悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちぁみ

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1章

期待はしない

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「シアン、今日はこの後どうする?図書室に行って勉強?」

「そうだな…」

もはや当たり前のように隣を歩き話しかけてくる男に当たり前のように反応を返してしまう。
俺が先日あんなことを言ったからか、イブリンはここのところずっと幸せそうにニコニコしながら登校も昼休みも放課後も俺に着いてくる。まぁ、授業以外でついてくるのはほぼ毎日だったからそれは良いとして、このにやけ面は何とかならないだろうか…。

(あんな事言わなきゃ良かった)

「お前、そのにやけ面やめろよ」

「えっ、俺にやけてる!?」

「自覚無しか」

「ふふっ、だって嬉しくてしばらくはこの顔かもしれないなぁ。シアンが俺とコンパネロになってくれるって言ってくれたんだもん」

「記憶を歪めるな。俺はそこまで言ってない」

「でも、脈アリってことでしょ。嬉しいな。シアン、大好きだよ」

そう言ってヘラッと笑って、デカい図体が俺に抱きついてくる。


―――◯◯、大好きだよ。

(そういえば、こいつと同じようにうるさいくらいそんな言葉を吐いてくる奴がいた…あいつは…)

「もう離れろよ。ったく、やっと周りが落ち着いてきたのに、お前は変わらないな」

コンパネロの制度が利用出来るようになってから数日経ち、痴話喧嘩のような現場を見ることが少なくなりようやく静かになってきたのだ。

「でも油断しちゃダメだよ、シアン。多分まだオーリー・ヨットがコンパネロになりたがってるから、しつこく迫ってくるに決まってる。気をつけてね」

「お前にも言えたことだけどな」

「いやっ、俺はシアンに認められたコンパネロ候補だから!」

「はぁ、何を偉そうに…。そういえば、お前に聞きたいことがあったんだ」

「何?」

歩く足を止め、イブリンと向き合う。

「お前…俺が襲われて助けてくれた時、1人で魔法使ってなかった?」

「えっ…あー…」

「正直あんま見てなかったけど、お前と一緒に魔法使ってる奴見当たらなかった気がして…。でも、1人で魔法を使うなんて出来る訳ないから気のせいか?それに、どうやって俺の居場所が分かったのかも謎だ」

「なっ何言ってるんだ、シアン。1人で魔法なんて使える訳ないだろ?俺と魔法使ってる奴、実はいたんだ。シアンはそれどころじゃなかったから見えてなかっただけ!シアンの居場所は…いろんな人に聞いて回ってたらたどり着いたんだ」

「ふーん、それにしては早かったけど…。で、お前と魔法使ってた奴って誰?俺の知ってる奴?遅くなったが、礼を言わなければならないだろ」

「あーえっと、良いよ!礼なんて!俺から言っとくから!」

「お前が決めることじゃない。いいから、会わせろ!」

「うーん、でも…」

「なにをそんなに躊躇ってるんだ?」

「はぁ…分かった、会わせるよ。今度ね」

「絶対だからな。礼儀はちゃんとするべきだ」

「…うん、そうだね。ところでさ、聞いた?今度の実技試験はペアの組み合わせ自分で決めて良いんだって。だから、俺と組も」

「…まぁ、考えとく」

「えっなんで?即答してくれると思ったのに!他に組みたい人いるの?」

「別に。何回か実技試験受けてペアになった奴いるから、その中の奴でも良いかなって考えてみるだけだ」

「…そっか。分かった。じゃあ俺は待ってるから」

「お前は…」

「ん?」

他に組みたい奴はいないのか?という言葉を俺は飲み込んだ。

「なんでもない。今日は寮に戻って休む。じゃあな」





夜になり、俺は寮から出て夜風を当たりに外に出る。
今夜は美しい満月と星空が広がっており空を眺めていると、ちょうど1本の木が立っているところから声が聞こえてくる。そろそろあの場面が始まる頃だと思い、俺は茂みに隠れて盗み見ることにした。

「シュレイ、私とコンパネロになってほしい」

「ユーリアス!でっ、でも僕…」

「もちろん、無理にとは言わない。父上からシュレイの特異性の魔力のことは聞いている。そんな中で、私一人とコンパネロになるということは重大な選択となるだろう。しかし、私はお前とコンパネロになり、いずれは……。つ、つまり、それくらいお前のことを信頼しているということだ。シュレイはどうだ?」

