8 / 36
8.今だけは、今だけは。
しおりを挟む
「あの、この間のことなんですけど……」
思い切って聞いてみた瞬間。
ーヴゥー、ヴゥー、ヴゥー……
私の携帯のバイブ音が響きわたった。
「おい?携帯鳴ってるけどいいのか?」
リーダーの声すらも、この決まりきった無常な音の前では私の心に響かない。
一言断ってから恐る恐る携帯をポケットから取り出した。
『みーーーちゃったぁみーーちゃった。
まっすぐ奈実のお家に帰らないとダメじゃないか。
ちなみにその男は誰だい?のこのこ男の家に上がる何て、奈実はフシダラだねぇ…。
それとももしかして、彼氏なんか作ろうとしちゃってんのかなぁ??
奈実はもう、そんなにキタナイのに………』
震える手から携帯がずり落ちる。
胃から何かが逆流してきて吐きそうだった。
また、また。アイツは私の家を突き止めたのか。
リーダーに今言った以外、他の誰にも言ってないのに。
しかも何故、今、このタイミングで。
…どうしよう、また引越したりしなきゃいけないだろうか。
いやでも、今回の引越しでだいぶんお金を使ってしまった。
いったい、どこまで追いかけてくるんだ。
指先から全身へと震えが広がっていき、思わず床に座り込んでしまう。
「……おい、安田?お前、大丈夫か?」
リーダーが少し心配そうに私の顔を覗き込む。
ーそうだった。私はキタナイんだった。ー
脳裏にさっきのメールの文章が蘇った。
万が一、この人と通じ合えたとしても、私は……
そう思った瞬間、私の目から雫が一筋流れ落ちた。
「…おい、待て、…やすだっ、お願いだから…泣くなっ」
瞬時に歪められた彼の顔も、すぐにぼやけて見えなくなる。
あぁ、だったな。この人は、涙が苦手な人だった。
でも、涙が好きな人より、きっとずっといいね。
そして、あの時と同じように、彼は再び私の涙を舐めた。
今度は初めから恐怖心なんてなかった。
私の頰を這う、この少しあたたかく湿った舌が心地よい。
彼の乱れた熱っぽい息が、いとも簡単に私も骨の髄まで届いた。
…今だけは、今だけは。
自分の汚れなんて全て忘れちゃって、この心地良さに酔いしれたい。
先程の苦しさが解け出し、体中がまるで素敵な夢を見ているかのように喜んでいる。
ーあぁ、私は。
人を好きになれたのか。
先程とは裏腹に、私の中はあたたかい気持ちでいっぱいだった。
思い切って聞いてみた瞬間。
ーヴゥー、ヴゥー、ヴゥー……
私の携帯のバイブ音が響きわたった。
「おい?携帯鳴ってるけどいいのか?」
リーダーの声すらも、この決まりきった無常な音の前では私の心に響かない。
一言断ってから恐る恐る携帯をポケットから取り出した。
『みーーーちゃったぁみーーちゃった。
まっすぐ奈実のお家に帰らないとダメじゃないか。
ちなみにその男は誰だい?のこのこ男の家に上がる何て、奈実はフシダラだねぇ…。
それとももしかして、彼氏なんか作ろうとしちゃってんのかなぁ??
奈実はもう、そんなにキタナイのに………』
震える手から携帯がずり落ちる。
胃から何かが逆流してきて吐きそうだった。
また、また。アイツは私の家を突き止めたのか。
リーダーに今言った以外、他の誰にも言ってないのに。
しかも何故、今、このタイミングで。
…どうしよう、また引越したりしなきゃいけないだろうか。
いやでも、今回の引越しでだいぶんお金を使ってしまった。
いったい、どこまで追いかけてくるんだ。
指先から全身へと震えが広がっていき、思わず床に座り込んでしまう。
「……おい、安田?お前、大丈夫か?」
リーダーが少し心配そうに私の顔を覗き込む。
ーそうだった。私はキタナイんだった。ー
脳裏にさっきのメールの文章が蘇った。
万が一、この人と通じ合えたとしても、私は……
そう思った瞬間、私の目から雫が一筋流れ落ちた。
「…おい、待て、…やすだっ、お願いだから…泣くなっ」
瞬時に歪められた彼の顔も、すぐにぼやけて見えなくなる。
あぁ、だったな。この人は、涙が苦手な人だった。
でも、涙が好きな人より、きっとずっといいね。
そして、あの時と同じように、彼は再び私の涙を舐めた。
今度は初めから恐怖心なんてなかった。
私の頰を這う、この少しあたたかく湿った舌が心地よい。
彼の乱れた熱っぽい息が、いとも簡単に私も骨の髄まで届いた。
…今だけは、今だけは。
自分の汚れなんて全て忘れちゃって、この心地良さに酔いしれたい。
先程の苦しさが解け出し、体中がまるで素敵な夢を見ているかのように喜んでいる。
ーあぁ、私は。
人を好きになれたのか。
先程とは裏腹に、私の中はあたたかい気持ちでいっぱいだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
42
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる