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本編
診療所にて〜謎の少女②〜
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「(ありがとう)」
薬湯を飲み、一息ついて落ち着いた少女は改めてお礼を言います。
喋れないので口パクですが。
「落ち着いた様だな。良かった。
名前は喉が治ったら教えてくれるか?」
三巳は安堵して少女の頭を優しく撫でました。
少女は一瞬ビクッとしましたが、優しく撫でられて安心します。
三巳の問いにコクリと首を縦に振って応えました。
それに満足した三巳は、ニカリと可愛い犬歯を覗かせて笑います。
少女を支えている尻尾を優しく退かして、もう一度少女を横に寝かせてあげる三巳は、湯呑みと薬湯を入れている急須を持って立ち上がりました。
「君が目覚めた事ロキ医師に伝えてくるな。
薬湯ももう少し作って貰うよ」
(犬歯、可愛いな)
少女は三巳の犬歯に釘付けになりながら、コクリと頷きました。
そして部屋から出て行く三巳の後ろ姿を見て、今度は尻尾に釘付けになりました。
(尻尾もふもふ。大きい。グルーミングしたいな。
……ネルビー、ちゃんと逃げたかな。生きてると良いな。せめてあの子だけでも生きていて欲しい)
少女は三巳と飼い犬を重ねて、部屋に誰も居なくなった途端に静かに涙を流しました。
一体少女の身に何が起こったというのでしょう。
神様的、というより獣的聴力で少女の啜り泣きの声を拾ってしまった三巳です。
(直ぐ戻ろうかと思ったけど、少し一人にした方が良いかな)
湯呑と急須をロキ医師に渡しながら思案する三巳です。
「ロキ医師。食べ物は何かあげれるか?」
「そうさのぅ。あの骨ばった体を見るに長らく真面な物は食べれておらんじゃろう。
3分粥から様子を見て少しづつ上げていこうかの」
「そっか……。
ホントは魔法でパっと治せれば良いんだけどな」
3分粥はあまりに味気ありません。三巳には耐えられそうにないその味を想像して、心の中で「うえ」と不味そうに舌をだして嫌がります。
ロキ医師はそんな三巳に「かっかっか」と快活に笑って頭を撫でてあげます。
「回復魔法はまだ練習中じゃからなぁ。歯痒かろう。
尤も瀕死の重傷や火傷の跡程度のものでもない限りは、自己治癒力を損なわない為にも為るべく使わんほうがええがの」
「うん。判ってる」
判ってはいても心はもどかしさにモヤモヤとして、つい口を尖らせてしまう三巳です。
先日からロキ医師の元で学んでいますが、自分自身が全く怪我をしない為、要領を得ないのです。
山の民が怪我をした時に了承を得て、練習をさせて貰っていますが、そもそも山の民は滅多に怪我をしません。
怪我をしないのは良い事なのですが、肝心な時にまだ上達していない現状が辛くて気分が沈んでしまいます。
耳も尻尾もしょぼーんと垂れています。
「嘆いておっても仕様がなかろう。
出来る事を頑張るだけじゃよ。
ほれ、粥を作って持って行ってあげなさい」
ロキ医師は釜にお米を入れて三巳に渡してあげます。
「うん。出来るだけ美味しく作る」
にぱっと笑い釜を受け取った三巳は水場で米を研ぎ始めました。
ロキ医師はそれを暖かい目で見守り、自らは新しい薬湯の準備を始めるのでした。
薬湯を飲み、一息ついて落ち着いた少女は改めてお礼を言います。
喋れないので口パクですが。
「落ち着いた様だな。良かった。
名前は喉が治ったら教えてくれるか?」
三巳は安堵して少女の頭を優しく撫でました。
少女は一瞬ビクッとしましたが、優しく撫でられて安心します。
三巳の問いにコクリと首を縦に振って応えました。
それに満足した三巳は、ニカリと可愛い犬歯を覗かせて笑います。
少女を支えている尻尾を優しく退かして、もう一度少女を横に寝かせてあげる三巳は、湯呑みと薬湯を入れている急須を持って立ち上がりました。
「君が目覚めた事ロキ医師に伝えてくるな。
薬湯ももう少し作って貰うよ」
(犬歯、可愛いな)
少女は三巳の犬歯に釘付けになりながら、コクリと頷きました。
そして部屋から出て行く三巳の後ろ姿を見て、今度は尻尾に釘付けになりました。
(尻尾もふもふ。大きい。グルーミングしたいな。
……ネルビー、ちゃんと逃げたかな。生きてると良いな。せめてあの子だけでも生きていて欲しい)
少女は三巳と飼い犬を重ねて、部屋に誰も居なくなった途端に静かに涙を流しました。
一体少女の身に何が起こったというのでしょう。
神様的、というより獣的聴力で少女の啜り泣きの声を拾ってしまった三巳です。
(直ぐ戻ろうかと思ったけど、少し一人にした方が良いかな)
湯呑と急須をロキ医師に渡しながら思案する三巳です。
「ロキ医師。食べ物は何かあげれるか?」
「そうさのぅ。あの骨ばった体を見るに長らく真面な物は食べれておらんじゃろう。
3分粥から様子を見て少しづつ上げていこうかの」
「そっか……。
ホントは魔法でパっと治せれば良いんだけどな」
3分粥はあまりに味気ありません。三巳には耐えられそうにないその味を想像して、心の中で「うえ」と不味そうに舌をだして嫌がります。
ロキ医師はそんな三巳に「かっかっか」と快活に笑って頭を撫でてあげます。
「回復魔法はまだ練習中じゃからなぁ。歯痒かろう。
尤も瀕死の重傷や火傷の跡程度のものでもない限りは、自己治癒力を損なわない為にも為るべく使わんほうがええがの」
「うん。判ってる」
判ってはいても心はもどかしさにモヤモヤとして、つい口を尖らせてしまう三巳です。
先日からロキ医師の元で学んでいますが、自分自身が全く怪我をしない為、要領を得ないのです。
山の民が怪我をした時に了承を得て、練習をさせて貰っていますが、そもそも山の民は滅多に怪我をしません。
怪我をしないのは良い事なのですが、肝心な時にまだ上達していない現状が辛くて気分が沈んでしまいます。
耳も尻尾もしょぼーんと垂れています。
「嘆いておっても仕様がなかろう。
出来る事を頑張るだけじゃよ。
ほれ、粥を作って持って行ってあげなさい」
ロキ医師は釜にお米を入れて三巳に渡してあげます。
「うん。出来るだけ美味しく作る」
にぱっと笑い釜を受け取った三巳は水場で米を研ぎ始めました。
ロキ医師はそれを暖かい目で見守り、自らは新しい薬湯の準備を始めるのでした。
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