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一番キツく感じる区間
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『駐車場のヘアピン』は左のヘアピンカーブだ。という事は、勾配が緩いカーブの外側にラインを取れば右側通行、所謂『逆行』になってしまう。つまり勾配のキツいカーブの内側にラインを取るしか無いのだ。
「ぃよっこいしょぉ!」
おっさん臭い掛け声と共にペダルを踏む足に力を込めて何とか失速すること無く駐車場のヘアピンを通過したトシヤの前にはまだまだ空に向かって上る道が伸びていた。まあ、分かってはいるとは言え、何度見ても気が滅入る風景だ。だが、ココで心を折られてはいけない。寧ろ逆に「ココまで来たらもう少しでゴールだ」と自分に言い聞かせ、気力を奮い立たせるべきだろう。実際、渋山峠ヒルクライムも残すところ四分の一と言ったところなのだから。
とは言うものの距離こそ残り僅か(約1キロを僅かと言うかどうかは置いといて)だが、ここからしばらくは勾配がキツいポイントが続く。いや、勾配はココまでも十分にキツかった。だが、同じ10%の勾配でも上り始めた頃と上り突かれた今とでは感じ方が全然違う。何しろトシヤとマサオは持久力も脚力も底を突く寸前なのだ。今の二人に出来る事、そしてしなければならない事、それは淡々とペダルを回し続ける事だけだ。
幾つもカーブを抜け、視界が広がる度にトシヤとマサオは最終ヘアピンが見えるのを期待した。だがしかし、その期待はことごとく裏切られた。走っても走っても二人の目の前には緩やかなカーブを描く道が伸びるばかりで肝心の『最終ヘアピン』の目印である『急カーブ徐行』という注意看板と公園の入口のゲートは悲しい事に全然見えて来ない。
トシヤがチラっと振り返って後ろを見るとマサオは悲愴な顔をしながらも遅れる事無く着いて来ていて、トシヤが振り返ったのに気付くと顔を歪めながら言った。
「どした? 疲れたか? 俺も疲れたぞ」
トシヤは前に向き直ってからマサオに答えた。
「おー、マジでしんどいわー。ちょっと後悔してる」
二人共軽い口調で言っているが、実際のところはもう足を着いて休みたい、ハンドルに突っ伏したい、いや、ロードバイクから降りて地べたにヘタり込みたい……それがトシヤとマサオの心の叫びだ。
とは言っても本当にあとちょっとの所まで来ているのだ。もちろん足を着いて休んでからまた上り始めるという選択肢もあるのだが、今日のマサオの目標は足着き無しで上る事、ココで心が折れたら今までの苦労が水の泡だ。マサオは必死にトシヤを追い、トシヤもまた必死に追って来るマサオの姿に奮起し、ペダルを回す足に力を込めた。もっとも力を込めたと言ったところでトシヤの脚は残念ながら売り切れ寸前、そんなにペースが上がるワケでは無い。まあ、だからこそマサオはトシヤに何とか喰らい付いて上る事が出来ているのだが。
そんな二人に待ち望んだ景色がようやく見えた。そう、言わずと知れた最終ヘアピンだ。もちろん本当に見たい景色はゴールの展望台駐車場から町を見下ろす景色だ。しかし、モノには順序というモノがある、この『最終ヘアピン』をクリアして初めてゴールを意識出来るというものなのだ。
「ココまで来たらもうちょっとだ!」
トシヤの後ろでマサオが歓喜の声を上げた。今まで何度渋山峠に挑み、ことごとく打ちのめされてきた。もちろん今回もフラフラのヘロヘロだが、足は一度も着いていない。ただ一つ、ルナが前を走っていないのは残念だが……
最終ヘアピンを過ぎれば残りは数百メートル。速い人だと二分とかからずゴールに到達出来る。タイムを縮めようとする剛の者達からすれば『最後のもがき所』なのだがトシヤとマサオに『もがく』体力など残っているワケが無い。彼等にとってはこの最終ヘアピンからゴールまでの区間は『やっとココまで来た、もうすぐゴールだ』という安堵の区間なのだ。もっとも『安堵の区間』と言っても10%前後の勾配はまだ続いているので決して楽になるワケでは無い。
トシヤが最後の力を振り絞ってペダルを回し続けていると視界の左側にそびえ立っていた間知石が切れ、夏草の生い茂った山肌がむき出しになった。その上こそが展望台の駐車場。そう、待ち望んでいたゴールだ。
以前トシヤが初めての足着き無し達成はハルカと一緒にと思い、敢えて足を着いたのはこの付近だ。それを思い出したトシヤがマサオの様子を伺おうと振り返った。するとマサオは左手をハンドルから離し、親指を立てて見せた。どうやらトシヤとは違い『初めての足着き無しはルナと一緒に』などという考えは毛程も無い様だ。
