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No matter what ⑥

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「俺のここぞっていうのはな、黒崎のことがどうしようもなく愛しくなった時だから。心込めて言いたいし。毎日言ってたら軽いだろ? 俺は重みを大事にしたいわけ。だから電話とかで言いたくない。直接、黒崎と会った時、めちゃくちゃ心込めて言うから。毎日はやめとこうぜ」

数秒間の沈黙の後、黒崎がぼそっとつぶやいた。

『愛しくなった時?』
「そう」
『心込めて?』
「うん」
『可愛く?』
「それは……わかんねぇけど」
『誘うように?』
「……何言ってんの?」
『わかった。そこまで言うんだったら、アキちゃんに会う時まで聞くの我慢する』
「なんか……余計なもん付いてないか?」
『あ、そうだ。もう少し経ったらまとまった休み取れそうだから。そしたら会いに行く』
「今、話誤魔化した感が凄かったけど……」
『え? ああ、ジュンわかった~。ごめん、アキちゃん、ジュンに呼ばれたから。じゃあ、またね~』
「ちょ、黒崎っ」

慌ただしく電話が切られた。変な尾ひれの付いた約束をさせられた気がして、晃良は携帯片手に悔しさに地団駄を踏む。

「大丈夫? 晃良くん」
「やられた……」
「また変な約束させられたの?」
「まあ……」
「晃良くん、甘いんだって。黒崎くんのあのこすい性格もうわかってんじゃん」
「そうなんだけど……」
「ま、諦めたら? 別に酷いこと要求されてるわけじゃないし」
「人ごとだと思って……」
「さ、ご飯食べよ。すき焼き始めようよ」
「肉いっぱい入れて、尚人」

黒崎の話をさっさと終えて、夕飯の支度に入る2人を見ながら思う。

お前らが言ってる黒崎へのディスり、ぜーんぶ黒崎に筒抜けだからな。

黒崎が「アキちゃんボイス」なるものをこの部屋のどこかに仕掛けていて、それでこちらの会話を把握していることが判明したのだが、晃良はなんとなく尚人と涼には言わずにいた。別に他意はない。ただ、話すのを忘れていて、今更もういっか、と思ったからだった。

さ、着替えてくるか。

晃良は肉がなくなる前にと、着替えのために急ぎ足で寝室へと向かった。
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