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聖騎士の息子 第九話
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沈黙というのは意外と慣れてしまうもので、僕たちが家に帰ってからずっと誰も口を開いていないのだった。その理由は、セレさんが家から出ていっていた理由が僕に惚れていたからだというくだらないものだったことにコウコが怒ってしまっているからだった。
当事者であるセレさんはいまだに家に帰ってこないのだが、いつの間にか庭に小さな小屋が出来ていた。よくよく聞いてみると、しばらくの間その小屋でセレさんが生活することになるらしい。そんな事だったら僕がその小屋で暮らすと言っても、ノエラは首を縦に振ることは無かった。
「お母さんもおかしいけどお父さんもおかしいよ。正樹が凄く強いってのは観客席で見ててわかったけど、それを差し引いたとしてもお母さんが惚れるって意味が分からない。お父さんはそれでいいと思っているの?」
「それなんだがな、本当に仕方のない事なんだよ。母さんだけじゃなく他の人も女性ならみんな正樹殿に惚れてしまうんだ。そう言う能力が正樹殿には与えられているんだよ」
「何だよそれ。嘘にしても冗談にしても面白くもなんともないよ。それなら、シギもマサキに惚れているってことなのかよ。どうなんだよ。答えろよ」
「私はね、正樹君が来るまで本当にあんたたちの事なんてどうでもいいって思っていたんだよ。でもね、正樹君が近くにいるなら私がしっかりあんたたちの面倒を見ることが出来るってアピールしなくちゃいけないなって思ったんだよ。お母さんはどっか行っちゃったし、私が正樹君のためになんでもしてあげたいなって思うようになったんだ」
「シギまで何言ってんだよ。あんたらみんな頭おかしくなってるよ。そんなんじゃ魔獣が攻めてきても対抗できないじゃないか。お母さんたちが結界に注ぐ魔力を残さないで正樹に対して使ったんだろ。そのせいで今日の夜か明日の朝には結界が無くなっているって聞いているんだからな、聖騎士団が見回りをするにしたって国全体を見ることは不可能だろ。これから国民をどうやって守るって言うんだよ」
「その事なんだがな。実は、解決しているんだよ」
「解決って、結界を維持するのに必要な魔力をどうやって確保したんだよ。もしかして、捕まえた魔獣を無理やり縛り付けて確保したとかいうんじゃないだろうな」
「それがな、正樹殿の魔力で結界は無事に維持できることになったんだ。お前たちももっと喜んでいいんだぞ」
「素直に喜びにくいけど、それはありがとう。でもさ、あの結界を維持するのに必要な魔力って魔導士が百人いても半日もたないって聞いているんだけど?」
「お父さんは魔法の事はあまり詳しくないんだが、正樹殿の魔力を注いだことによって、半永久的に維持できるんじゃないかと言われているんだよ」
「そんなことが出来るわけないだろ。」
「それがな、出来るんだよ。むしろ、強大すぎる魔法によって性質が変わったみたいで、いくらでもためることが出来るようになったそうだ。そのおかげで、お前たちが大人になるくらいまでは平気で残っているみたいだぞ」
「チクショー。こんな家出てってやるよ」
「おい、勝手にどこに行くんだ。今すぐ戻ってこい」
ノエラの説得もむなしくコウコは外へ出てどこかへ行ってしまった。シギもそうなのだが、ノエラはコウコを本気で説得しようとはしていないように見えた。お世話になってしばらく経つのだが、この家族の距離感がいまいちつかめないでいた。
シギは退屈そうに外を眺めているのだけれど、その視線の先にはコウコの姿がうっすらと見えているので、心配はしていないようなそぶりは見せているのに本当は心配しているんだなと感じていた。
食事の時間になってもコウコは戻ってこなかったのだが、二人ともソワソワとしている。僕はお世話になっている恩返しをしたいなと思っていたところなのだが、人探しに出かけるというのは恩返しに含まれるのだろうかと考えていた。
「あの、ご飯を食べ終わったらコウコを探しに行ってみてもいいですか?」
「ああ、申し訳ないがそうしてもらえると助かるよ。だがな、正樹殿に全て任せてしまうのもどうかと思うのだよ。小さな子供でもないので自力で帰ってこれると思うのだが、私が迎えに行ったとしても意地を張って帰ろうとしないだろう。そうだな、そうしよう。すまないが、正樹殿はコウコを迎えに行ってはくれないだろうか。私も一緒に行きたいのだけれど、明日は朝から仕事なので申し訳ないが残らせてもらうよ。シギも行こうとしているが駄目だぞ。お前は家でお父さんと待っていることにしような」
「あんまり期待しないでくださいね。僕は無理やり連れて帰ってくることが出来るかもしれないけど、出来ることなら本人の意思で戻ってきてほしいんですよ。そう言うわけなんで、僕は食べ終わったらすぐに支度して行ってきますね」
「よろしく頼むよ」
僕は残っている料理を少しずつ食べてどれが一番口に合うか決めることにした。見たことも無いような食材をただ焼いていたり煮ていたり油で揚げているだけなのだが、どこか懐かしく優しい味が口の中いっぱいに広がっていった。