などとやっているうちに残るは最後の左カーブのみとなり、勾配も少し緩んだ。やっと長かった渋山峠ヒルクライムも終了だ。
「ぃよっこいしょぉ!」
おっさん臭い掛け声と共にペダルを踏む足に力を込めて何とか失速すること無く駐車場のヘアピンを通過したトシヤの前にはまだまだ空に向かって上る道が伸びていた。まあ、分かってはいるとは言え、何度見ても気が滅入る風景だ。だが、ココで心を折られてはいけない。寧ろ逆に「ココまで来たらもう少しでゴールだ」と自分に言い聞かせ、気力を奮い立たせるべきだろう。実際、渋山峠ヒルクライムも残すところ四分の一と言ったところなのだから。
とは言うものの距離こそ残り僅か(約1キロを僅かと言うかどうかは置いといて)だが、ここからしばらくは勾配がキツいポイントが続く。いや、勾配はココまでも十分にキツかった。だが、同じ10%の勾配でも上り始めた頃と上り突かれた今とでは感じ方が全然違う。何しろトシヤとマサオは持久力も脚力も底を突く寸前なのだ。今の二人に出来る事、そしてしなければならない事、それは淡々とペダルを回し続ける事だけだ。
幾つもカーブを抜け、視界が広がる度にトシヤとマサオは最終ヘアピンが見えるのを期待した。だがしかし、その期待はことごとく裏切られた。走っても走っても二人の目の前には緩やかなカーブを描く道が伸びるばかりで肝心の『最終ヘアピン』の目印である『急カーブ徐行』という注意看板と公園の入口のゲートは悲しい事に全然見えて来ない。
トシヤがチラっと振り返って後ろを見るとマサオは悲愴な顔をしながらも遅れる事無く着いて来ていて、トシヤが振り返ったのに気付くと顔を歪めながら言った。
「どした? 疲れたか? 俺も疲れたぞ」
トシヤは前に向き直ってからマサオに答えた。
「おー、マジでしんどいわー。ちょっと後悔してる」
二人共軽い口調で言っているが、実際のところはもう足を着いて休みたい、ハンドルに突っ伏したい、いや、ロードバイクから降りて地べたにヘタり込みたい……それがトシヤとマサオの心の叫びだ。
とは言っても本当にあとちょっとの所まで来ているのだ。もちろん足を着いて休んでからまた上り始めるという選択肢もあるのだが、今日のマサオの目標は足着き無しで上る事、ココで心が折れたら今までの苦労が水の泡だ。マサオは必死にトシヤを追い、トシヤもまた必死に追って来るマサオの姿に奮起し、ペダルを回す足に力を込めた。もっとも力を込めたと言ったところでトシヤの脚は残念ながら売り切れ寸前、そんなにペースが上がるワケでは無い。まあ、だからこそマサオはトシヤに何とか喰らい付いて上る事が出来ているのだが。
そんな二人に待ち望んだ景色がようやく見えた。そう、言わずと知れた最終ヘアピンだ。もちろん本当に見たい景色はゴールの展望台駐車場から町を見下ろす景色だ。しかし、モノには順序というモノがある、この『最終ヘアピン』をクリアして初めてゴールを意識出来るというものなのだ。
「ココまで来たらもうちょっとだ!」
トシヤの後ろでマサオが歓喜の声を上げた。今まで何度渋山峠に挑み、ことごとく打ちのめされてきた。もちろん今回もフラフラのヘロヘロだが、足は一度も着いていない。ただ一つ、ルナが前を走っていないのは残念だが……
最終ヘアピンを過ぎれば残りは数百メートル。速い人だと二分とかからずゴールに到達出来る。タイムを縮めようとする剛の者達からすれば『最後のもがき所』なのだがトシヤとマサオに『もがく』体力など残っているワケが無い。彼等にとってはこの最終ヘアピンからゴールまでの区間は『やっとココまで来た、もうすぐゴールだ』という安堵の区間なのだ。もっとも『安堵の区間』と言っても10%前後の勾配はまだ続いているので決して楽になるワケでは無い。
トシヤが最後の力を振り絞ってペダルを回し続けていると視界の左側にそびえ立っていた間知石が切れ、夏草の生い茂った山肌がむき出しになった。その上こそが展望台の駐車場。そう、待ち望んでいたゴールだ。
以前トシヤが初めての足着き無し達成はハルカと一緒にと思い、敢えて足を着いたのはこの付近だ。それを思い出したトシヤがマサオの様子を伺おうと振り返った。するとマサオは左手をハンドルから離し、親指を立てて見せた。どうやらトシヤとは違い『初めての足着き無しはルナと一緒に』などという考えは毛程も無い様だ。
などとやっているうちに残るは最後の左カーブのみとなり、勾配も少し緩んだ。やっと長かった渋山峠ヒルクライムも終了だ。
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