14 / 42
12「友樹くん」
しおりを挟む
💭 🔁 ❤×?152
――友樹くんだ。
左目を閉じた友樹くんが、僕の背後に立っていたんだ。
友樹くんは、僕に手招きをした。僕は友樹君に招かれるがまま、付いて行った。不思議と怖くは無かった。
案内されたのは、僕と友樹くんが轢き逃げされた交差点。友樹くんはそこからさらに、ずんずんと歩き出した。
僕は、たまたま財布を持っていた偶然に感謝する事となった。何しろ丸一日歩かされたからだ。コンビニに寄っている間こそ待ってはくれるが、友樹くんは僕を休ませてはくれなかった。
そうして夜通し歩き続けて、太陽が昇り、傾きかけた頃にようやく、彼は立ち止った。
とある寂れた一軒家。
1階のガレージに泊っている乗用車に、妙な既視感があった。友樹くんは家の柵をすり抜けてガレージに入っていき、乗用車のバンパーを撫でた。
そこには、散々に凹んで血塗れになったバンパーがあった。
――ように見えたのは一瞬の事で、すぐに、普通のバンパーに戻った。けれどよく見てみると、遠目ながらにも表面がざらざらしているのが分かった。
後で聞いたところでは、轢き逃げ犯は事故の発覚を恐れて、自分でバンパーを修理したのだそうだ。
気が付くと、友樹くんの姿は無くなっていた。
僕はすぐに、警察に通報した。
僕の荒唐無稽な話は、僕が事故の被害者だという事もあって一応は聞いてもらえた。けれど、僕が『この車が犯人の物だ』と断ずるその根拠の話になると、誰もが首を傾げるか、憐れむような目で僕を見た。
僕は徹底抗戦した。何人もの大人たちが事情聴取に現れ、そうして――――……最後に現れたのが、頼々子さんだった。
『警視庁刑事部捜査第4課』を名乗るその若いお姉さんは、僕の言葉を信じてくれた。
度重なる任意事情聴取の結果、犯人は自白した。
――と、ここまでは良かった。
僕は頼々子さんから警視庁お墨付きの除霊グッズを支給してもらえるようになり、僕は僕の担当となった頼々子さんに見守られながら、時には捜査を手伝ったりした。何度か表彰された事もある。
けれど、そうやって派手に動き過ぎたのが拙かったんだろう……母が、『視える』という僕に対して怯えるようになった。
元々ノイローゼ気味だった母は妖しい新興宗教にハマるようになり、僕が『視える』のは悪霊に憑りつかれているからだとか言って、僕を滝で打たせたり、棒で叩いたりするようになった。
父は不在がちになり、知らないうちに海外に単身赴任してしまった。
綻びが生まれたら、後は一瞬だった。家庭はあっと言う間に空中分解した。
一人っ子だったのは幸いだった。もし僕に兄弟が居たとしたら、絶対に恨まれていただろうから。
母には育児能力は無いとされた。父は、僕を気味悪がって引き取るのを拒否し、僕もまた、海外に行くのが嫌だった。
そうして僕は、親戚の家に預けられるようになった。
それから6年、僕は漂流するように生きている。
辛いばかりの人生の中で、頼子さんだけが頼りになる存在だった。
――友樹くんだ。
左目を閉じた友樹くんが、僕の背後に立っていたんだ。
友樹くんは、僕に手招きをした。僕は友樹君に招かれるがまま、付いて行った。不思議と怖くは無かった。
案内されたのは、僕と友樹くんが轢き逃げされた交差点。友樹くんはそこからさらに、ずんずんと歩き出した。
僕は、たまたま財布を持っていた偶然に感謝する事となった。何しろ丸一日歩かされたからだ。コンビニに寄っている間こそ待ってはくれるが、友樹くんは僕を休ませてはくれなかった。
そうして夜通し歩き続けて、太陽が昇り、傾きかけた頃にようやく、彼は立ち止った。
とある寂れた一軒家。
1階のガレージに泊っている乗用車に、妙な既視感があった。友樹くんは家の柵をすり抜けてガレージに入っていき、乗用車のバンパーを撫でた。
そこには、散々に凹んで血塗れになったバンパーがあった。
――ように見えたのは一瞬の事で、すぐに、普通のバンパーに戻った。けれどよく見てみると、遠目ながらにも表面がざらざらしているのが分かった。
後で聞いたところでは、轢き逃げ犯は事故の発覚を恐れて、自分でバンパーを修理したのだそうだ。
気が付くと、友樹くんの姿は無くなっていた。
僕はすぐに、警察に通報した。
僕の荒唐無稽な話は、僕が事故の被害者だという事もあって一応は聞いてもらえた。けれど、僕が『この車が犯人の物だ』と断ずるその根拠の話になると、誰もが首を傾げるか、憐れむような目で僕を見た。
僕は徹底抗戦した。何人もの大人たちが事情聴取に現れ、そうして――――……最後に現れたのが、頼々子さんだった。
『警視庁刑事部捜査第4課』を名乗るその若いお姉さんは、僕の言葉を信じてくれた。
度重なる任意事情聴取の結果、犯人は自白した。
――と、ここまでは良かった。
僕は頼々子さんから警視庁お墨付きの除霊グッズを支給してもらえるようになり、僕は僕の担当となった頼々子さんに見守られながら、時には捜査を手伝ったりした。何度か表彰された事もある。
けれど、そうやって派手に動き過ぎたのが拙かったんだろう……母が、『視える』という僕に対して怯えるようになった。
元々ノイローゼ気味だった母は妖しい新興宗教にハマるようになり、僕が『視える』のは悪霊に憑りつかれているからだとか言って、僕を滝で打たせたり、棒で叩いたりするようになった。
父は不在がちになり、知らないうちに海外に単身赴任してしまった。
綻びが生まれたら、後は一瞬だった。家庭はあっと言う間に空中分解した。
一人っ子だったのは幸いだった。もし僕に兄弟が居たとしたら、絶対に恨まれていただろうから。
母には育児能力は無いとされた。父は、僕を気味悪がって引き取るのを拒否し、僕もまた、海外に行くのが嫌だった。
そうして僕は、親戚の家に預けられるようになった。
それから6年、僕は漂流するように生きている。
辛いばかりの人生の中で、頼子さんだけが頼りになる存在だった。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どっぺるげんがあぁ ―彼女がくれた、もうひとりの自分とその狂気―
陵月夜白(りょうづきやしろ)
ホラー
――僕の顔をした“それ”が、夜の向こうで笑っていた。
ある夏、ひとつの違和感が、静かに心を蝕みはじめる。
クラスメイトの声が少しだけくぐもって聞こえる日。
親しいはずの人が、まるで“他人”のように感じられる瞬間。
そして――自分自身に、背中から見つめられている感覚。
それは始まりだった。
「白鷺ユリ」という少女の影が、じわじわと現実を侵していく。
美しく微笑みながら、彼女はこの世界に“もう一人”を増やしていく。
名前も、顔も、記憶すらもそっくりに模した、“自分ではない自分”たちを。
誰が本物なのか。
誰を信じればいいのか。
そもそも、自分は「本当に自分」なのか。
静かに、確実に、世界はすり替えられていく。
狂気は理性をひそやかに侵食し、友情すらも偽物の笑顔に溶かされていく。
そして最後に残るのは、灰と、火薬のにおいと、断ち切られた存在のかけら。
これは、
愛と恐怖と、もうひとりの“私”が交差する、
終わらない悪夢のような、ひと夏の記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる