獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

診療所にて〜謎の少女①〜

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 一度目を覚ました少女が、もう一度目を覚ましたのは、外が暗くなってからでした。

 「起きたか。水は飲むか?」

 少女の横に頭を沈めてだらしない顔で寝ていた三巳でしたが、少女の起きそうな気配を察知して少女が起きるよりも早く起きていました。
 事前のだらしない顔はどこにもありません。横にちょんと跳ねている寝癖以外は。

 (?初めて見る顔だけれど、新しく雇われた人かしら。
 その割には言葉遣いが丁寧ではないけれど)

 目を覚まして直ぐの少女は、まだ寝ぼけているようです。
 顔だけ三巳に向けて、思考します。

 「!?」

 体を起こそうとした少女でしたが、体中を激痛が走った為、顔を顰めて固まってしまいました。

 (体中が痛い!?それに肌が引き攣る……)

 そこまで考えて、思い出したようです。
 少女はこれまでの出来事を思い出して、悲痛に歪んだ顔をしました。
 泣いてしまうかと思われましたが、体内の水分が足りてない為か、泣きませんでした。

 「体は未だ回復してない。無理に動かそうとするな。
 先ずは栄養蓄える事に専念しなきゃな」

 三巳は湯呑みに薬湯の白湯を用意します。
 そして少女の上体を障らない様に優しく起こして、三巳のふわふわ尻尾で支えてあげました。
 それはもう極上のふわもこです。疲労困憊仕切っている少女には魅惑の心地良さです。
 つい、一瞬だけ夢の中へ旅立ちそうになってしまいました。

 (何なのかしら、この気持ち良さは。飼い犬のネルビーの毛並みより全然気持ちが良いわ)

 どうやら少女は犬を飼っている、若くは様です。
 現状それを知る人は本人以外にいませんが。
 三巳も心を読もうと思えば読めますが、よっぽどの事がない限り読まないので知りません。

 「飲めるなら飲め。
 ロキ医師特製の薬湯茶だ」

 少女はこれまで受けて来た仕打ちを思い出し、身を震わせて警戒します。
 これに困ってしまった三巳は、眉も耳も尻尾も垂れ下がります。
 それを見てしまうと罪悪感が半端ないです。

 「昼に飲んだのと同じだ。体に良い」

 きゅーんと鳴きそうな雰囲気で言われましたが、少女は一度起きた事を覚えていませんでした。首を傾げて記憶を呼び起こそうとします。
 朦朧としていた時の事なので思い出せませんでした。

 (人では無いし、獣人族……にしては耳と尻尾だけだし。ハーフかしら)

 少女はもっと良く調べようと、感知の為の魔力を練上げようとしました。
 しかしそれは上手く行かず、体内で魔力が変にグルグル回る様に安定しません。
 其れは宛らジェットコースターに弱い人が乗ってしまった後の其れに近い感覚です。
 案の定、少女は気持ち悪くなりグッタリしてしまいました。

 「まだ本調子じゃないんだ。魔法使うなら治ってからにしておけ」

 三巳は一応これでも神様なので、少女が感知魔法を使用しようとした事は正確に感じ取りました。
 けれど其れに不快感を持つ三巳ではありませんので純粋に心配だけしています。
 そして「我こそは神なり」などと偉ぶる感性は持ち合わせが無いので、また聞かれてもいないので態々教える必要も感じていません。

 「三巳は三巳だ。この山にずっと住んでる」

 でも自己紹介は基本です。其処はちゃんと名乗りました。
 少女はグッタリしながらも逡巡しましたが、名を名乗った事で起こる過去実際に起こった不利益を考え躊躇しています。
 しかし手当をされて名乗られてもいるのに、名乗らないのは流石に失礼だし略称ならと覚悟を決めました。

 「……りけふっこふっ!」

 名乗れませんでした。

 そもそも喉も痛めているのです。その状態で声を出そうとして咽せてしまいました。
 慌てて三巳は手に持ったままだった湯呑みを口につけてあげます。
 今度こそ少女は迷わず口に含みました。
 思考する余裕が無かっただけですが。

 「ゆっくり飲んだ方が良いぞ」

 動けない少女の代わりに、三巳が少しづつ薬湯を飲ませてあげます。
 少女にとって其れは久し振りに口にするまともな飲み物でした。
 まだ幼い少女に合わせた薬湯は、少し甘味があり、後から苦味を感じる物でしたが、スッと爽やかな喉通りが苦痛を感じさせない物です。
 少女は無我夢中で飲みます。
 三巳が少しづつしか飲ませてくれないのがもどかしいですが、一気に飲める状態では無いので素直に少しづつ飲みます。

 (五臓六腑に染み渡るってこういう事なのね)

 結局一杯半も飲み切って一息ついた少女なのでした。
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