「…僕もユーリアスのこと信頼してるよ。でも、僕のことよりも、ユーリアスこそ、僕なんかとで本当にいいの?」

「当たり前だ。お前じゃなきゃ私はダメなんだ」

「ユーリアス…」

ここで甘い雰囲気が流れ、見つめ合うシュレイとユーリアス。
まったく、見せられてる気持ちにもなれ。と、思うが、あっちはそんなこと把握していないんだから、無駄な言い分か。この話があるということは、シュレイはユーリアスルートで進んでいるようだ。

「…はぁ」

呆れながら見ていると、隣から大きなため息が聞こえた。

「っ!!」

俺は隣に人がいることに気づかなかったため、驚いて声をあげようとしたところで自分で口に手を当ててなんとか耐え抜いた。

「スヴェン・タイルさん…?」

「シュドレーさん、まさか、俺に気づかなかったのですか?」

「えっ、ええ…まぁ」

「はぁ…やっぱり俺って影薄いんですかね?だから、シュレイにも気に停められず…俺ってどこまでも駄目なやつ」

面倒臭い奴に出くわしてしまった。
タイル侯爵家の一人息子スヴェン・タイルは、ご存知攻略対象の1人だ。肩につくくらいのラベンダー色のストレート髪は後ろでハーフアップにし、前髪は少し重ため。ライトブラウンのタレ目は弱々しい印象を与えるが、眉毛はキリッとしているからか侯爵家らしい威厳はどこかしらに感じられる顔立ちをしている。ゲームでは気にしていなかったが、確かに実物を目の前で見ると顔が整っている。しかし、絶望的に影が薄いのが彼の特徴なのだ。
ゲームでは、正式な攻略対象にも関わらず影の薄さから主人公との会話シーンは他の3人に比べて圧倒的に少なかった。
実際に、俺がシュレイを攫ったと疑いをかけられた時はこいつはその場にいながらも一言も喋っていなかったのが影の薄さを証明している。あの時は脇役なんじゃないかとすら疑ったが、こう見えても優秀らしい。というのも、タイル侯爵家は代々幼少期から魔法の特訓をし、優秀な魔法使いを育てることに特化した家門だ。影が薄いと散々言われる彼だが、魔法を自由自在に使うことに関しては国王からも一目置かれる存在らしい。それなのにあの3人と並ぶと影が薄くなって忘れられることが多いから、少しネガティブな思考を持つようになったという。

「い、いや俺が気づかなかったのが悪いんです。すみません、それでは失礼します」

「待ってください。俺はともかく、シュドレーさんはどうしてここで盗み見ていたのですか?」

「 えっ…」

この流れは不味いのではないだろうか。シュレイを攫った主犯格だと思われている俺がここでユーリアスとシュレイの話を聞いているとなると、更に怪しまれる。それも特異性の魔力についてはこいつはシュレイから既に聞いているから良いものの、俺は盗み見ていたことでまだ知られていないシュレイの秘密を知ってしまったということになる。

「た、たまたま通りかかっただけです」

「わざわざ茂みを通ることがありますか?」

「そうですね…。えっと、変に怪しまないでいただけると嬉しいです。私は、お2人の仲がよろしい様で、微笑ましいと思って見ていたのです」

「はあ…?」

スヴェンは更に怪しいという目で俺を見てきた。
そそくさと去るつもりでいたが、もうこうなったら別の話をしてみることに。

「えっと…タイルさんはアデスさんがお好きなんですか?」

「なっ、ちっちちち違います!」

わかりやすい。
わかりやすく、スヴェンは顔を赤らめた。

「…気にはなっています。でも見ての通り、ユーリアスとシュレイは惹かれあっています。そんな中で、俺が間に入ることなんて出来ない…増してやこんな影の薄い男となんて…」

暗い顔で蹲るスヴェン。
なんか恋バナ始まっちゃった…と思いながらも、まぁ話題を変えられたから良いかと思い直し、俺は話に乗ることにする。

「ま、まぁ…影の薄い男が好きな人もいるんじゃないですか?」

「そんな人いる訳ないでしょう。それにシュレイは唯一、俺と真剣に向き合ってくれた特別な人なんです」

「そうですか…」

「俺がシュレイに腹が立って怒鳴った時のことです」

俺は、幼い頃から優秀なユーリアスやイグリム、サイラスと仲が良かった。ユーリアスは第一王子で何をやっても非の打ち所がなく、イグリムは膨大な知識と策略の才に恵まれ、サイラスは騎士の家系で非常に剣技が優れていた。そんな3人の中で、俺は彼らに追いつこうといつも魔法の練習をしていた。熱心に練習する俺を見て両親は応援してくれたけど、肝心のペアになる人は俺に付き合いきれないと言って学園に入るまで何度ペアの解消を行ったか分からない。ユーリアスたちは俺を努力家だと褒めてくれるが、頑張ろうにも魔法は1人では使うことができない。結局1人残されてしまう俺の頑張りとは一体何なのか分からなくなっていた。頑張ることが分からなくなった俺にとって、この3人といるのが楽しい反面で劣等感に苛まれていった。そんな心が俺から自信を奪い、どんどんネガティブな気持ちにさせていったのかもしれない。そんな時、ユーリアスの紹介でシュレイと知り合うようになった。最初は、貧民街の出なのにいろいろと頑張っている彼を見て応援したくなった。でもそのうちに、彼の頑張る姿が自分の姿と重なって、苛立つようになってきたんだ。

