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第二章
119話 落とし所
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「戦いの中で敵すら味方につけ戻るとは……。我が君の人徳の高さは天にも届く程でしょう……。改めて此度の戦争の勝利、お慶び申し上げます」
「ありがとう孔明。……こちらは亜人代表として指揮を執っていた竜人族族長、ハオランど……、ハオランだ」
私は人化するハオランの背から滑り落ちるように地面に降り、孔明に彼を紹介した。
「これはこれは、大将自ら御足労感謝します。私、姓は諸葛、名を亮、字を孔明と申します」
孔明は袖の中で腕を組みハオランに少し頭を傾げる。
「ハオラン、彼こそ私が全軍の指揮を任せた軍師だ」
「ほう。強き者の智者という訳か。……我が名はハオラン=リューシェンである。以後よろしく頼もう」
「”強き者“とは我が君のことでしょうか?」
「ああそうだ。あの人虎族の族長を一刀に切り伏せるとは見事なものよ。ひいては強き者に使えるそなたも同様に敬意を表そう」
「ほう……、成程……」
孔明は私の予想外の強硬策に、少し驚いたようだった。
だがもっと驚いていたのはこの会話を傍から聞いていた兵士たちだった。
「あの方はそんなに強いのか……」
「馬鹿言え!レオ様はあの帝国の英雄ウルツ様のご子息だぞ!弱いはずがない!」
「まだ成人すらなさっていないというのに人虎より強いとは、この歳にして既に強さは彼の英雄に並ぶほどだと言うのか…………」
兵たちは獣人の強さ、恐ろしさを誰よりもよく知っている。それだけに私がほぼ無傷のまま倒して帰ってきたとなれば、私がとんでもない強さだと勘違いしても仕方ない。
だが実際は過剰評価もいいところである。
ハオランの何気ない一言であたりは再び騒ぎになったが、かくして二人の簡単な自己紹介が終わった。
孔明は表情を悟られないように羽扇で顔を覆い隠しながらじっとハオランたちの様子を観察する。
ハオランはそれを見て圧を感じたのだろう。腕を上げ指示を出すと竜人たちは次々に飛び立った。
「それでは我々は失礼させて頂こう。一応は亜人代表として他の種族であっても負傷者の捜索に行かなければならないのでな」
「分かった。それではハオラン、三日後の正午に」
「ああ。今行くついでに他の種族の族長にも声を掛けておこう。──さらばだ」
そう言い残しハオラン率いる竜人たちは飛び去って行った。
「三日後、ですか……?」
「ああ。三日後に────」
私は事の成り行きを仔細孔明に伝えた。
その間、私たちの帰還を聞きつけた治癒魔法の使える魔導師たちが押しかけてきた。
彼ら彼女らにはより重症な兵士たちの治療を優先して欲しいが、貴族を放っておく訳にもいかないとのことなので黙って治療を受けた。
「──成程。つまりこの三日のうちに今後の方策について考えねばならないですね」
「もう大丈夫だ、ありがとう。持ち場に戻ってくれ。──そういうことになる。もちろん私たちとて何の展望もなしにこの強行突破と直接交渉をした訳ではない」
「そうですね。まずは亜人・獣人たちと我々現地部隊との妥協点を見つけ、最終的にはそれを皇帝陛下に承認して頂かなければなりません」
「そこが問題だな……」
帝国の侵略戦争である以上、落とし所は難しい。
仮にかつて亜人たちが住んでいた地域を彼らに返せば、現状帝国が保有している領土は減るということになる。つまりそれは帝国が負けたという意味とイコールだ。
では逆に帝国側に寄り添った内容にすると、帝国の目的は大陸中東に位置する亜人の国々だけでなく極東の獣人の国々にまで及ぶ全土併合だ。
何より沿岸部を持たない内陸国である帝国にとって、極東地域は喉から手が出るほど欲しいだろう。
加えてワイバーンを利用した竜騎兵しかり、帝国は亜人・獣人の軍事利用を視野に入れている。
王国のように奴隷にするとまではいかなくとも、強制的に徴兵する位は平気で要求するだろう。
「だが一応はこの戦争の指揮官としてあのウィリー=シュミットとやらが任命されている。現地判断はあの男の言葉が全てということになるな」
「そうですね。ですがとてもそれだけの判断ができる器の人間とは思いませんが……」
私ですら気付くその事実に孔明がなんの思案もしていないはずもなかった。
「皇都内の勢力関係については調べさせているところですので暫しお待ちを」
