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女の子の為なら頑張れる、それが男ってモンだ
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「マサオ、気合入れてくぞ! ルナ先輩に良いトコ見せんだろ!?」
『ルナ』それはマサオにとって魔法の言葉だ。マサオに少しだけ力が湧いた。だが、だからと言っていきなり体力が回復するとかケイデンスが大幅に上がるなんて事はもちろん無い。しかしほんのちょっとだけマサオの速度が上がり、トシヤが振り返った為に速度が落ちた事と相まって二人の距離は縮まった。
「一気に詰めるとはヤルじゃねーか」
「ったり前だ、俺を誰だと思ってやがる」
マサオにいつもの調子が戻った。ほんの数秒前はヘロヘロだったクセに……でも、これぐらいで元気が出るのなら安いものだ。トシヤは前を向き、マサオを更に鼓舞するように言った。
「上等だ。ならこのまま行くぞ」
『行くぞ』と言ってもトシヤは無闇にペースを上げたりはしない。無理して頑張り過ぎると途中で力尽きてしまう事はトシヤ既に身をもって学習済みと言うか、思い知らされている。頑張ってはいるが頑張り過ぎ無い、このさじ加減が実に難しい。
それでも一つだけはっきり言える事がある。それは足を止める事は出来無いという事。ロードバイクのヒルクライムで足を止める事=その場で止まってしまう事だ。まだ第一ヘアピンを通過したばかり、こんな所で止まって足を着くわけにはいかないのだ。
黙々と、淡々と坂を上る。相変わらず斜度はキツく、サイコンの示す数字はずっと一桁のままだ。聞こえるのは自分の息遣いとセミの声、他には時折り追い抜かれたりすれ違ったりする車のエンジン音ぐらいだ。
車から見たロードバイクのヒルクライムというのはさぞかし滑稽なものだろう。何しろ派手な車体に派手な服装のいかにも速そうな姿のローディーが思いっきり地味な走りで山を上っているのだから。
だがそんな事はどうでも良い。滑稽に見られようが、バカにされようが、好きで上っているのだ。ただ遅いからといって煽ったり、下手くそなドライバーが寄ってきたりさえしなければ。
そんなうちにやっと第二ヘアピンが見えてきた。ココまで来れば渋山峠の半分以上を越えた事になり、『上った感』も強くなる。と、同時に第一ヘアピンと同じくヘアピンカーブならではの視覚的なプレッシャーがトシヤとマサオを襲う。
「あーっ、しんどいなぁ」
トシヤはそのプレッシャーを振り払う様に声を上げ、第二ヘアピンに侵入した。
ヒルクライム時の第二ヘアピンは右カーブなのでライン取りを勾配の緩くなる外側に取れるので、第一ヘアピンよりは少しだけ走りやすく(楽にとは言ってない)感じられるのが救いと言えば救いだった。
第二ヘアピンを通過すれば少しの間勾配が緩くなる。タイムアタックに燃える剛脚達にはタイムを詰める為の加速ポイントだが、『緩くなる』と言っても今まで10%超だったのが5%前後の勾配になるだけなのだからトシヤとマサオには加速など出来る筈が無い。またすぐにやってくる10%超の勾配に備えて少し足を休ませるだけだ。
「くそっ、足重いわ!」
マサオがペダルを回しながら呻く様に言った。まあ、気持ちはわかる。何しろ『足を休める』と言っても『しんどさレベル』が下がるだけで、実際に休めるわけでは無いのだから。
「まったく嫌んなっちまうな」
マサオの声にトシヤが半笑いで答えた。しかし何故ココで半笑い? トシヤはマサオにまた何かシニカルな台詞でも吐こうとでもしているのか? いや、そうでは無く、単に全笑いする余裕がトシヤに無かっただけだった。そして二人はまた口を閉ざし、黙々とペダルを回し続けた。少しでも前に進む為に。
どんなにゆっくりでもペダルを回し続けさえすれば車体は前に進む。トシヤとマサオはようやく三番目のヘアピン、通称『駐車場のヘアピン』にたどり着いた。『たどり着いた』と言ってもそこはまだゴールでは無い。駐車場に入って休みたい気持ちを押し殺してヘアピンに侵入すると、そこには地獄が待っていた。
