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マーちゃん中尉とイザー二等兵の秘め事
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昼食後にイザー二等兵とマーちゃん中尉の試合が行われるという情報を受けた人たちは慌ただしく動き回っていた。本来であれば入隊希望試験が終われば他にすることがなかったのだが、今回特別にイザー二等兵の試合がもう一度見ることが出来るという事もあって阿寒湖畔にいる者たちは喜んでいた。ただ一人、マーちゃん中尉だけは喜べずにいたのだがそんなのはどうでもいい話だった。
あれだけの強さを見せていたイザー二等兵の試合を早くも見ることが出来るという事に喜んでいるものもいるのだが、暴力にも近い一方的な攻撃を見せられた人の中には軽くトラウマになりかけている人もいたようだ。宴会場や客室で見ていた人たちに取ったアンケートでも結果は半々に近いものがあり、もう一度イザー二等兵が戦っているところを見たいと思う者はそこまで多くはなかったのだ。
「つまり、先ほどの試合でイザー二等兵は本気を出しきることが出来なかったという事なんですね」
「そうなんですよ。イザーちゃんは、イザー二等兵は自分の用意していた攻撃の一割も披露できなかったって言ってましたよ。やっさんが悪いってわけではなくて、一般の人と特別な訓練を積んだ人の差が出ちゃったって事ですかね」
「特別な訓練というのは、具体的にどのようなものを指しているのでしょうか」
「すいません。そのあたりは軍事機密となっているのでお答えすることは出来ないんですよ。水城さんが国防軍に入られたらその辺も知ることが出来ると思うんですが、今の水城さんでは入隊することは難しいでしょうね」
先ほどまで水城アナウンサーと一緒に解説をしていた宇藤さんに変わって栗宮院うまな中将が解説席に座っているのだが、解説というよりもイザー二等兵の人となりを説明しているのだ。栗宮院うまな中将の説明を聞いた人の多くはイザー二等兵は先ほどの戦いの姿とは違って優しい人なのではないかと思ってしまったようだが、栗宮院うまな中将の説明はほとんどが嘘であり栗宮院うまな中将が考えている理想のイザー二等兵像を伝えているに過ぎないのだ。
マーちゃん中尉はイザー二等兵とそこまで長い付き合いがあるわけじゃないので栗宮院うまな中将の言っていることを半ば信じかけていたのだ。その様子を黙ってみていたイザー二等兵がマーちゃん中尉に食って掛かっていた。
「あのさ、うまなちゃんがテレビで言ってるのって全部嘘だからね。嘘って言うか、アレはうまなちゃんが妄想している世界のボクの姿なんだよ。マーちゃんとはそこまで長い付き合いじゃないけどさ、それくらいはわかってるよね?」
一瞬間をあけてしまったのが良くなかったのか、イザー二等兵は顔をぐっと近づけてマーちゃん中尉に詰め寄っていた。
「その感じだとうまなちゃんが言ってたことを信じちゃってるみたいだね。マーちゃんはきっとそんなわけないって思ってるのにさ、うまなちゃんの言葉を信じるなんてボクは悲しいよ。うまなちゃんの言葉に説得力があるってのはわかるけどさ、ボクが今まで一度でもうまなちゃんが行ってるようなことをやってるのを見たことがあるのかな。そんなの見たことないよね。一度だってボクが花壇を愛でながら紅茶を飲んでるところなんて見たことあるのかな。あるんだったら教えてほしいよ」
「確かに見たことはないけどさ、俺のところに来るまではそういうのが好きだったのかなって思ったのはあるかも」
「そんなわけないじゃん。お花を見るのは好きだし紅茶も飲むけどさ、ボクがそんな女の子っぽいことするように見えないでしょ。うまなちゃんはボクの事をぬいぐるみを抱いていないと眠れない女だとか好きかって言ってるけどさ、ボクの部屋にぬいぐるみがないのはマーちゃんも知ってるよね?」
「いや、それは知らないけど。イザーちゃんの部屋に入ったことないし」
「あれ、そうだったっけ。まあいいや。でもさ、ボクがぬいぐるみとかお花が好きでフリフリのたくさんついた服を好んで着ているって想像したらおかしいでしょ」
先ほどよりも少しだけ距離をあけて話をするイザー二等兵であった。話していると段々興奮して距離が近づきすぎたのだが、その事に気付いて急に恥ずかしくなってしまったのかイザー二等兵は子犬が間に入っても大丈夫なくらいの間をあけて目をそらしていた。
「でも、イザーちゃんは普通にしてたら可愛らしいと思うからぬいぐるみも花もフリフリがいっぱいついた服を着ていてもおかしいとは思わないけどな。俺みたいなおっさんがそういうのを好きだって言ったら引かれちゃうと思うけど、イザーちゃんみたいに若くてかわいい子が言うんだったら問題ないと思うよ。ほら、水城アナウンサーだって戦っていた時とは違うギャップがあって驚いたけど、そういうのが好きでも不思議ではないって言ってるよ」
「だから、そういう事を言ってるんじゃなくて、ボクはそんな風に思われるのが恥ずかしいって言ってるの。そんな女の子が好きなものを好きなのって恥ずかしいの」
可愛いものが好きでも恥ずかしくはないだろうと思っていたマーちゃん中尉ではあったが、ここで何かを言って空気を変にするくらいだったら黙って見守っていこうと心に決めていたのだ。マーちゃん中尉が何も言わなければイザー二等兵は勝手にいい方に解釈してくれるという事に期待していたのだ。
「黙っていられるとちょっと気まずいんだけど。そんな風に気まずくさせるマーちゃんの事、本気で殴っちゃうからね」