「この場での実権は父上が持っている。あの男は陛下の命の重さを理解していないようだが、今はそれで助かった。中央の連中が何を考えているのかはともかく、なるべく双方から理解を得られるような妥協点を探ろう」
「了解致しました。それではレオ、あちらに……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
かくして第二の戦いが始まった。戦争の次は政争である。
私や父はもちろん、この戦争に参加した各領主たちにも会議に参加してもらい、帝国内で理解を得るための基礎を固める。
更には私たちで言う孔明のような、領主の補佐役の人間がいれば身分の貴賤関係なく意見を出して貰った。
貴族でない人間が堂々と政治に関わるなど本来あってはならない事だが、やはり実務を行う者でなければ分からない視点もあるので私の強い要望で呼び寄せた。
それと並行して歳三のような軍務担当者には生存者の捜索、及び被害の確認などを命じた。
戦いの中では正確な数値の把握は難しかったが、今になり改めて調べると、ウィリー率いる先行軍の被害は尋常ではなかった。
最初こそ圧倒的な兵数でもって近隣都市を陥落させていたが、落とした都市の防衛や治安維持に兵をどんどん残していく必要があるため総兵力は被害以上に減っていた。
加えて、ウィリーは皇帝の勅命を受けて軍を動かしているのに、軍隊の中身は皇帝や皇族の有する国有軍ではなかったのだ。
ただし近衛騎士団は皇帝個人に属する兵力であるため国軍ではなく、その分自由な活動が許されている。
つまり皇帝個人以外から軍事力の提供はなく、皇室が持つ帝国の正規軍たる主力は未だ皇都周辺に残っていることになる。
ではこの場に派遣されている兵は?その実態は、皇帝に近しい中央領主や皇都内で行った新規徴兵によって成された、新制軍とも言えるよく分からない司令系統を持つ軍組織であった。
しかもそれを国有軍のように扱い、それなりの装備を持たせているのだから余計にタチが悪い。
これではウィリーが有能だったとしても戦争は苦戦を強いられていただろう。
「……つまり、中央連中は本気で亜人・獣人諸国を併呑するつもりはなかった……?」
むしろここまで耐えていたのは、私たちが来るまでの間戦っていた地方領主らの奮闘が大きい。
帝国内で見てもかなり小さい規模である数万人程度の領民を抱える地方領主としてすら日々悪戦苦闘している私が、国家全体を巻き込んだ政治闘争に頭を抱えるのは言うまでもなかった。
「ありがとう孔明。……こちらは亜人代表として指揮を執っていた竜人族族長、ハオランど……、ハオランだ」
私は人化するハオランの背から滑り落ちるように地面に降り、孔明に彼を紹介した。
「これはこれは、大将自ら御足労感謝します。私、姓は諸葛、名を亮、字を孔明と申します」
孔明は袖の中で腕を組みハオランに少し頭を傾げる。
「ハオラン、彼こそ私が全軍の指揮を任せた軍師だ」
「ほう。強き者の智者という訳か。……我が名はハオラン=リューシェンである。以後よろしく頼もう」
「”強き者“とは我が君のことでしょうか?」
「ああそうだ。あの人虎族の族長を一刀に切り伏せるとは見事なものよ。ひいては強き者に使えるそなたも同様に敬意を表そう」
「ほう……、成程……」
孔明は私の予想外の強硬策に、少し驚いたようだった。
だがもっと驚いていたのはこの会話を傍から聞いていた兵士たちだった。
「あの方はそんなに強いのか……」
「馬鹿言え!レオ様はあの帝国の英雄ウルツ様のご子息だぞ!弱いはずがない!」
「まだ成人すらなさっていないというのに人虎より強いとは、この歳にして既に強さは彼の英雄に並ぶほどだと言うのか…………」
兵たちは獣人の強さ、恐ろしさを誰よりもよく知っている。それだけに私がほぼ無傷のまま倒して帰ってきたとなれば、私がとんでもない強さだと勘違いしても仕方ない。
だが実際は過剰評価もいいところである。
ハオランの何気ない一言であたりは再び騒ぎになったが、かくして二人の簡単な自己紹介が終わった。
孔明は表情を悟られないように羽扇で顔を覆い隠しながらじっとハオランたちの様子を観察する。
ハオランはそれを見て圧を感じたのだろう。腕を上げ指示を出すと竜人たちは次々に飛び立った。
「それでは我々は失礼させて頂こう。一応は亜人代表として他の種族であっても負傷者の捜索に行かなければならないのでな」
「分かった。それではハオラン、三日後の正午に」