『ルナ』それはマサオにとって魔法の言葉だ。マサオに少しだけ力が湧いた。だが、だからと言っていきなり体力が回復するとかケイデンスが大幅に上がるなんて事はもちろん無い。しかしほんのちょっとだけマサオの速度が上がり、トシヤが振り返った為に速度が落ちた事と相まって二人の距離は縮まった。
「一気に詰めるとはヤルじゃねーか」
「ったり前だ、俺を誰だと思ってやがる」
マサオにいつもの調子が戻った。ほんの数秒前はヘロヘロだったクセに……でも、これぐらいで元気が出るのなら安いものだ。トシヤは前を向き、マサオを更に鼓舞するように言った。
「上等だ。ならこのまま行くぞ」
『行くぞ』と言ってもトシヤは無闇にペースを上げたりはしない。無理して頑張り過ぎると途中で力尽きてしまう事はトシヤ既に身をもって学習済みと言うか、思い知らされている。頑張ってはいるが頑張り過ぎ無い、このさじ加減が実に難しい。
それでも一つだけはっきり言える事がある。それは足を止める事は出来無いという事。ロードバイクのヒルクライムで足を止める事=その場で止まってしまう事だ。まだ第一ヘアピンを通過したばかり、こんな所で止まって足を着くわけにはいかないのだ。
黙々と、淡々と坂を上る。相変わらず斜度はキツく、サイコンの示す数字はずっと一桁のままだ。聞こえるのは自分の息遣いとセミの声、他には時折り追い抜かれたりすれ違ったりする車のエンジン音ぐらいだ。
車から見たロードバイクのヒルクライムというのはさぞかし滑稽なものだろう。何しろ派手な車体に派手な服装のいかにも速そうな姿のローディーが思いっきり地味な走りで山を上っているのだから。
だがそんな事はどうでも良い。滑稽に見られようが、バカにされようが、好きで上っているのだ。ただ遅いからといって煽ったり、下手くそなドライバーが寄ってきたりさえしなければ。
そんなうちにやっと第二ヘアピンが見えてきた。ココまで来れば渋山峠の半分以上を越えた事になり、『上った感』も強くなる。と、同時に第一ヘアピンと同じくヘアピンカーブならではの視覚的なプレッシャーがトシヤとマサオを襲う。
「あーっ、しんどいなぁ」
トシヤはそのプレッシャーを振り払う様に声を上げ、第二ヘアピンに侵入した。
ヒルクライム時の第二ヘアピンは右カーブなのでライン取りを勾配の緩くなる外側に取れるので、第一ヘアピンよりは少しだけ走りやすく(楽にとは言ってない)感じられるのが救いと言えば救いだった。
第二ヘアピンを通過すれば少しの間勾配が緩くなる。タイムアタックに燃える剛脚達にはタイムを詰める為の加速ポイントだが、『緩くなる』と言っても今まで10%超だったのが5%前後の勾配になるだけなのだからトシヤとマサオには加速など出来る筈が無い。またすぐにやってくる10%超の勾配に備えて少し足を休ませるだけだ。
「くそっ、足重いわ!」
マサオがペダルを回しながら呻く様に言った。まあ、気持ちはわかる。何しろ『足を休める』と言っても『しんどさレベル』が下がるだけで、実際に休めるわけでは無いのだから。
「まったく嫌んなっちまうな」
マサオの声にトシヤが半笑いで答えた。しかし何故ココで半笑い? トシヤはマサオにまた何かシニカルな台詞でも吐こうとでもしているのか? いや、そうでは無く、単に全笑いする余裕がトシヤに無かっただけだった。そして二人はまた口を閉ざし、黙々とペダルを回し続けた。少しでも前に進む為に。
どんなにゆっくりでもペダルを回し続けさえすれば車体は前に進む。トシヤとマサオはようやく三番目のヘアピン、通称『駐車場のヘアピン』にたどり着いた。『たどり着いた』と言ってもそこはまだゴールでは無い。駐車場に入って休みたい気持ちを押し殺してヘアピンに侵入すると、そこには地獄が待っていた。
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