑圧された皇都から飛び出した自由を満喫しているらしい。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 内政やエルシャとの関係は良好に進展していたが、帝国国内の情勢は依然として不安定なままだ。相変わらず国内で紛争が頻発しているが、ヘルムート団長なき現近衛騎士団だけでそれを解決できずわざわざ帝国軍本軍を動かしてやっとの状態らしい。
 だからこそその隙に私たちは軍備や外交関係を整える。

 亜人・獣人を組み込んだ新制ファリア軍の指揮権。それは以下のようになった。

 総指揮 レオ=ウィルフリード
 軍師 諸葛亮(孔明)
 歩兵 土方歳三
 騎兵 ヘルムート=ヤーヴィス
 弓兵 タリオ=シュリン/シャルフ=バルデマー
 空軍 ハオラン=リューシェン

 一応建前として総指揮権は私にあるが、実質孔明が指揮を執っている。私が無理を言ってそれを叶えるのが孔明の仕事のようなものだ。

 歩兵には元からあったファリア軍に加えて、カワカゼ指揮下の妖狐族抜刀隊、アイデクス指揮下の蜥蜴人族槍兵が含まれる。

 タリオには父アルガーと同じシュリンという名と共に準貴族位を与えた。そして弓兵の指揮という大役も任せた。
 タリオならウィルフリード一万の副将であるアルガーのように大成すると信じている。

 ここで注意したいのが弓兵と空軍の指揮系統である。

 弓兵には何故かよく分からないがエルフの王子様シャルフが加わっている。そして彼は彼で別にエルフ弓兵を指揮している。
 弓兵の指揮はタリオなのだがシャルフはタリオの指揮下にない。貴族であり盟友である私が直接指揮しないと聞かないそうだ。
 指揮系統の混乱を招くのでやめて欲しいが、彼らのプライドを優先してでもエルフの弓術は手に入れたい。そのため正確には弓兵は二つの部隊に分かれ、タリオとシャルフが別々に指揮を執ることになった。

 そして空軍。
 本来はルーデルに任せるつもりだったが、空軍と言いつつ実質竜人なのでハオランに指揮を執って貰った方が円滑にことが運ぶ。
 そして何よりルーデル自体が私の想像以上に好き勝手やるので指揮官には向かないと判断した。ルーデルには特別任務と称して無茶を押し付けるぐらいが丁度良さそうである。

 軍備と外交に関して、地方貴族派閥の中で私たちはかなり重要な地位にある。
 それはヘクセルとドワーフたちによる武器だ。

 本当は帝国法で武器の製造は制限されており、協商連合に忖度もあって皇都経由で協商連合に売りつけられた武器を使うことになっているが、もはや中央に帝国法を守らせるだけの力はなかった。
 よって私たちが製造するヘクセルの創意的な兵器や高品質なドワーフ製の武器や防具は人気が高く、高価で取引されている。

 確実に“その時”は私たちの前まで迫ってきていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...