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Don't believe in never ⑥
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2人はそのまま山の麓に何件か立っているラブホテルの1つへと入った。適当に部屋を選んで、エレベーターで移動する。
入った部屋は、特に特徴があるわけでもない、クリーム色の壁に白と木調ベースの家具が置いてある、殺風景だが清潔感のある部屋だった。
部屋に備え付けられている食事のメニューから適当に料理を頼んだ。それから、小さめの2人がけソファに座ってのんびりと会話をした。その間、男に何度か軽くキスをされた。そうこうしている内に注文した品が届き、和やかに食事を済ませた。さて、いよいよ、という雰囲気になったところで、男にシャワーを勧める。
「俺、出かける前にシャワーしてきたから。軽く浴びるだけでいいし、先、シャワーしてきて」
「じゃあ、お先に」
男が浴室に消えていった。ソファに再び腰かけてテレビを点けた。リモコンでチャンネルを選んでいると、アダルトチャンネルに行き当たる。その途端、わざとらしい女の喘ぎ声が部屋に響いた。窮屈そうな体勢で男と交わる女の姿を見ながら思う。
晃良が男にしか興味がないことを自覚したのは随分昔のことで、小学校高学年にはもう女に興味をなくしていた。だから中学生や高校生の頃には、男とそういう関係になるのに抵抗も違和感もなかった。
晃良が初めて経験したのは、中学3年のときだった。相手は通っていた道場の若い先生で、稽古のあと晃良だけ居残りをさせられたときに、半ば強制的に関係を持たされた。思えば、あの頃から晃良は年上の男やおっさん連中からそういう目で見られていた気がする。
かちゃ、と控えめに浴室のドアが開き、バスローブを着た男が出てきたところでテレビを消した。
「俺もシャワーしてくるな」
「はい」
服を手早く脱いで、浴室に入った。熱めのシャワーを浴びながら、体の汗を落としていく。出かける前にも一応準備はしてきたが、時間が経っているので、念のためにもう一度処理をした。
うわっ、時間かけすぎたっ。
久しぶりだからと念入りに処理したせいで、思ったよりも時間が経過していた。バスタオルで素早く体を拭き、下着を履いて、その上からバスローブを着た。浴室のドアを慌ただしく開けて、謝りながら浴室を出る。
「ごめん、思ったより時間が……」
そこで言葉を失い、足を止めた。
「…………」
何が起きたのか一瞬わからなかった。事態を把握するまでに軽く1分はかかった。目を見開いたまま呆然と立ち尽くし、そのあり得ない風景を頭の中で必死に理解しようとした。
晃良の目の前でベッドに腰を下ろしていたのは、消防士の男ではなかった。
「何してんの?」
そう言い放ったのは、不機嫌な顔をしてこちらを見ている黒埼だった。
入った部屋は、特に特徴があるわけでもない、クリーム色の壁に白と木調ベースの家具が置いてある、殺風景だが清潔感のある部屋だった。
部屋に備え付けられている食事のメニューから適当に料理を頼んだ。それから、小さめの2人がけソファに座ってのんびりと会話をした。その間、男に何度か軽くキスをされた。そうこうしている内に注文した品が届き、和やかに食事を済ませた。さて、いよいよ、という雰囲気になったところで、男にシャワーを勧める。
「俺、出かける前にシャワーしてきたから。軽く浴びるだけでいいし、先、シャワーしてきて」
「じゃあ、お先に」
男が浴室に消えていった。ソファに再び腰かけてテレビを点けた。リモコンでチャンネルを選んでいると、アダルトチャンネルに行き当たる。その途端、わざとらしい女の喘ぎ声が部屋に響いた。窮屈そうな体勢で男と交わる女の姿を見ながら思う。
晃良が男にしか興味がないことを自覚したのは随分昔のことで、小学校高学年にはもう女に興味をなくしていた。だから中学生や高校生の頃には、男とそういう関係になるのに抵抗も違和感もなかった。
晃良が初めて経験したのは、中学3年のときだった。相手は通っていた道場の若い先生で、稽古のあと晃良だけ居残りをさせられたときに、半ば強制的に関係を持たされた。思えば、あの頃から晃良は年上の男やおっさん連中からそういう目で見られていた気がする。
かちゃ、と控えめに浴室のドアが開き、バスローブを着た男が出てきたところでテレビを消した。
「俺もシャワーしてくるな」
「はい」
服を手早く脱いで、浴室に入った。熱めのシャワーを浴びながら、体の汗を落としていく。出かける前にも一応準備はしてきたが、時間が経っているので、念のためにもう一度処理をした。
うわっ、時間かけすぎたっ。
久しぶりだからと念入りに処理したせいで、思ったよりも時間が経過していた。バスタオルで素早く体を拭き、下着を履いて、その上からバスローブを着た。浴室のドアを慌ただしく開けて、謝りながら浴室を出る。
「ごめん、思ったより時間が……」
そこで言葉を失い、足を止めた。
「…………」
何が起きたのか一瞬わからなかった。事態を把握するまでに軽く1分はかかった。目を見開いたまま呆然と立ち尽くし、そのあり得ない風景を頭の中で必死に理解しようとした。
晃良の目の前でベッドに腰を下ろしていたのは、消防士の男ではなかった。
「何してんの?」
そう言い放ったのは、不機嫌な顔をしてこちらを見ている黒埼だった。
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