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第二章

118話 合流

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 絶望に満ちた往路と違い、帰路は遥かに安全だった。
 いくら終戦の合図を出したからといって、満身創痍な私と歳三と父の三人でこの森を通り抜けるのは危険過ぎる。

 実際、命令を無視して私たちに攻撃を仕掛けてくる獣人もいた。
 しかしその誰もが一瞬にして竜人たちによって排除されていった。特にハオランは空中から正確無比な槍の投合技術を見せ、私たちが身構える隙もなく、寄ってきた獣人を仕留めていった。

 彼の自信に満ちた言動全てが腑に落ちた。
 あの、私の頬を掠め馬を殺した竜人がハオランであったら、死んでいたのは間違いなく私であっただろう。




「タリオ!アルガー!」

「レオ様!よくぞご無事で!」

 敵の本陣を出てすぐタリオたちに出会えた。

「随分と格好良くなったなァ?タリオ」

「本当に死なないで良かったですよ……。後少しでもレオ様の合図が遅れていたらどうなっていたことか……」

 二人ともボロボロで、タリオに至っては顔に大きな傷があり乾いた血で顔の半分が埋め尽くされていた。あれは治癒魔法を使ったとしても傷痕は残ってしまうだろう。

「また生き残ってしまったな?」

「不幸にも、ですか?」

 父とアルガーは冗談を交わし笑い合った。戦争中は上官と部下という秩序のため表情の硬いアルガーであったが、今はまた古くからの友人のような雰囲気に戻っていた。




 それからまた少し行った先で団長と出会った。

 団長は馬を失った上に足を痛めたようで、槍を杖のように突きながらやっとの思いで歩いている。さらに、後ろには負傷し動けなくなった団員を担ぐ血塗れの団員といった地獄の様相が広がっていた。
 始めは五十いた近衛騎士団は、もはや動ける人はたったの十人にも満たない。

「ヘルムート殿、なのですか……?」

「タリオ君!よく生き残れた!……皇帝の剣たる近衛騎士ともあろう我々が、なんとも情けない姿をお見せして……、面目ない」

「そんな!近衛騎士の方々が囮になってあの大量の敵を引き付けたから……」

 私たちは目的を果たし、一方で近衛騎士団には大きな被害が及んだのだ。

 タリオの言葉で、改めて私はその事実をはっきりとされられ、胸が締め付けられた。

「馬は彼らに貸してあげよう。負傷者の運搬が第一だ」

「分かりました父上。……と言ってもこれは歳三の馬だったな」

「いや、俺はまだまだ歩く元気はあるぜ。なんなら走れそうな気分だ!」

 それが『幕末之志士』の圧倒的な回復能力のおかげなのか、単なる歳三のリップサービスなのかは分からないが、本当に元気そうだった。

 とりあえず私たちは馬を降り、近衛騎士団に渡した。
 しかし徒歩では孔明らのいる帝国軍の本陣までどれだけ掛かるか分からない。せめて帝国の兵士と出会い馬が借りられればいいのだが。

「──ハオラン殿!お話したいことが!」

 何人もの竜人たちを引き連れている手前、時間を掛けすぎるのも彼らに迷惑をかけてしまうことになる。

「──敬称は不要だレオ=ウィルフリード。そなたと我のような強き者同士に面倒な礼節は必要ない。……それで、何用だ」

 ハオランは呼ぶと人化しながらもの凄い速さで降りてきた。
 地上に着地する時は完全に人間の姿であったが、竜人は人間の姿であっても相当丈夫な体を持っているようだ。

「では私も単にレオで結構です……だ。……大変厚かましいお願いなのだが、そちらで馬を持っていたらいくらかお借りできないだろうか?」

「悪いがレオよ、我々は馬を一頭も所有していない。何せ飛べるのだからな。竜より与えられたこの翼ひとつで十分なのだ」

「それもそうですか……」

「急ぐのなら乗せてやってもいいぞ」

「移動手段となる動物か何かを持っているのだろうか?」

「ああ。沢山な」

 ハオランはにっこりと笑って上を指さした。

「え?」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「ひィィィィヤァァァ!!!お、降ろしてェェェェェェ!!!!!」

「フハハハハ!まさか人間をこの翼に乗せる日が来ようとはな!」

 現状考えられるこの世界で一番早い移動手段。それは竜人に乗せて貰うことであった。

 帝国の皇都では捕まえたワイバーンを利用した竜騎士なんてものを絶賛育成中だそうだが、とてもまともな考えではないことが分かった。

 まず何より剥き出しなのがまずい。落ちる。
 今も私は振り落とされないように必死にハオランの首に抱きつき脚を背に巻き付けているが、リカードとの一騎打ちで痛めた右腕の握力は既にほとんどない。
 さらには剥き出し故に風をもろに顔面にくらい、目をまともに開けられない始末である。

「なに、高度は十分落としているさ!と言ってもエルフの森に生えている巨大樹の高さだから落ちたら死ぬがな!」

「す、スピードももっと落としてェェェェ!」

「あんまり遅いと飛べないからな!これが限界だ!」

 こうして私はハオランの背に乗せられて運ばれている。戦争中より生きた心地がしない。

 歳三は楽しそうに叫んでいた。あれは多分ジェットコースターとかが好きなタイプだ。
 だがそこらの絶叫マシンと違うのは安全装置など何ひとつとして存在しないことだ。

 大柄な上にフルプレートを装備した父は流石に竜人一人では乗せて飛ぶことができず、装備を持つ竜人と父を乗せる竜人の二人がかりで運んでいる。

 アルガーとタリオは怪我も酷く自力で捕まるのは無理そうだということで、竜人に抱き抱えられて運ばれている。
 まだあっちの方が安全そうだ。
 人間のか弱い腕でしがみつくより、竜人の力強い腕に守られている方がよっぽど安心できる。

 近衛騎士団全員を運べるだけ竜人はいたが団長は断った。「はぐれた負傷者を捜索しながら帰還する」との事だったが、断って正解だっただろう。
 乗り物ではない竜人の背は、羽ばたく度に想像の十倍は不安定で揺れる。ただでさえアルガーらより重症だというのに竜人に運ばれたら振動で死にかねない。




 とまあ文句を挙げればキリがないが、目的地にはすぐに着いた。早さだけ考えればとても助かった。
 二度と頼まないと思うが。

 私たちが着くと兵たちの中から困惑の声が漏れ、混乱のあまり武器を構える者まで現れた。
 それも当然だろう。さっきまで殺しあっていた敵が大量に本陣までやって来たのだ。きっと私もそうするし、そのように指示を出すだろう。

 だが騒ぎを聞きつけた孔明が現れ、制するとすぐに兵たちは落ち着きを取り戻した。

「──これは……、天からの使者、なのでしょうか……?」

「よしてくれ孔明……。──皆の者!私だ!レオ=ウィルフリードだ!合図は皆聞こえたと思うが、改めてここに宣言しよう!戦争は終わった!!!」

 その言葉を放った瞬間、数十万に及ぶ帝国軍兵士たちの雄叫びが大地を震わせた。
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