獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

遠慮がない

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 「最近楽しそうね」

 朝、リリが朝食を食べながらニコニコと嬉しそうに言いました。

 「うん。ジョナサン達が全力で遊んでくれるからな」

 くるみパンをマクリと大口で咀嚼した三巳がニンマリ笑顔を深め、尻尾をブンブカ振って返します。

 「あらあら三巳様、お口にパンくず付いてますよ」
 「うにゅ?ありがとうなんだよ」

 欲張って頬張り過ぎて口の端に付いたカケラを、ハンナがハンカチでササっと拭き取ります。
 三巳は自分が前世から変わらず大人な自分と思っているので、チョッピし照れてほっぺを赤くします。
 誰も三巳の遊びにドン引きません。三巳の全力を知る者はロダしかいないからです。そしてロダはそれを苦にも思いません。
 結果三巳の全力遊びを微笑ましく想像した面々が温かい目で優しく見ます。

 「いやいやいや。待てや」

 いえ、一人ドン引いた人がいました。
 何故か最近ご飯を一緒するようになったオーウェンギルド長です。
 仕事が忙しいので滅多に一緒しませんが、この日は通りすがりにロダに誘われ同席しています。

 「獣神の全力って最悪な災厄じゃねぇか」
 「親父ギャグ?」
 「違うっ。獣神の小娘は一度己の存在がどんだけ規格外か知れ」
 「にゅうう?三巳はちょっと人より丈夫で魔法が得意なだけなんだよ?」
 「おぅ。獣神の、ちょっと俺とちょっとの割合について綿密に話し合おうか」
 「うーにゅ。何だかオーウェンギルド長のお顔が怖いからご遠慮するんだよ」
 「テメェこの獣神小娘」

 あくまでものほほんと事の重大さに気付いていない三巳に、オーウェンギルド長のコメカミがピクピク血管が見えてきます。

 「まあまあ。三巳の全力って言ってもただの遊びなら大丈夫だよ。
 僕達山の民は子供の頃から三巳と遊んでも平気なんだから」

 そこへロダがクスクス笑いながら三巳の味方に入ります。

 「そうね、私も一緒に遊んだけど普通だったわ」

 更にはリリまで三巳の弁護に入り、オーウェンギルド長は化け物を見る目で二人を睥睨しました。

 「三巳様はきっと無意識に遊びの力加減をなさっているのでしょう」

 そしてハンナが推測を立てて一同は「成る程~」と納得しました。
 それでも納得しないのはオーウェンギルド長だけです。

 「お前達はあの遊びを見てないから言えるんだ……」

 そうです。仕事柄危ない人と認定したら放っておけない立場です。
 オーウェンギルド長は、三巳とジョナサン元武装した人達の監視をしていました。だからこそ三巳の手加減無しの全力遊びを具に見てしまっていたのです。

 「うにゅ?」

 勿論見られていたのは気付いていましたが、本人の意思としてはいつも通り遊んだだけの三巳は全く理解していません。
 実は知らず知らずの内に感覚で其々に分け隔て、手加減して遊ばなきゃいけない相手。手加減無しで遊んで良い相手。全力で遊んで良い相手を選んでいる事に、おそらくこれからも気付かない事でしょう。
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