英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第二章

100話 誇りを持って

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「……そうだ!」

「あ?どうしたレオ」

「シズネさんだよ!──妖狐族、妖狐族は敵の中に居ましたか!?」

「いやそこまでは分からないですね……」

「……クソ」

 ウィリーから圧倒的無能上司感を感じる。悪い奴ではないと思うが、この規模の大軍の将であるのに対してあまりに器が小さすぎる。

「……横から失礼します。捕虜に尋問してはいかがでしょう」

 見かねた憲兵らしき人物がウィリーに助言を与えた。

「なに、捕虜がいんのか?それなのに敵の陣容も把握できてねェってのはどういう事だ?」

「えぇ、奴ら口が固くて……。利用価値がないと分かった以上、これから処刑するつもりです」

 ここまでウィリーが凡愚だとは思わなかった。
 彼は恐らく田舎で畑を耕している方が性に合っている。

「捕虜は捕虜交換などの取引で重要だ。それに戦後の平和交渉の時にも一枚のカードとして残せる。戦争に勝っても負けてもな」

「は、はぁ……。なにぶん、政治には疎いもので」

 私がこれだけ分かりやすく言っても理解できない。いや、理解しようとしないのか。

「ウィリー殿、ここは私に指揮権を譲ってはくれないか?」

「帝国の英雄ウルツ様なら、誰も拒否することはないでしょう!どうか我らを勝利に導いてください!」

 皇帝陛下から指揮権を賜ったとかなんとか豪語していたのに、こんな簡単にそれを渡すのは単に軍規違反なだけでなく、皇帝への忠誠心の欠如を指摘されても反論の余地がない。

「ありがとう。必ずや帝国に勝利を」

 父はウィリーの肩に手をかけそう言った。

「健闘を祈ります!」

 私たちが軍人より立場が上である貴族で良かった。自由が効くので良い。
 悪意なき無能な味方ほど怖い敵はいない。この男はまだ自分の無力を理解しているだけマシだ。バカではないのだ。

 父は指揮権を表す帝国軍章をウィリーから受け取ると孔明に目配せした。
 事実上、帝国軍二十余万の指揮権は孔明に渡ったのだ。

「悪いがこれから改めて作戦会議を行うのでこの場をお借りしたい。怪我人は一度別の場所へ移動させてくれ」

「了解です!」

「それと現状を一番把握している人間を一人ここに呼んでくれ」

 ウィリーは頷くと勢いよくテントから飛び出した。
 彼は下働きの方が似合っている。

「父上、私は捕虜と会ってきます」

「分かった。俺と孔明は最終的な作戦を立案する。アルガーは今動ける兵をまとめてくれ。夜になる前に前線の部隊も撤収させるんだ」

「撤退戦は好きではありませんが……、了解しました」

 アルガーは剣に軽く手をかけながら駆け出して行った。

「タリオ、お前もアルガーに着いて行くんだ」

「え……?」

「戦場で父の姿を見たことはなかったよな。これも貴重な経験だ。行ってこい」

「は、はい!」

 タリオは力強い目で私を見つめ、覚悟を決めるようにゆっくりと頷いた。

「無茶はするなよ」

 私の言葉に、タリオは後ろ手に手を掲げ、アルガーの後を追って出ていった。

「さて、捕虜はどこに?」

「ご案内します!」

「ああレオ、俺もついていくぜ。……汚れ仕事は任せろ」

「……基本的に拷問はなしでいくがな」

「ほんの僅かな情報で、何人もの兵士の命が助かるかもしれねェんだぜ?」

 かの大戦の命運を分けたミッドウェー海戦も、海軍の通信が筒抜けであったことが大きな敗因となった。使える情報はどんな事でも全て手に入れたい。
 が、信念なき正義はもはや悪である。

 私は歳三の言葉に沈黙で返答し、兵士に従い隣のテントへと移動した。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「り、竜人族か……。初めて見たな……」

 そこには手枷と首枷を嵌められ、鉄格子の檻に入れられた竜人の姿があった。

 鎧のように硬く、美しい鱗は所々剥がれ落ち、血が流れている。
 彼らの重たい体躯を空へと持ち上げる頑強な翼には幾つも矢が刺さっており、彼は苦痛に表情を歪めていた。

「弓兵たちが撃ち落としたんですよ。彼らは勲章ものですね!」

「──彼に手当を」

「……え?…………は?」

「彼の傷を手当してやるんだ」

 兵士は露骨に不快そうな顔をした。

「味方の負傷者がこんなにいるのに敵の治療をするんですか……?それに薬や包帯も十分な数が……」

「物資は私たちが持ってきた。治癒魔導師もそれなりに連れてきたから味方の治療は安心してくれ」

「ですが……」

「不要だ人間!我に触れるな!」

 竜人の彼は鋭い牙を剥き出しにしながら叫んだ。

「本人もそう言っている事ですし……」

「殺せ!辱めを受けるくらいなら高潔な死を我に与えよ!」

 これでは埒が明かない。

「チッ……。──誰か来てくれ!」




「はい!何かご入用でしょうか?」

 私の呼び掛けに応じたのは小柄な女性の魔導師であった。

「あぁ彼の治療を……。うん?……君、以前どこかで──」

「……以前レオ様の指揮の下お戦いしました。ウィルフリード出身のヘレネです」

「そうか、あの時の……」

 私の脳裏には二年前、私が初めて指示した作戦で傷つき血を流す彼女の姿が浮かんだ。

「今もこうして戦いに参加してくれているという事は……」

「はい。おかげさまで元気にやれています」

「うん。良かった」

 こうしてまた私(正確には父)の呼び掛けに応じてくれたことはとても喜ばしい事だ。
 私は彼女に姿に、私に対する民からの信頼であったり期待のようなものを感じた。

「それで早速だが、彼の治療を頼めるだろうか。種族が違うと難しいかもしれないが、可能なら彼がまた飛べるようにその翼は何とかお願いしたい」

「──我は何も話さないぞ!我の言葉で同族が死ぬというなら、我一人がここで死ぬ方がマシだ!」

 檻に捕らえられてもなお誇り高き彼の様子を見ると、拷問などなんの意味もないことは明らかであった。

「……分かった。確かに、君から何か情報を得られるとは思わない。ただ、一つだけ教えてくれ。……妖狐族はこの戦いに参加しているのだろうか?」

 私の言葉に、彼は一瞬の逡巡を見せた。その後、この程度の内容なら大丈夫であると自分に言い聞かせるように何か呟き、私の質問に答えた。

「いや、奴らは戦いに参加していない。そもそも奴らは戦闘向きの種族ではないのだ。……しかし、妖狐族の族長も堕ちたものよ。娘に影響されたか知らんが最後まで人間と対話することを望んでいた」

「……分かりました。ありがとうございます。──治療は大人しく受けてください。怪我が治って飛べるようになればすぐにでも貴方を解放します。……向こうへ戻った後、貴方が再び武器を取らないことを祈ります」

「う、うむ……」

 私は最後に、彼に対し精一杯の誠意と敬意でもって応えた。

「ヘレネ、頼むよ」

「は、はい!」




「レオ、本当にあれで良かったのか……?せめて殺しておけば……」

「ああ。今更一人敵が増えたところで変わらない。……それよりさっさとこのクソッタレな戦争を終わらせる」

「そうカッカするなよ……。で、どうすんだ?」

「敵の頭に直接話をつけにいく。その為に、まずは妖狐族だ」

「…………?」

「シズネさん、そして妖狐族の族長とやらに会いに行く」
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