「そんなに一生懸命やって何になるっていうんだ!?お前1人でどれだけ志を持って頑張ろうとしても、どうせ無駄だ。魔法は相性が大事で、1人では使えないんだ。お前だけが勉強して頑張ったって、誰も協力なんてしてくれない。誰も見てくれない!意味がないだろ!」

「…じゃあ、スヴェンが僕の練習相手になってよ!」

「何を言っているんだ?俺とお前は相性が良い訳では無いだろ」

「やってみなくちゃわからないよ。さ、風の魔法を使ってみよ!」


「「ヴィエント」」


手を繋ぎ、呪文を唱えると強い威力の風を吹かせることが出来た。それも、こんなにも相性が合うと感じたのは初めてだった。

「な、なんで…」

「実は僕、誰とでも相性が合う特異性の魔力を持っているんだ。だから、スヴェン、これから僕に魔法の使い方教えてよ」

「なぜ俺なんだ?誰とでも相性が合うなら、俺でなくても…」

「だって、スヴェンは魔法がとても好きでしょ。いつも魔法書で魔法の勉強をしているし、放課後は相性が合う人たちのところに練習の誘いに行ったりしてる。魔法が好きだから努力家なんだなって思ってたよ。僕も魔法が好き。だから、一緒に頑張ろうよ!」

「…!そうだな…そうだ。ああ!」

その時に思い出したんだ、俺が最初に魔法を使った時の感覚を。あの時の感覚が忘れられなくて魔法が好きになった。3人に追いつきたいとか劣等感でやるよりも、俺はただ魔法が好きで頑張っていたことを思い出して、シュレイに救われた。


「でも、何よりも、影が薄いと言われていた俺のことをちゃんと見ていてくれたのが嬉しかった」

「…それは…良かったですね」

「なんですか、そのつまらなそうな顔は」

「いえ、あのままノロケ話に付き合わされるとは思っていなかったものですから。つまり、タイルさんは誰かに認めて貰いたかったわけですね」

「え?」

「違いますか?俺には、魔法が好きって気持ちよりも誰かに自分を見てもらうことの方が重要だったように聞こえました」

「そ、そんなことは…」

「よしよし、今までよく頑張ってきたね」

俺はスヴェンの目を見て、頭をポンポンと撫でながら言う。

「と、こういうことでしょう?」

「…っな、きゅっ急に触るな!」

スヴェンの瞳が少し揺れ、顔が赤くなった途端に俺の手は払い除けられた。

「忠告ですけど、人にそんな期待はしない方がいいと思いますよ。みんな、努力家だね、すごいねって簡単に言うけれど、誰だって見える所しか見ないで良いように想像するんだ。本当はどんな苦労をしているか、どんな思いを抱えているのかなんて知ろうともしない人間の言葉だ。そんな言葉でちゃんと見ててもらえたって、全てを分かってもらえたような気持ちにさせられる。でも、期待しない方が良かったって後々分かって傷つくんです。だから、期待しない方がいいんです。何も考えず、何も感じず、なんとかなるで生きていったら楽ですよ」

「……そうですか。確かに、シュドレーさんの言う通りかも知れません。でも、それを続けていけばいずれ心が死んでいきませんか?」

「…………どうでしょう」

「さて、もう行きます。ユーリアスとシュレイはとっくに去ったようです。なんだか、今日は予想外の人と予想の話ができた。あなたは思ったよりも噂とは違う人みたいです」

「そうですか?」

「ああ、違いました…。俺を…褒めてくれましたから」

「あれは、特に意味はありません」

「でも…なんだか悪い気はしませんでした。それでは、おやすみなさい」

「ええ」

挨拶を交わしてスヴェンと別れた後、少し散歩をした。
そろそろ帰ろうかと思い、入り口へ続く階段を登ろうとするとまた見知った声が聞こえてきた。

声が聞こえて来た方は、森へ続く道だ。

またもや盗み見を試みて見ると、寝間着のイブリンと知らない男が話していた。

「シアンにお前を紹介するが、余計なことは言わないようにしろ。特にあのことは」

「承知いたしました」

(…あのことってなんだ?)

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