(いいね🧡 + リツイート🔁)× 1分しか生きられない呪い

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家

文字の大きさ
上 下
13 / 42

11「頼々子さん」

しおりを挟む
   💭   🔁   ❤×?143



 よりよりさんにメールを送った。
 LI○Eの方が早く気付いてもらえるんじゃないかって? 昔、頼々子さんにLI○E聞いたら、『あんな物騒な物を刑事が使うわけないでしょ』って怒られた事がある。

 メールには起こった事を時系列に書き連ねた。左目で視た物も余さず。
 ……けど、僕と星狩さんが2年4組を『呪い』に『登録』したという事実だけは、書けなかった。頼々子さんに責められるのが怖かったし、星狩さんに、僕がチクったみたいに思われるのも怖かった。
 2年4組に、僕の味方は星狩さんしかいない。その彼女から嫌われてしまったら、僕は学校で生きていける気がしない。

 PCを立ち上げ、小説を書きながら待つ。
 スマホでの執筆も慣れたものだけど、やっぱりメンブレインキーボードこそ至高。ブラインドタッチはタイピングゲーで鍛えた。
 いくらタイピングが早くても、間断なく執筆し続けるのは不可能だ。登場する幽霊のディテールを考えているうちに、手が止まってしまった。

 今回のお話は、主人公がバスに乗ったら、乗客の幽霊と遭遇して――という物。
 バスに乗った主人公が、気味の悪い乗客を見掛ける。
 次々と降りていく乗客。終点で降りる予定の自分と、その客だけが車内に残っている。
 終点に着いて、主人公は逃げるようにバスから降りる。
 後ろから例の客も降りてくるのかな。気味悪いからさっさと行こう――などと考えていると、その客を降ろすことなく、バスは行ってしまった。
 え? どういう事? さっきの客、降りないまま行っちゃったけど、まさか――

 と、振り向いたところで目の前に例の客が居た。

『ぎゃぁあああ!』なんて主人公の悲鳴を入れるほど野暮な事はしない。
 まぁ、ホラーに良くある典型的な『信頼出来ない語り手』のお話。主人公が無自覚に霊視をしていて、幽霊を生きている人間だと誤認するってわけだね。
 この手のお話では、どれだけ上手に主人公イコール読者を騙せるかが肝になる。だから、『質感』ある幽霊さんをしっかり書き込まなきゃならない。

 その『質感』をどう出そうか決めあぐねているうちに、手癖で『カクヨム』の『読者からの反応』欄を開いてしまう。
 過去にもらった感想を1つずつ大切に読み返しながら、順に下へスクロールしていくと、感想が9月の物から8月の物に変わる。
 すると突然、とある読み専の人の名で、感想欄が埋め尽くされた。

 スターハンターさん。

 半年前くらいに僕の事を見つけてくれて、以来僕の作品を全て読んでくれ、いいねと感想をくれていた、言わば僕のファンの方だ。
 性別も年齢も分からない。でも僕にとっては、創作活動の命綱ってくらいに大事な人だった。
 たった1人でも、毎回読んでくれて、感想をくれる人が居るっていうのは、本当に心の支えになる。
 けれど……この人とは、

 ……気が付くと、30分ほど経過していた。
 メールの受信ボックスには、

「頼々子さん!」

 頼々子さんからの返信が届いていた。メールの内容は、

『委細了解』
『至急、専門家を召集の上、向かいたい』
『しかしながら、現在担当中の案件の引継ぎ及び専門家の招集に1週間ほど掛かる』
『そちらでも引き続き情報収集に努めて欲しい』

 という物。
 事務的で淡々とした内容ながら、とてつもない頼もしさを感じる。

 1週間後、というと2年生は修学旅行で神戸に居るはずだ。
 もっとも、これだけの異常事態の只中で、学校が修学旅行を決行するとも思えないけれど。
 そして、今後も毎日1分ずつ減っていくとしたら、52分につき1いいねが必要になっている事だろう。

『警視庁刑事部捜査第4課』――通称『死課』所属の警部、頼朝よりとも頼子よりこさん。
 公には存在しない事になっている『死課』は、事件を専門に扱う部署だ。
 頼々子さん自身には霊感は無いのだけれど、彼女から支給してもらえる塩やお札の威力はよくよく知っている。
 霊感があって、なおかつ除霊能力を持つ『専門家』というのは全国に一定数いるそうなんだけど、彼ら彼女らはいつも忙しい。だから事前調査役として、僕のような『視る事しか出来ない』人員も、重宝されるというわけ。

 頼々子さんは本庁から長い間、神戸に派遣されていて、僕は彼女と神戸で出会った。
 あれはまだ、僕が小学6年生だった頃の事。

 ――僕は、轢き逃げに遭った。

 当時『親友』と呼び合っていた友だち――立見たつみ友樹ともきくんも一緒だった。
 僕は全身打撲と複数個所の複雑骨折、そして左目の失明だけで済んだけど、友樹くんの方は即死だった。
 友樹くんのご両親は、我が子の死を悲しみながらも、友樹くんの角膜を僕に移植する事に同意してくれた。

 現場が閑散とした住宅街であり、日が落ちた後の事故だった為か、轢き逃げ犯はなかなか見つからなかった。

 視力が戻ってしばらくすると、僕は左目の視界に黒いもやのようなモノが見える事に気付いた。
 医者からは、飛蚊症だろうと言われた。事実、事故の時に硝子体が圧迫されたのが原因で、僕の左目には多少なり鬱陶しい飛蚊症がある。
 けれど飛蚊症と言うのは眼球内の歪みを映し出すものだから、視線を動かせば一緒に付いてくる。
 でも、その『靄』は違った。靄は部屋の隅や物陰に潜んでいて、僕が眼球を動かしても移動しないんだ。

 僕が強弁すると母は半狂乱になり、医者からは脳ドックと児童精神科の受診を勧められた。
 つまり、事故の影響で脳が物理的におかしくなっているか、はたまたトラウマが原因で精神的におかしくなっている、と診断されたというわけだ。

 だけど『ソレ』は、間違い無く、居た。

 次第に、靄は人の姿を取るようになった。薄々勘付きながらも、僕は『ソレ』らの分析に努めた。
 ソレらは明るい場所よりも暗い場所を好んだ。
 ソレらは日中よりも夕方以降を好んだ。
 ソレらは特に、病院と墓地を好んだ――。

 そうして、すべてを自覚した時、僕は、僕の背後に潜む人影の存在に、気付いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜

野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。 内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】

その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。 幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話…… 日常に潜む、胸をざわめかせる怪異── 作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。

処理中です...