「ああ。今行くついでに他の種族の族長にも声を掛けておこう。──さらばだ」
そう言い残しハオラン率いる竜人たちは飛び去って行った。
「三日後、ですか……?」
「ああ。三日後に────」
私は事の成り行きを仔細孔明に伝えた。
その間、私たちの帰還を聞きつけた治癒魔法の使える魔導師たちが押しかけてきた。
彼ら彼女らにはより重症な兵士たちの治療を優先して欲しいが、貴族を放っておく訳にもいかないとのことなので黙って治療を受けた。
「──成程。つまりこの三日のうちに今後の方策について考えねばならないですね」
「もう大丈夫だ、ありがとう。持ち場に戻ってくれ。──そういうことになる。もちろん私たちとて何の展望もなしにこの強行突破と直接交渉をした訳ではない」
「そうですね。まずは亜人・獣人たちと我々現地部隊との妥協点を見つけ、最終的にはそれを皇帝陛下に承認して頂かなければなりません」
「そこが問題だな……」
帝国の侵略戦争である以上、落とし所は難しい。
仮にかつて亜人たちが住んでいた地域を彼らに返せば、現状帝国が保有している領土は減るということになる。つまりそれは帝国が負けたという意味とイコールだ。
では逆に帝国側に寄り添った内容にすると、帝国の目的は大陸中東に位置する亜人の国々だけでなく極東の獣人の国々にまで及ぶ全土併合だ。
何より沿岸部を持たない内陸国である帝国にとって、極東地域は喉から手が出るほど欲しいだろう。
加えてワイバーンを利用した竜騎兵しかり、帝国は亜人・獣人の軍事利用を視野に入れている。
王国のように奴隷にするとまではいかなくとも、強制的に徴兵する位は平気で要求するだろう。
「だが一応はこの戦争の指揮官としてあのウィリー=シュミットとやらが任命されている。現地判断はあの男の言葉が全てということになるな」
「そうですね。ですがとてもそれだけの判断ができる器の人間とは思いませんが……」
私ですら気付くその事実に孔明がなんの思案もしていないはずもなかった。
「皇都内の勢力関係については調べさせているところですので暫しお待ちを」
「この場での実権は父上が持っている。あの男は陛下の命の重さを理解していないようだが、今はそれで助かった。中央の連中が何を考えているのかはともかく、なるべく双方から理解を得られるような妥協点を探ろう」
「了解致しました。それではレオ、あちらに……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
かくして第二の戦いが始まった。戦争の次は政争である。
私や父はもちろん、この戦争に参加した各領主たちにも会議に参加してもらい、帝国内で理解を得るための基礎を固める。
更には私たちで言う孔明のような、領主の補佐役の人間がいれば身分の貴賤関係なく意見を出して貰った。
貴族でない人間が堂々と政治に関わるなど本来あってはならない事だが、やはり実務を行う者でなければ分からない視点もあるので私の強い要望で呼び寄せた。
それと並行して歳三のような軍務担当者には生存者の捜索、及び被害の確認などを命じた。
戦いの中では正確な数値の把握は難しかったが、今になり改めて調べると、ウィリー率いる先行軍の被害は尋常ではなかった。
最初こそ圧倒的な兵数でもって近隣都市を陥落させていたが、落とした都市の防衛や治安維持に兵をどんどん残していく必要があるため総兵力は被害以上に減っていた。
加えて、ウィリーは皇帝の勅命を受けて軍を動かしているのに、軍隊の中身は皇帝や皇族の有する国有軍ではなかったのだ。
ただし近衛騎士団は皇帝個人に属する兵力であるため国軍ではなく、その分自由な活動が許されている。
つまり皇帝個人以外から軍事力の提供はなく、皇室が持つ帝国の正規軍たる主力は未だ皇都周辺に残っていることになる。
ではこの場に派遣されている兵は?その実態は、皇帝に近しい中央領主や皇都内で行った新規徴兵によって成された、新制軍とも言えるよく分からない司令系統を持つ軍組織であった。
しかもそれを国有軍のように扱い、それなりの装備を持たせているのだから余計にタチが悪い。
これではウィリーが有能だったとしても戦争は苦戦を強いられていただろう。
「……つまり、中央連中は本気で亜人・獣人諸国を併呑するつもりはなかった……?」
むしろここまで耐えていたのは、私たちが来るまでの間戦っていた地方領主らの奮闘が大きい。
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