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11.告白のお断りはキザったらしく
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告白された、と気づいたときには辺りは静まり返っていた。
こんな公然でなんのつもり? 名誉とかプライドとか、考えてないってこと?
「前の一件があるからって、絆様に告白するとか身の程知らず過ぎない? しかも一年じゃん」
「うへー、あの一年度胸あんな」
「罰ゲームでも星塚にだけは悪ふざけできねえや」
ぽつぽつとざわめきが広がっていったかと思えば、一部、というかかなり不愉快な内容も飛び交っていく。必死に眉間に寄りそうになるシワを伸ばして、ため息を嚥下する。
「……布顛くんだっけ。悪いけど——」
「はぃ! 布顛凛ですぅ! 凛って呼んでくださぁい!」
「……」
「うっわ。あの一年肝据わりすぎじゃね? よりにもよって星塚の言葉遮るとか」
「うっ、僕見てるだけでお腹痛くなってきた……」
「あー、この前星塚くんに睨まれてたもんね……」
「この教室、寒くない?」
満面の笑みで見上げてくるピンク頭に頬が引きつりそうになる。幼稚園児か、そう。オウムだとでも思おう。細く息を吐き出して、再び目を合わせた。
「布顛くん。ごめんね、俺はきみの気持ちには応えられない。紫ノ嶺聖には技術を磨くために来ているから。舞台を観てくれたって言ったよね。ありがとう、嬉しいよ」
「ぶふっ」
ぽかんと見開かれたカラメルみたいな目と、背後から聞こえてきた桎月が吹き出す音。
自分で言ったことを思い返して顔にじわじわと熱が集まってくる。待って、俺今なんて言った?
「え、えぇ~、寂しいこと言わないでくださいよぉ」
「……今は、恋愛とか考えてないから」
「どうしてもダメですかぁ?」
「悪いけど。うつつを抜かす暇があるなら別にやりたいことがあるから」
「そうですかぁ。残念……」
ピンク頭はだらりと身を縮めてうなだれる。かと思えばすぐさま背筋を伸ばして、あろうことか俺の両手を無理やり掴んできた。
「ちょっと、なに」
「絆せんぱいっ! あのね、ボク、演劇部に入ったんですぅ! フラれちゃったけどぉ、これからもよろしくしてくださぁい! それじゃあ、失礼しましたぁ!」
満面の笑みで手を振って、走り去っていく小さな背中にどっと疲れが……。
「はあ……」
眉間を揉みながらため息を吐く。席に戻ろうと振り返れば、俺を見ながらヒソヒソと「温度差」だとか「怖い」だとか、不名誉な単語が飛び交っていて気が遠のきそうになる。
今さらではあるけど。
「絆、お疲れ様。今日は災難続きだね。大丈夫?」
「大丈夫に見えるなら、そうなんじゃない?」
「うーん、結構ご機嫌斜めみたい?」
口元に手を当てて笑う桎月は非常に愉快そうに見える。なにが面白いのか知らないけど。
「にしても、さっきのは傑作だったよ。絆って案外キザなんだね? ふっ、ふ……」
「ちょっと黙ってくれる。言っておくけど、追い払うためにきみのキャラを真似して言っただけだから。きみがキザったらしいだけだから」
「えー、絆って僕のこと王子様みたいな人だって思ってたの? 照れるなあ」
「一言も言ってないんだけど。勝手にキザと王子を結びつけないでくれる」
「ふふ。あ、そうだ。あの子一年だったでしょ? 賭けは僕の勝ちでいい?」
「あんなの、無効じゃない? そもそも俺はやるなんて一言も言ってないし」
「えー、そう?」
言葉を重ねるほど満足げに笑みを溢す桎月に、訳も分からない安心感を覚えるくらい。そのくらい必要以上に周囲から干渉されることは負担だ。
どうせ負担をかけられるなら、一位でいろって圧のほうが……。
「……」
今の俺が言えたことじゃないか。
桎月に負けて、周囲からの当たりは強くなって。一位でないといけなかったのに。もし、これ以上失態を重ねることがあったら? 階段から落ちるなんて、隠し通せるようなことじゃなくて。侮られてはいけない生徒たちの前で、何か醜態を晒したら?
