君のナミダに渇くカラダ

あーむす。

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8.今だけは、今だけは。

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「あの、この間のことなんですけど……」

思い切って聞いてみた瞬間。

ーヴゥー、ヴゥー、ヴゥー……

私の携帯のバイブ音が響きわたった。

「おい?携帯鳴ってるけどいいのか?」

リーダーの声すらも、この決まりきった無常な音の前では私の心に響かない。

一言断ってから恐る恐る携帯をポケットから取り出した。

『みーーーちゃったぁみーーちゃった。
まっすぐ奈実のお家に帰らないとダメじゃないか。
ちなみにその男は誰だい?のこのこ男の家に上がる何て、奈実はフシダラだねぇ…。
それとももしかして、彼氏なんか作ろうとしちゃってんのかなぁ??
奈実はもう、そんなにキタナイのに………』

震える手から携帯がずり落ちる。
胃から何かが逆流してきて吐きそうだった。

また、また。アイツは私の家を突き止めたのか。

リーダーに今言った以外、他の誰にも言ってないのに。

しかも何故、今、このタイミングで。

…どうしよう、また引越したりしなきゃいけないだろうか。
いやでも、今回の引越しでだいぶんお金を使ってしまった。

いったい、どこまで追いかけてくるんだ。

指先から全身へと震えが広がっていき、思わず床に座り込んでしまう。

「……おい、安田?お前、大丈夫か?」

リーダーが少し心配そうに私の顔を覗き込む。

ーそうだった。私はキタナイんだった。ー

脳裏にさっきのメールの文章が蘇った。

万が一、この人と通じ合えたとしても、私は……

そう思った瞬間、私の目から雫が一筋流れ落ちた。

「…おい、待て、…やすだっ、お願いだから…泣くなっ」

瞬時に歪められた彼の顔も、すぐにぼやけて見えなくなる。



あぁ、だったな。この人は、涙が苦手な人だった。

でも、涙が好きな人より、きっとずっといいね。



そして、あの時と同じように、彼は再び私の涙を舐めた。

今度は初めから恐怖心なんてなかった。

私の頰を這う、この少しあたたかく湿った舌が心地よい。

彼の乱れた熱っぽい息が、いとも簡単に私も骨の髄まで届いた。


…今だけは、今だけは。

自分の汚れなんて全て忘れちゃって、この心地良さに酔いしれたい。

先程の苦しさが解け出し、体中がまるで素敵な夢を見ているかのように喜んでいる。


ーあぁ、私は。

人を好きになれたのか。

先程とは裏腹に、私の中はあたたかい気持ちでいっぱいだった。
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