本気を出されるのはまずいと思ったマーちゃん中尉ではあったが時すでに遅し。イザー二等兵は禍々しい魔法で小さな体話隠すように包み込むと、一瞬だけマーちゃん中尉の方を見てから部屋を出て行ってしまった。
後悔先に立たず。その言葉が何度も何度も頭の中を駆け巡っていったのである。
あれだけの強さを見せていたイザー二等兵の試合を早くも見ることが出来るという事に喜んでいるものもいるのだが、暴力にも近い一方的な攻撃を見せられた人の中には軽くトラウマになりかけている人もいたようだ。宴会場や客室で見ていた人たちに取ったアンケートでも結果は半々に近いものがあり、もう一度イザー二等兵が戦っているところを見たいと思う者はそこまで多くはなかったのだ。
「つまり、先ほどの試合でイザー二等兵は本気を出しきることが出来なかったという事なんですね」
「そうなんですよ。イザーちゃんは、イザー二等兵は自分の用意していた攻撃の一割も披露できなかったって言ってましたよ。やっさんが悪いってわけではなくて、一般の人と特別な訓練を積んだ人の差が出ちゃったって事ですかね」
「特別な訓練というのは、具体的にどのようなものを指しているのでしょうか」
「すいません。そのあたりは軍事機密となっているのでお答えすることは出来ないんですよ。水城さんが国防軍に入られたらその辺も知ることが出来ると思うんですが、今の水城さんでは入隊することは難しいでしょうね」
先ほどまで水城アナウンサーと一緒に解説をしていた宇藤さんに変わって栗宮院うまな中将が解説席に座っているのだが、解説というよりもイザー二等兵の人となりを説明しているのだ。栗宮院うまな中将の説明を聞いた人の多くはイザー二等兵は先ほどの戦いの姿とは違って優しい人なのではないかと思ってしまったようだが、栗宮院うまな中将の説明はほとんどが嘘であり栗宮院うまな中将が考えている理想のイザー二等兵像を伝えているに過ぎないのだ。
マーちゃん中尉はイザー二等兵とそこまで長い付き合いがあるわけじゃないので栗宮院うまな中将の言っていることを半ば信じかけていたのだ。その様子を黙ってみていたイザー二等兵がマーちゃん中尉に食って掛かっていた。
「あのさ、うまなちゃんがテレビで言ってるのって全部嘘だからね。嘘って言うか、アレはうまなちゃんが妄想している世界のボクの姿なんだよ。マーちゃんとはそこまで長い付き合いじゃないけどさ、それくらいはわかってるよね?」
一瞬間をあけてしまったのが良くなかったのか、イザー二等兵は顔をぐっと近づけてマーちゃん中尉に詰め寄っていた。
「その感じだとうまなちゃんが言ってたことを信じちゃってるみたいだね。マーちゃんはきっとそんなわけないって思ってるのにさ、うまなちゃんの言葉を信じるなんてボクは悲しいよ。うまなちゃんの言葉に説得力があるってのはわかるけどさ、ボクが今まで一度でもうまなちゃんが行ってるようなことをやってるのを見たことがあるのかな。そんなの見たことないよね。一度だってボクが花壇を愛でながら紅茶を飲んでるところなんて見たことあるのかな。あるんだったら教えてほしいよ」
「確かに見たことはないけどさ、俺のところに来るまではそういうのが好きだったのかなって思ったのはあるかも」
「そんなわけないじゃん。お花を見るのは好きだし紅茶も飲むけどさ、ボクがそんな女の子っぽいことするように見えないでしょ。うまなちゃんはボクの事をぬいぐるみを抱いていないと眠れない女だとか好きかって言ってるけどさ、ボクの部屋にぬいぐるみがないのはマーちゃんも知ってるよね?」
「いや、それは知らないけど。イザーちゃんの部屋に入ったことないし」
「あれ、そうだったっけ。まあいいや。でもさ、ボクがぬいぐるみとかお花が好きでフリフリのたくさんついた服を好んで着ているって想像したらおかしいでしょ」
先ほどよりも少しだけ距離をあけて話をするイザー二等兵であった。話していると段々興奮して距離が近づきすぎたのだが、その事に気付いて急に恥ずかしくなってしまったのかイザー二等兵は子犬が間に入っても大丈夫なくらいの間をあけて目をそらしていた。
「でも、イザーちゃんは普通にしてたら可愛らしいと思うからぬいぐるみも花もフリフリがいっぱいついた服を着ていてもおかしいとは思わないけどな。俺みたいなおっさんがそういうのを好きだって言ったら引かれちゃうと思うけど、イザーちゃんみたいに若くてかわいい子が言うんだったら問題ないと思うよ。ほら、水城アナウンサーだって戦っていた時とは違うギャップがあって驚いたけど、そういうのが好きでも不思議ではないって言ってるよ」
「だから、そういう事を言ってるんじゃなくて、ボクはそんな風に思われるのが恥ずかしいって言ってるの。そんな女の子が好きなものを好きなのって恥ずかしいの」
可愛いものが好きでも恥ずかしくはないだろうと思っていたマーちゃん中尉ではあったが、ここで何かを言って空気を変にするくらいだったら黙って見守っていこうと心に決めていたのだ。マーちゃん中尉が何も言わなければイザー二等兵は勝手にいい方に解釈してくれるという事に期待していたのだ。
「黙っていられるとちょっと気まずいんだけど。そんな風に気まずくさせるマーちゃんの事、本気で殴っちゃうからね」
本気を出されるのはまずいと思ったマーちゃん中尉ではあったが時すでに遅し。イザー二等兵は禍々しい魔法で小さな体話隠すように包み込むと、一瞬だけマーちゃん中尉の方を見てから部屋を出て行ってしまった。
後悔先に立たず。その言葉が何度も何度も頭の中を駆け巡っていったのである。
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