どうして俺は平気な顔して桎月と一緒にいられる? あれほど、桎月の顔を見るだけで気が狂いそうなほど憎んでいたはずなのに。
……桎月は、なんで完璧な星塚絆じゃない俺の傍で笑ってる?
「絆? 大丈夫? 具合悪いんだったら保健室連れて行くよ?」
「え、ああ。平気だから。少し考えごとしただけ」
「ふうん?」
首を傾げて怪訝そうな目で見てくる桎月に、居心地の悪さを覚える。俯けば黒い前髪が視界を半分塞いできた。
そういえば。桎月は俺に勝ちたいって言って、長年抱えてきたはずの俺に叶えて欲しいものにダブル主演を選んできたけど。目的はなんだったんだろう。動機は恵まれた人間への嫉妬だとか憎しみだと思うけど。
てっきり、桎月が俺を負かすって約束を果たすことがあったなら、俺に屈辱だけ味わわせて興味なんてなくすと思っていた。
「ねえ、桎月。桎月ってどうして——」
教室のタイルを視線でなぞりながら口を開けば、タイミング悪く鳴った予鈴に声は掻き消された。
「絆、何か言おうとしたよね。どうしたの?」
「……なんでもない」
「えっ、絆⁈ もう授業始まるよ?」
桎月と目を合わさないまま人がまばらになった廊下へ出る。一組が端の教室で良かった。曲がり角へ身を隠して、一息ついた。
「あぁ? 星塚てめぇ何やってんだ。ついに堂々とサボるようになったのか?」
「……鏡先生」
最近は本当についてない。深呼吸しようと吸った息を間違ってもため息だと難癖つけられないよう静かに吐き出す。意地悪げに笑う紺色の髪をした数学教師を僅かに見上げた。
○
こんな公然でなんのつもり? 名誉とかプライドとか、考えてないってこと?
「前の一件があるからって、絆様に告白するとか身の程知らず過ぎない? しかも一年じゃん」
「うへー、あの一年度胸あんな」
「罰ゲームでも星塚にだけは悪ふざけできねえや」
ぽつぽつとざわめきが広がっていったかと思えば、一部、というかかなり不愉快な内容も飛び交っていく。必死に眉間に寄りそうになるシワを伸ばして、ため息を嚥下する。
「……布顛くんだっけ。悪いけど——」
「はぃ! 布顛凛ですぅ! 凛って呼んでくださぁい!」
「……」
「うっわ。あの一年肝据わりすぎじゃね? よりにもよって星塚の言葉遮るとか」
「うっ、僕見てるだけでお腹痛くなってきた……」
「あー、この前星塚くんに睨まれてたもんね……」
「この教室、寒くない?」
満面の笑みで見上げてくるピンク頭に頬が引きつりそうになる。幼稚園児か、そう。オウムだとでも思おう。細く息を吐き出して、再び目を合わせた。
「布顛くん。ごめんね、俺はきみの気持ちには応えられない。紫ノ嶺聖には技術を磨くために来ているから。舞台を観てくれたって言ったよね。ありがとう、嬉しいよ」
「ぶふっ」
ぽかんと見開かれたカラメルみたいな目と、背後から聞こえてきた桎月が吹き出す音。
自分で言ったことを思い返して顔にじわじわと熱が集まってくる。待って、俺今なんて言った?