それだけではない、飲み物も美味しく、水でさえ金を払って飲んでもいいレベルなのだと本当に感心していた。水が美味しいのだから、料理だっておいしいに決まっている。
「さ、僕はコウコを迎えに行ってくるけど、君たちはこちらから見守っていてくれ。心配しなくたってすぐに連れ戻してくるからね」
当事者であるセレさんはいまだに家に帰ってこないのだが、いつの間にか庭に小さな小屋が出来ていた。よくよく聞いてみると、しばらくの間その小屋でセレさんが生活することになるらしい。そんな事だったら僕がその小屋で暮らすと言っても、ノエラは首を縦に振ることは無かった。
「お母さんもおかしいけどお父さんもおかしいよ。正樹が凄く強いってのは観客席で見ててわかったけど、それを差し引いたとしてもお母さんが惚れるって意味が分からない。お父さんはそれでいいと思っているの?」
「それなんだがな、本当に仕方のない事なんだよ。母さんだけじゃなく他の人も女性ならみんな正樹殿に惚れてしまうんだ。そう言う能力が正樹殿には与えられているんだよ」
「何だよそれ。嘘にしても冗談にしても面白くもなんともないよ。それなら、シギもマサキに惚れているってことなのかよ。どうなんだよ。答えろよ」
「私はね、正樹君が来るまで本当にあんたたちの事なんてどうでもいいって思っていたんだよ。でもね、正樹君が近くにいるなら私がしっかりあんたたちの面倒を見ることが出来るってアピールしなくちゃいけないなって思ったんだよ。お母さんはどっか行っちゃったし、私が正樹君のためになんでもしてあげたいなって思うようになったんだ」
「シギまで何言ってんだよ。あんたらみんな頭おかしくなってるよ。そんなんじゃ魔獣が攻めてきても対抗できないじゃないか。お母さんたちが結界に注ぐ魔力を残さないで正樹に対して使ったんだろ。そのせいで今日の夜か明日の朝には結界が無くなっているって聞いているんだからな、聖騎士団が見回りをするにしたって国全体を見ることは不可能だろ。これから国民をどうやって守るって言うんだよ」
「その事なんだがな。実は、解決しているんだよ」
「解決って、結界を維持するのに必要な魔力をどうやって確保したんだよ。もしかして、捕まえた魔獣を無理やり縛り付けて確保したとかいうんじゃないだろうな」
「それがな、正樹殿の魔力で結界は無事に維持できることになったんだ。お前たちももっと喜んでいいんだぞ」
「素直に喜びにくいけど、それはありがとう。でもさ、あの結界を維持するのに必要な魔力って魔導士が百人いても半日もたないって聞いているんだけど?」
「お父さんは魔法の事はあまり詳しくないんだが、正樹殿の魔力を注いだことによって、半永久的に維持できるんじゃないかと言われているんだよ」
「そんなことが出来るわけないだろ。」
「それがな、出来るんだよ。むしろ、強大すぎる魔法によって性質が変わったみたいで、いくらでもためることが出来るようになったそうだ。そのおかげで、お前たちが大人になるくらいまでは平気で残っているみたいだぞ」
「チクショー。こんな家出てってやるよ」
「おい、勝手にどこに行くんだ。今すぐ戻ってこい」
ノエラの説得もむなしくコウコは外へ出てどこかへ行ってしまった。シギもそうなのだが、ノエラはコウコを本気で説得しようとはしていないように見えた。お世話になってしばらく経つのだが、この家族の距離感がいまいちつかめないでいた。
シギは退屈そうに外を眺めているのだけれど、その視線の先にはコウコの姿がうっすらと見えているので、心配はしていないようなそぶりは見せているのに本当は心配しているんだなと感じていた。
食事の時間になってもコウコは戻ってこなかったのだが、二人ともソワソワとしている。僕はお世話になっている恩返しをしたいなと思っていたところなのだが、人探しに出かけるというのは恩返しに含まれるのだろうかと考えていた。
「あの、ご飯を食べ終わったらコウコを探しに行ってみてもいいですか?」
「ああ、申し訳ないがそうしてもらえると助かるよ。だがな、正樹殿に全て任せてしまうのもどうかと思うのだよ。小さな子供でもないので自力で帰ってこれると思うのだが、私が迎えに行ったとしても意地を張って帰ろうとしないだろう。そうだな、そうしよう。すまないが、正樹殿はコウコを迎えに行ってはくれないだろうか。私も一緒に行きたいのだけれど、明日は朝から仕事なので申し訳ないが残らせてもらうよ。シギも行こうとしているが駄目だぞ。お前は家でお父さんと待っていることにしような」
「あんまり期待しないでくださいね。僕は無理やり連れて帰ってくることが出来るかもしれないけど、出来ることなら本人の意思で戻ってきてほしいんですよ。そう言うわけなんで、僕は食べ終わったらすぐに支度して行ってきますね」
「よろしく頼むよ」
僕は残っている料理を少しずつ食べてどれが一番口に合うか決めることにした。見たことも無いような食材をただ焼いていたり煮ていたり油で揚げているだけなのだが、どこか懐かしく優しい味が口の中いっぱいに広がっていった。
それだけではない、飲み物も美味しく、水でさえ金を払って飲んでもいいレベルなのだと本当に感心していた。水が美味しいのだから、料理だっておいしいに決まっている。
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