「え、えぇ~、寂しいこと言わないでくださいよぉ」
「……今は、恋愛とか考えてないから」
「どうしてもダメですかぁ?」
「悪いけど。うつつを抜かす暇があるなら別にやりたいことがあるから」
「そうですかぁ。残念……」
ピンク頭はだらりと身を縮めてうなだれる。かと思えばすぐさま背筋を伸ばして、あろうことか俺の両手を無理やり掴んできた。
「ちょっと、なに」
「絆せんぱいっ! あのね、ボク、演劇部に入ったんですぅ! フラれちゃったけどぉ、これからもよろしくしてくださぁい! それじゃあ、失礼しましたぁ!」
満面の笑みで手を振って、走り去っていく小さな背中にどっと疲れが……。
「はあ……」
眉間を揉みながらため息を吐く。席に戻ろうと振り返れば、俺を見ながらヒソヒソと「温度差」だとか「怖い」だとか、不名誉な単語が飛び交っていて気が遠のきそうになる。
今さらではあるけど。
「絆、お疲れ様。今日は災難続きだね。大丈夫?」
「大丈夫に見えるなら、そうなんじゃない?」
「うーん、結構ご機嫌斜めみたい?」
口元に手を当てて笑う桎月は非常に愉快そうに見える。なにが面白いのか知らないけど。
「にしても、さっきのは傑作だったよ。絆って案外キザなんだね? ふっ、ふ……」
「ちょっと黙ってくれる。言っておくけど、追い払うためにきみのキャラを真似して言っただけだから。きみがキザったらしいだけだから」
「えー、絆って僕のこと王子様みたいな人だって思ってたの? 照れるなあ」
「一言も言ってないんだけど。勝手にキザと王子を結びつけないでくれる」
「ふふ。あ、そうだ。あの子一年だったでしょ? 賭けは僕の勝ちでいい?」
「あんなの、無効じゃない? そもそも俺はやるなんて一言も言ってないし」
「えー、そう?」
言葉を重ねるほど満足げに笑みを溢す桎月に、訳も分からない安心感を覚えるくらい。そのくらい必要以上に周囲から干渉されることは負担だ。
どうせ負担をかけられるなら、一位でいろって圧のほうが……。
「……」
今の俺が言えたことじゃないか。
桎月に負けて、周囲からの当たりは強くなって。一位でないといけなかったのに。もし、これ以上失態を重ねることがあったら? 階段から落ちるなんて、隠し通せるようなことじゃなくて。侮られてはいけない生徒たちの前で、何か醜態を晒したら?
どうして俺は平気な顔して桎月と一緒にいられる? あれほど、桎月の顔を見るだけで気が狂いそうなほど憎んでいたはずなのに。
……桎月は、なんで完璧な星塚絆じゃない俺の傍で笑ってる?
「絆? 大丈夫? 具合悪いんだったら保健室連れて行くよ?」
「え、ああ。平気だから。少し考えごとしただけ」
「ふうん?」
首を傾げて怪訝そうな目で見てくる桎月に、居心地の悪さを覚える。俯けば黒い前髪が視界を半分塞いできた。
そういえば。桎月は俺に勝ちたいって言って、長年抱えてきたはずの俺に叶えて欲しいものにダブル主演を選んできたけど。目的はなんだったんだろう。動機は恵まれた人間への嫉妬だとか憎しみだと思うけど。
てっきり、桎月が俺を負かすって約束を果たすことがあったなら、俺に屈辱だけ味わわせて興味なんてなくすと思っていた。
「ねえ、桎月。桎月ってどうして——」
教室のタイルを視線でなぞりながら口を開けば、タイミング悪く鳴った予鈴に声は掻き消された。
「絆、何か言おうとしたよね。どうしたの?」
「……なんでもない」
「えっ、絆⁈ もう授業始まるよ?」
桎月と目を合わさないまま人がまばらになった廊下へ出る。一組が端の教室で良かった。曲がり角へ身を隠して、一息ついた。
「あぁ? 星塚てめぇ何やってんだ。ついに堂々とサボるようになったのか?」
「……鏡先生」
最近は本当についてない。深呼吸しようと吸った息を間違ってもため息だと難癖つけられないよう静かに吐き出す。意地悪げに笑う紺色の髪をした数学教師を僅かに見上げた。
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